レポート10:「反省をして改善をする」
「反省をして改善をする」
「「「ふぅ」」」
俺たちは初めての第一回惑星調査を無事に終えて家に戻り、汗を流して一息ついている。
色々あったのだがまずはそういう精神面を整えるのが大事だとセージに言われたからだ。
まあ、あのまま慌てても何もできないのはその通りだしな。
「お茶を飲むと落ち着きますね」
「うん。ほっとするよ」
「だな。それがお茶の効果だし」
熱いお茶を飲んでのんびりとしている。
とりあえず宇宙船に乗って即座にワープして帰還後、ウィルス検査をして、バイタルチェックとかもやって疲れてはいるのでこういう場は必要だ。
ちなみにセージは俺たちが持ち帰ったサンプルを検分している。
その間に何をするべきかとお茶を飲んで思い出した。
「先ほどは助けてくれてありがとう」
「「え?」」
なぜか助けた2人が驚いた顔をしている。
「えって、俺があのオオトカゲを見て硬直しているとき、カカリアは前に、椿はフォローで後方にすぐに動いてくれただろう?」
「あ、ああ。なるほど。確かにそうですね」
「うん。そう動いたね。でも、あれはフォーメーションだし。僕は裕也を守ったって意識はないんだよな~。まあ、裕也がありがとうっていうならどういたしましてっていうよ」
「ああ、俺が感謝しているからそれでいいよ。ありがとう」
本人たちは助けた意識は無いようだ。
まあ、確かに俺が魔物に襲われたってことじゃないからな。
とはいえ、俺としてはあの怪物を見て何もできないと思っていたから2人の動きに助けられたんだよな。
「その気持ちは分かりましたが、今の話だと対応するのは難しいということでしょうか?」
「あー、実際どうなるかはわからないけど、あの時はとっさに動けなかったな。銃を構えることもできなかった」
「そりゃ問題だね。まあ、ああいう生き物を殺すような生活をしていないから、ためらっちゃうのとありえない状況で固まった感じ?」
「そうそう」
カカリアが意外と俺の気持ちが分かっているようなので頷いて肯定すると、椿が難しそうに口元に手を当てて呟く。
「由々しき問題ですね。裕也さまはあからさまな敵意を持つ相手を敵と判断できないし、攻撃できない。つまり自分の身を危険にさらすことになる。これは訓練が必要です」
「とはいっても訓練できるものか?」
そういうことは実際にヤッてみないとわからないことだしな。
兵士が引き金を始めて引くのに時間が掛かるっていうのは分かるし、初陣を生き抜くことがどれだけ大変かっていうのも実感した。
生きるか死ぬかって場面になればどうにでもなると思っていたが、自分が人の、生き物の命を奪う立場に実際なるとやはり固まってしまう。
これが銃を持つ相手だったらあっさり撃たれて死んでいたのかもしれない。
ああ、体は改造しているから死なないとは思うけど、なおのこと死なないから相手を怒る必要がないとか言い出しそうだな。
死なないからといって相手を傷つけていいわけではないし、それを勝手に許してもいけない。
相応の罰と罪を背負ってもらわないといけない。
つまりだ、こんな考えは自分が生き物を殺したくない、傷つけたくないとい気持ちを通すためのいいわけでしかないのだ。
自分が言わなければ、追及しなければ相手に責任が問われない。っていうのは逆に言えば自分が判断をしなくて済む。
自分の手を下さなくて済むってことだ。
相手を犯罪者として報告するのも本人にとってはそれなりの決断。
いまになって実感することになるなんてなー。
あ、それで椿が訓練って言ってたが、やらないよりもマシではあるか。
宇宙の技術で地球での訓練よりもすごいものがあるかもしれない。
そう期待していると……。
「裕也さん。セージに確認をとりました」
「セージに?」
『話は聞いたわ。まあ、映像を確認したけど裕也の言う通り動けていたとはいいがたいわね』
「ああ、恥ずかしながらな」
『自覚が出来ているならよしよ。ということで、さっきの怪物の分析が終わったからそれを利用するわ』
「データを取って戦うってことか?」
SFでよくあるリアルシミュレーターってやつか?
『ええ。まあ、複製機でリアルの肉体を与えているけどね』
おおう、それは本当にリアルシミュレーターだな。
確かにリアルで経験すれば、作られた生き物とはいえそれはゲームよりもいいのではと思う。
『ちなみに機能のデータの3倍ぐらいにはしているから』
「3倍っておかしくないか?」
『命の危機がないと意味がないでしょ。ま、それでも今の裕也を傷つけるのは難しいんだけど』
俺の体ってどれだけ強化しているんだと改めて思う。
とはいえ、多少は安心して訓練できるだろうと思っていると、カカリアが口を開く。
「ねえセージ。あの3倍っていまの裕也だとボコられるだけじゃない?」
『それぐらいじゃないと意味がないのよ』
え? 3倍ってそんなにやばいのか?
「まあ、そうですね。ここは甘くする意味はありません。厳しい状況を切り抜けてこそ実力が身に付くというものです」
「確かにねぇ。僕たちとの戦闘で手加減はしてたし、あとはちゃんと動けるかどうかだし」
言っていることは分かる。
多少不安はあるが……。
「そうだな。俺はやる。元々自分が動けないのが問題なんだしな」
ここは覚悟を決めてやる。
死にたくはないし、何より宇宙でする仕事を手放したくはないと思っている。
とはいえ……。
「セージ。今の話だとあの怪物の情報は集まっているんだろう?」
『ん? まあね。とはいえなんであの場所にいきなり現れたのかはまだ調査中よ』
「それは調べてもらうとして、訓練する前にあの怪物の情報をくれ。事前調査は大事だろう?」
『ああ、そういうこと? 突発的な遭遇戦の対応力も欲しんだけど……ま、いきなり求めすぎか。わかったわ』
セージがそう返事をしたと思うと、目の前に投影モニターが現れて怪物の情報が表示される。
『主な攻撃方法は、爪や牙での刺突、切断。そして背中や腕に生えている棘を使ってのタックルでの衝撃と刺突ね』
「無茶苦茶攻撃手段多いな」
『そうね。とはいえ地球上でもこういうタイプの生物はいるから特に不思議でもないわ』
「いやー棘とか生えているのは聞いたことないぞ。熊とかトラは牙爪は分かるけどさ」
『そういうのは基本的に捕食者がいないのよ。食べられる危険性がある生き物、例えばウニとか貝とか、あとは甲殻類とか、爬虫類とか、まあ例を出せばかなりいるわよ』
「あー、確かに。そう考えると別に不思議でもないのか」
ただ自分の身近にはいないってことだけか。
とりあえず、基礎的な情報を得たことで俺は宇宙船のシミュレーションルームに向かう。
「では、私たちは外から見ていますので」
「頑張ってー」
椿とカカリアがお目付け役で俺は訓練を開始する。
複製機で複製された先ほどのオオトカゲが現れていきなりこっちにとびかかってくる。
さっきの本物よりかなり素早い。あれが3倍か。
赤く塗れよと思いつつ慌てて飛びひいて距離を取ろうと思ったが。
「ガァァァァ!」
と雄たけびを上げたかと思えば、そのまま追撃が入ってきた。
そのまま二連撃に切り替えたって感じだ。
油断した俺は持っていたビームソードで咄嗟にガードして、運よく切り飛ばす。
ビームソードだから原理としては焼き切ったっていうのが正しいんだろうな。
武器の性能が良すぎるってやつだ。
相手は攻撃を防がれても致命傷になりかねない。
とは言え、防御の練習にならないから、ビームソードを刀モードに切り替える。
これは峰の方で攻撃をすれば非殺傷モードになり、ガードのさいは相手を切り飛ばさないようにするのだ。
対人戦では重宝しそうだな。
そんなことを考えつつ、怯んでいたオオトカゲはようやくこちらをまた攻撃するそぶりを見せたので俺は今度は逆に踏み込んでビームソードを振り抜く。
「ぐげ?」
そんな声を上げたかオオトカゲは胴体から真っ二つになっていた。
うん。こんなもんだな。
俺はイメージ通りに動けたことに納得しつつ……。
「意外とショック受けないな」
覚悟を決めていたから。
それとも敵意を露骨に持っていたからなのか。
いや、これが作られたからと知っていたからか?
まあ、ともかくボコボコにされることなく第一戦目を終えた。
『あら意外。思ったよりも動けたわね』
「裕也さんお見事です」
「あれじゃない? ただ初めて見る生き物で思考停止してたとか」
「カカリアの言う通りかもな。そういえば昔は田舎の知り合いの家で鶏とか絞めることはしてたしな」
意外とそういう割り切りは出来ているのかもしれない。
魚とか釣って食べるために殺すのにも抵抗ないしな。
『ま、いいことだわ。でも一回だけでは偶然ともいえるわ。だからもう少し頑張ってね』
「そうだな。一回だけじゃ俺も心配だ」
とりあえずこういうことは積み重ねだしな。
そう思って俺は再びビームソードをもって訓練を再開する。
そして結局今日は俺は訓練で残りの時間がつぶれることになり、畑の拡張計画や家の掃除は手付かずとなった。
改めてその時間は取る必要はあるなと考えつつ、オオトカゲをばっさばっさと切り払っているのだから、やっぱり俺ってパニックで思考停止になってたんだろうなーと思う。
そのさなか、俺はあることに気がついた。
「なあ、これって食べられるのか?」
「「『え』」」
なぜか俺よりも食べられるものを多く知っているはずのガイノイドたちが揃って驚きの声を上げた。
いや、命を奪ったんだ。
捨てるしかないならそうするが、いただけるものがいただくのが命に対する敬意だろう?
まずければ以降はないけど。
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