レポート9:「トラブルがないというのはない」
「トラブルがないというのはない」
トラブルというのはどういう認識だろうか?
問題が起こる。
そういう認識しかないだろう。
しかし、どの程度のトラブル、問題を対象にするのかというと個人差がある。
反省会などは些細なことでもトラブルとして認識して、改善することで組織の運用を円滑にするものだ。
まあ、やりすぎると粗探しみたいになって嫌になることもあるから、程度の問題なんだが。
つまりだ……。
「意外と、疲れるな」
「……そうですね。体力的には問題ないはずですけど」
「まあ、同じ行動ばかりしてるからね~」
俺たちはお昼休憩をしながらあたりを見回す。
どこを見ても木から木、草から草。
そして、スキャンするのは基本的に植物ばかりで見た目がほぼ変わらないタイプばかりで、俺は何が違うか割らず単純作業の繰り返しでつらくなってきている。
それは椿たちも同じらしく、ビニールシーツ座って頭をがっくりと下げている。
『私は見る物見る物が新鮮で楽しいんだけど。あ、この新種遺伝子配列面白い』
セージだけは研究者としての特性のおかげなのか送るデータを見ては喜んでいる。
喜んでこっちにも解析データを送ってくるんだけど、全然テンションが上がらない。
なんというか感覚的には、草刈りをしている感じなんだよな。
「はぁ、これは問題だな。家に戻ったら反省会の最大の議題だ」
「ええ。もうちょっと集中力が続く方法を考えないといけませんね」
「ゲームしながらは……無理だし。しりとりでもする?」
「しりとりなー。……それぐらいしか思いつかないが俺が勝てる気がしない」
ガイノイドたちの記憶量はとんでもない。
それに凡人の俺が勝てるとは思えなえい。
意外と大人がしりとりをやると怖いゲームになるのだ。
いや戦略なんだが、同じ単語を繰り返させるのだ「しりとり」なら「り」を返すようにすれば「り」の単語は減っていく。
いかにストックを持っているかが大事なのだ。
その記憶勝負でガイノイドに勝てるかってことだ。
それを察したらしい椿は……。
「確かにしりとりは声を出すので周りを刺激してよくないかもしれないです」
「それもあるよな」
「あーそっか。動物とかって感覚鋭いしね」
ということで、俺たちは「意外と惑星調査」はきついのだというトラブルに気が付いたわけだ。
確かに一種類4万円と破格なものだけど、辛いものはつらい。
まあ、今日一日ぐらいは持つだろう。
とはいえこれがずっと続くとなるとなえてくるのも事実。
『退屈なのは分かったわ。それなら私の方でターゲットを設定するからそれを探すのはどう?』
「え? どういうこと?」
『私が指示したものを探すの。あれよ宝探しみたいな?』
「やる~! っていうと思った? どうせまた葉っぱでしょ、もう葉っぱは見飽きたんだよね~。果実とか言われてもそれを真っ先に見つけるだけだしそれって意味ないでしょ?」
『むう。いい案だと思ったんだけど難しいわね』
俺はいい線いっているとは思ったけどな。
まあ、植物をスキャンすることに飽きている状態なので、タイミングは悪いってことか。
「セージの言う方法は始めた時にやるべきだったな。それなら多少気合がはいっただろう」
「確かにそうですね」
「そう? 最初は初めての調査と報酬でテンション上がってたじゃん」
『今回はね。でもこれから初めてはないから、そのために目標を設定するのはいいと思うわ』
「セージの意見採用。明日からはそうしよう」
そうしないとモチベーションを保てない。
というか、お金がはっきりともらえるとわかっていてこれなんだから、昔戦争時に単調作業の繰り返しを捕虜の気力を削ぐための作業としてたのだから物凄くきつかったんだろうな。
単調作業が得意な人もいるから適材適所ってところなんだろう。
そこまで考えてピンときた。
「あと時間制限を採用だな」
「時間制限ですか?」
「ああ。こうやってスキャンをするのは午前中の間とかにするんだ。これから同じ作業が続くよりもいいだろう?」
「あ、それいい。僕さんせー!」
「私もいいとは思いますがそれではこれからどうしますか? このまま帰るのですか?」
『あ~、それはそれでいいわね。畑の開拓作業の相談とか、家の掃除も始めないといけないし』
「そうだな。セージの言う通り家の仕事をこなそう。そっちの方が楽しいだろう」
やることはいっぱいあるのだ。
とりあえず午前中の調査だけでセージがマークを付けてくれた70種のうち60種は終わっているのだ。
つまり240万円は稼いでいるってこと。
十分な稼ぎだろう。
そして何より仕事は楽しみながらやる方がいいに決まっている。
方針が決まったので、お弁当を食べて休憩が終わったら家に戻ることにしたのだが、そのおかげで改めて自分の視界に映るモノをしっかり見てみることにする。
「裕也さんどうかしましたか? 何か気になることでも?」
俺が急に遠くを見つめだしたので心配になったんだろう。
俺としても隠す理由はないので素直に話すことにする。
「いや、ここが異世界なんだなーってさ。改めて思ったわけだ」
そう俺の視界に映るものは異世界の風景。
「ん? そういえば異世界って表現あってるのか?」
「あってると思うよ。異なる世界だし。まあ厳密にいうと星が違うんだけど。あれだよね異世界ってなるとファンタジーっぽいもんね」
「そうそう。宇宙船できているからSFだし間違ってないか不安になった」
「確かにそういわれると何か違う気がしないでもないですね」
『じゃ、その異世界の風景を改めてゆっくり見た感想は?』
「いやー、やっぱり山の中は動きずらいな」
「「『あははは』」」
と3人がわらう。
そうじっくり見てみたが結局のところ手を入れていない森でしかないのだ。
俺の近所と違うのはせいぜい生態系とほぼ平地に森が存在していることぐらいだ。
日本だと森って山に存在するものだから斜面のイメージしかないんだよな。
「とりあえず今のところ知らない森に来たぐらいの感じだな。異世界っぽいところはあまりないし」
『そういうところを選んだからね。いきなり情報過多なところに送り込んでパニックを起こしても問題なのよ』
「ああ、そういう配慮もあったんだな」
確かに事前に映像で見たクモの怪物のようなものがいるところに送られてもパニックは確実だし、この世界の町に送り込まれても同様だっただろう。
森を選んだのはこの場所なら俺がそこまで慌てないだろうっていうのもあっての選定方法だったわけか。
「ありがとう」
『いいえ。そのために私がいるんですもの』
「あの、私も裕也さんが困らないようにこうして一緒にいるのですが?」
「そうだよ~。お礼を言うのはセージだけかな~」
と、2人が不満そうに言ってくる。
確かにセージだけにお礼を言うのは間違いだな。
「2人もありがとう。そしてこれからもよろしくな」
2人もその言葉でうれしそうな笑顔になる。
さて、休憩はそろそろ1時間だし片付けをと思っていると。
『え? 何これ? 3人ともレーダーを起動して。というか目視して、目の前に生体反応があるわ!』
セージが叫ぶような声で一気に辺りが緊張感に包まれる。
だが……。
「セージ。目視では何も確認できません」
「だね。なーんにも見えないよ」
「俺も何も見えないな。とりあえずレーダー起動する」
目視では何も確認できない。
光学迷彩でもしているのかと思って身構えつつレーダーを確認すると確かに生体反応がある。
でも形などははっきりしない。
人なのか動物なのか鳥なのかというのもさっぱりだ。
「逃げた方がいいのか?」
『……判断が難しいところね。背中を見せた途端襲われる可能性があるわ。とりあえず、カカリアは裕也の前に、椿は後ろを』
セージの指示で即座に武器を構えたカカリアが俺の前に出てくる。
なんでカカリアを前にと思ったが、視界が開けているのに気が付いた。
身長が低いってことは仲間の視界を邪魔しないってことでもあるわけか。
そんなことを考えつつ、目に映らない何かをとらえようと生体反応があるところを凝視していると不意に。
小さい石みたいなものが浮かんでいるのに気が付いた。
直径1センチもないぐらいだ?
意識しなければ気が付かないほど。
それでそれに気が付いた瞬間、いきなりその空間に大きなトカゲが現れた。
どちらかというとどこかのゲームに出てくるモンスターのような刺々しく毒々しいオオトカゲで牙も生えている。
「確認しました。いきなり出現したように見えましたが、セージそちらからは?」
『私のモニターからもいきなり出現したように見えるわ。とりあえず誰かスキャンして、あとは襲ってくるなら殺して良し!』
「了解」
俺は幸い片付けのためにスキャナーを握っていてすぐにスキャンを開始して完了する。
早いのは助かるね。
バッ!
俺がスキャンできて安心している隙をついてそのオオトカゲはこちらに向かって文字通り飛んできた。
しかも大きな爪を振り下ろしながら。
やべえと思っていると、次の瞬間にはオオトカゲの後方にカカリアが出現していて、オオトカゲは両手両足があらぬ方向に切り飛ばされ、胴体は頭から真っ二つとなって俺と椿を避けて後方に飛んで行った。
「おおう」
いきなりのグロ画像。
『気持ちはわかるけど、不可解な現象が起きたからそのサンプル回収後すぐに宇宙船に乗りなさい。すでに到着しているから。安全第一で撤退よ』
「「「了解」」」
セージの言うことに誰も文句を言うことなく俺はオオトカゲを回収することはなく真っ先に椿とカカリアから宇宙船に戻さることになった。
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