レポート7:「惑星の情報」

「惑星の情報」



「おはようございます。野田さん」


そういって爽やかな笑顔で玄関にたたずむ佐藤さん。

対して俺だが……。


「お、おはよう、ございます。こ、こんな姿で申し訳ない」

「ごめんなさい。佐藤さん。昨日結構激しくしちゃってね」


と、セージが笑って返す。


「二日で詰め込みますからね。仕方がありませんよ。そのままで、これが調査予定の惑星の情報です。椿さんにお渡ししておきますね」


佐藤さんは書類が入っているであろう封筒をそのまま椿に渡す。


「では、私はこれで」

「え? もう行くんですか?」

「はい。野田さんとのんびりお茶を頂きたい気持ちもあるのですが、ちょっと忙しいもので。申し訳ない」

「いえ。こちらも気が利きませんで申し訳ありません」

「いえいえ。では、惑星調査楽しんでください」

「はい」


俺がそう返事をすると佐藤さんはすぐに踵を返して出て行ってしまう。


「でも、この筋肉痛が収まらないとな……」


仕事頑張ってとは言われたが昨日の戦闘訓練で体がバキバキになってしまった。

いやー、体が思うようにというか超人のように動くから調子に乗った結果がこれだ。


「あ、それは大丈夫だよ。宇宙船の治療カプセルで治るから」

「え? なんでそれを早く言わないんだよ」

「裕也さんの限界を知るためです。無理をしてはそうなると覚えておかないと自滅いたしますから」

「そうね。いくら強くなってもけがをするし、無理をすれば不調になるっていうのは覚えておいて損はないわ」

「あれだよ。パワーアップして調子に乗ったあとガス欠って漫画でよくあるでしょ? それを防ぐためだよ」

「……そういわれると何にも言えないな」


確かに調子に乗った結果だ。

でも、その訓練に付き合って常に圧倒していたこの3人はやはりガイノイドなんだなーと実感した。

彼女たち3人がいれば何とかなるだろう。

というか文明が発展してない惑星なら無敵じゃないかと思うほどだ。

無双できそうだ。

いや、それこそ油断ってことか。

スーツにはシールド機能や治癒機能があるとはいえ、それを上回る何かがあるかもしれないし、無駄に攻撃を受けるような立場になる必要性はない。

味方が多いに越したことはないんだから。


そんなことを考えられなくなるようになるのが、力を持つと馬鹿になるってやつだな。

俺は改めて自分を戒めておく。


どこかの漫画で俺は誰にも負けない!と調子に乗る気持ちがわかってしまうことになるとは。

というか目の前の3人にも勝てないんだし誰にも負けない3人意外とか、滑稽すぎるわ。

そんな感じのことを考えながら、椿たちに引っ張られて宇宙船の治療カプセルに入れられる。


「では、30分もすれば治ると思いますので、そのあとは佐藤さんから受け取った情報をもとに惑星調査予定を立てましょう」


たった30分の休みかよ。

技術の進歩も考え物だなと思いつつ、わずかに得られた休息を満喫することにする。

実際治療カプセルはどういうモノかと思っていたが、何か治療液みたいなものを入れられることもなく、ただ中に入っていると疲れが取れていくような感じだ。

これ逆に暇だなと思ってポケットに入れているスマホを取り出して時間をつぶす。

とはいえ、たった30分なので漫画を一つ読んでいると終わってしまう。


「どう? 体調?」


俺を迎えに来たカカリアが様子を聞いてくる。


「ああ、筋肉痛とか治ったな。一体どうやってるんだ?」

「空気中にナノマシンを散布して乳酸とかそういう疲労の元を取っているってやつ。もちろん訓練で筋肉の炎症とかも治しているんだ」

「ナノマシンか~。そういうのもあるんだな」

「あるよ。と、問題ないなら居間にいこう。椿とセージが待ってるよ」

「わかった」


ということで、俺は自然に宇宙船から出て自宅へと戻る。

しかし、昨日のカプセル学習で宇宙船の操作に関しては何も読まなくてもできると自信を持って言えるのは不思議だ。

扱った記憶がないのに、操作方法はわかるという感じだ。

なんだろうな。車の車種が違っても運転方法はわかるという感じだ。

配置なんかもなんとなくわかる。

これが知識だけを手に入れるってやつなんだろうな。

そんなことを考えつつ今に戻ると椿とセージが待っていて。


「体調はどうですか?」

「問題はない?」

「ああ、大丈夫。すっかり良くなった」


カカリアと同じように俺の体調を心配してくれるのでその場でぴょんぴょんとして見せる。


「大丈夫そうですね。では、さっそく惑星調査の説明をはじめます。セージ」

「ええ。任せて」


どうやら当初の設定どおり研究者のようないでたち、つまり白衣をまとったセージが説明を始める。

資料を広げてなんてことはせず、空中投影モニターを出現させての説明だ。

いやー、本当に未来だな~と思いつつ話を聞く。


「まず、惑星の名前っていうのはないけど、場所はここ」


そうセージが言うと、ある場所が拡大されて一つの惑星が表示される。


「地球から約5000光年離れた場所になるわ。管理番号は42837329番、遠方からのスキャンでは人型生命体、動植物の確認もされているわ。環境に関しては地球と酷似しているから、宇宙服がなくても活動可能ね」


さらに詳細なデータが惑星からタブを付けたように現れる。

気温はマイナス50からプラス50ぐらい。

とはいえ、これは北極南極な砂漠などの極端な位置で、基本的な平均値は30からマイナス10ぐらい。

総人口は約1億いるかいないか。

動植物に関しては詳細は不明、ただスキャンで認識できる限りは4000万種ぐらい。

まあ、ほぼ同じで別種というのもあるだろうから、実際に調べないとわからない。


「この惑星のサイズも地球とほぼ同じ。それから考えると総人口が1億って考えると少なく感じるけど、惑星ないの文明が……」


セージが説明を止めて新しくデータを投影するとそこにはわかりやすいお城が表示される。


「この手合いのお城が至る所に建設されているわ。こんな古臭い権力の象徴と合わせて石造りの防壁を考えると文明的には中世がいいところね。最悪木で防壁を作っているところもあるわ」


さらに丸太を地面に打ち込んでそのまま壁にしているような映像も映し出される。


「主な武器に関しても、剣、槍、弓、バリスタ、投石器ってところだからまず間違いはないと思うわ。でも、一つだけ注意する点があって」


次に打ちしだされたのは上空からの映像だ。

おそらくどこかの戦場で多くの人が二つに分かれて向き合いぶつかり合っているのがわかる。

その時一部の集団から火球が飛んで、反対側の組織から水の塊が飛んでいるのが見える。


「これって魔法か?」

「そうね。私たちからすれば魔法ね。でも、どういう原理で起こっているのかはわかっていないわ。まだ魔法と断定するのは早計ね。ということでこういう力を持つ人もいるから、それに準じて傷を治す力もあるんじゃないかって憶測が建てられるわ。だからそこそこ人口が多いんじゃないかっておもっているの。地球の中世での総人口なんて3000万もいればいいぐらいだったし」

「その3倍以上ってなるとかなり発展しているんだろうな」

「でも、意外と人の生存圏は少ないのよ。大型の動物と争っているのが確認できているわ」


次の映像にはどこからどう見ても大型のクモみたいな怪物とやり合っている人たちが映る。

それを見ているとクモが足を振り上げて一人の男性に振り下ろし頭から串刺しにされる。


「おおう」


なんてグロ画像。

思わず声を出してしまうが、そのクモと対峙している人々はそれを隙として躍りかかっていく。

後方から魔法みたいなものを打つ女性たちも確認できる。


「こういう凶暴な生物が徘徊している世界らしいわ。だから回復や治療に特化した能力があるんじゃないかって思っているの」

「なるほどな。で、ここに調査に行くのって危険すぎないか?」


俺こんなところに行ったら1日も生きていける自信はない。

佐藤さん危険はないって言ったじゃないですか。

と思っているとセージがちょっと信じられないような顔をして。


「なんのために昨日身体強化したと思ってるのよ」

「あ」


言われて思い出した。

今の俺はプチスーパーマンみたいなものだ。

高さ100メートルから落下しても死なないし、自分でそこぐらいまでジャンプもたやすい。

もちろんその落下ダメージに耐えられるほどの耐久性も獲得しているし、スーツによるシールド機能もある。

周りに岩石が落ちてきたとしても、溶岩に落とされたとしてもシールド機能で周りを消滅させて安全を確保できるのだ。

……うん、この程度は危険ではないのか。


「セージ。あなたの言っていることはわかりますが、裕也さんは昨日までは普通の人だったのです。その認識を引きずるのは普通ですよ。なによりあまり露骨に超人であるようなことを見せつけるとかえって警戒されますから、これぐらいがちょうどいいと思いますけど?」


呆けている俺に椿がフォローをしてくれる。

助かる。たとえ身体能力が上がったとはいえ、心は一般人のままだ。

怖いことは怖い。


「それはわかっているわよ。でも、惑星調査をするんだからそういう危険はつきものよ。それぐらいの覚悟はしていなさいってこと。裕也わかるわよね?」

「まあ、それはな」


ちょっと甘く見ていたのは事実だ。

敵と戦うことなんてまれだろうと。

とはいえ、地球よりも文明が発展していないところなんだら、そういう危険性は地球よりも上だというのは当然のこと。


「大丈夫だって。僕が守るからね。そうそう危険なことにはならないよ。何よりこの刀使ってみたいし」


そういってフォローするカカリアは楽しそうに昨日専用で作り出したサムライブレードを取り出している。

それは俺を守るんじゃなくて大義名分で切る相手が欲しいだけではとは言えなかった。


「何言ってるのよ。普通に銃タイプを使いなさい。相手に合わせて接近戦とか馬鹿のすることよ」

「ぶう」

「裕也が怪我をするようなことになればあんたをの尻を腫れあがるまでぶつわよ」

「それはいやだ」

「わかったよ。じゃビームが出る剣にする」

「そうしなさい」


いや、ビームが出る剣あるのかよ。

あれか? スターウォー〇かよ?


「それでこれらの情報を集めてどこの調査をするかだけれど……」


またモニターに映る惑星の一部に黄色いピンが打たれる。


「近くにそれなりの町があって、周りには村が数か所。そして徒歩で10日前後のところに城、たぶん王都があると思われるわ。だからこの森の空き地へ降下して調査を始めたらと思っていけど、裕也はどうする?」

「さっき見せてくれた怪物みたいな脅威は?」

「あんなボスみたいなのはいないわね。せいぜい狼やイノシシぐらい」

「……十分に脅威だと思うが、まあそれぐらいはどこにでもいるんだろうな」

「ええ。いるわね」

「ならここで調査をしよう。一週間はここで日帰り調査をして、上手くいくようだったらそのまま町や村へ進出して調査範囲を広げる」


俺がそういうと3人ともうなずく。


「それがいいかと思います」

「そうね。それが無難よ」

「じゃ、調査の準備しよー!」


ということでさっそく明日出発するために動き出すのであった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る