レポート5:「彼女たちとの初日」

「彼女たちとの初日」



佐藤さんが去ったあと、俺たちは改めて挨拶をすることになった。


「じゃ、改めて、俺が今回惑星調査員として雇用された野田裕也だ。よろしくな」

「はい。よろしくお願いいたします。主様」


そう椿が返すので、そこから注意していくことにした。


「呼び方は主じゃなくて、野田か、裕也で頼む。さっきちょっと話したが、主とか主君だから偉そうにするというのはもうかなり時代遅れなんだ。亭主関白についてはその家庭環境しだいだけど、俺はそういうのに興味はない。自分のことは自分でやる派だ」


これから生活をするのに主とか呼ばせているとか近所の人たちに知れたらどんな目で見られるか。


「なるほど。でしたら私は裕也さんと」

「じゃ、私も裕也ね。名前呼びの方が自然でしょ」

「うん。じゃ、僕も裕也で」


とりあえず俺の呼び方は裕也で決まったようだ。

椿だけさん付けなのは性格からか?


「それでよろしく。じゃ、さっそく説明をというべきだが、その前に生活の場所を用意しないといけない」

「それはどういう意味でしょうか?」

「どの部屋に寝るかって話だな。場所の好みは人それぞれだ。そこを選ばないとな。あと布団とかも宇宙船の複製機で作れるって聞いたが?」

「できるわよ。確かにもう日が暮れてきているし、寝る場所がないとつらいわね」

「うん。ガイノイドだけどほとんど生体部品だしね。ちゃんと睡眠や休憩、そして食事は必要だもんね」

「あ、そこだが注意してほしい。確かに治るんだろうが、そういう言い回しはしないでほしい。ほかの人に怪しまれるかもしれないし、俺としても治せばいいだなんて思ってないからな。ケガをしないことに越したことはない」

「あ、うん。そうだよね。ごめん」


カカリアはそうすぐに謝る。

ここら辺の常識みたいなことはあるのか。

ま、そこらへんも徐々に知っていくしかないな。


「よし、じゃ早速3人の部屋兼寝室を選ぼう。敷布団かベッドをよういするかは任せる」


幸いそれなりに大きい屋敷だからな。

ということで、家を案内する。


「裕也さんはこの土地の有力者なのでしょうか?」

「こんな立派な屋敷をもってるからそうなんじゃない?」

「だよねー。あれ、歴史あるってやつ?」


どうやら俺の素性についてはインプットされていないようだ。

まあ、これも相互理解のためか。


「いや、この家は……」


俺がこの屋敷を購入した経緯を説明したついでに部屋の半分は片付いていないということ、土蔵の整理すらできないというのも話した。


「こんな立派なお屋敷を捨て値で」

「なんというか、空しい話だね」

「栄枯盛衰ってやつだね。それで家の掃除も必要ってことか」

「ああ、だからそれでも手伝ってもらう。機械で勝手に選別ってわけにもいかないからな。歴史的に価値のあるものが出てくるかもしれないしな」

「なるほど。そういうのもあるのですね」

「これだけ古いならそういうお宝があるかもってわくわくするわね」

「僕、刀! 刀ほしい! 日本の最強武器でしょう!」

「カカリアはどうしてそういう知識があるんだ?」

「えーと、随時日本のネットにつなげて情報収集しているから」

「え? そんなことできるのか?」

「うん。そうでもないといつまでたっても裕也に迷惑かけるからね。で、日本刀をっていうのは漫画の影響だよ。あの逆刃の刀の漫画いいねー」


ああ、伝説の人斬りの奴か。


「俺も好きだ。でも、その話や宝探しの前に部屋を決めないとな」

「そうですね。裕也さんが好きだという漫画は興味ありますが、まずは寝るところを確保しないと風邪をひいてしまいます」

「そうね。まずは部屋の確保よ。カカリア」

「わかってるってセージ」


とはいえ、屋敷の3分の1はまだ掃除が終わっていないので、俺の寝室の両隣、奥をそのまま部屋にすることになった。

寝具に関しては敷布団を全員選択。

まあ、襖で隔てているだけで収納スペースもないから敷布団の方が畳めて便利なんだよな。

あとは個人的な家具を用意してもらって終わりだから俺が手をだすことはない。


その間に俺は本日のごはんの用意をする。

俺を含めて4人分となると大仕事だな。

ご飯も炊いて、その間におかずの準備、汁物は味噌汁しかないな具材は大根でいいか。

おかずは……近所のばあちゃんたちからじゃいもとかもらってるから、肉じゃがかな?

作っている途中で日本食になっているなーと思ったがこれはこれで良いかと思ってそのまま作ることになる。

そして、俺の料理が終盤になったところで……。


「あの、部屋の用意がおわりました」

「問題なく寝られるよ」

「そりゃよかった。じゃ、こっちを手伝ってくれ。ご飯の用意ができた」

「ごはん! 僕、初めてだから期待してる!」


そうか、彼女たちは作られたばかりだ。

知識では知っているが、経験したことはないってことか。


「あ、そうなるとはしって使えるか?」

「はい。多分」

「知識とはしてはあるわ。歩くのも問題なかったし多分できる」

「というかほら」


カカリアは用意されたはしを器用にもって使って見せる。

うん。日本人と比べても問題ないぐらい使えるな。


「問題ないな。じゃ、とりあえず居間に運んで」

「「「はい」」」


普段ならキッチンがあるこの部屋のテーブルでささっと食べるのだが、人数がいるからな。

今後は居間で食べることになるだろう。

とりあえずお代わりができるように、炊飯器と肉じゃが鍋、お味噌汁の鍋をもって移動する。

配膳を済ませて、俺は両手を合わせて……ん?


「ああ、食前の挨拶はしっているか?」

「はい。これは今でも残っているんですね」

「大丈夫よ。わかるわ」

「漫画を読んでるからばっちり」

「よし、じゃあ……」


「「「いただきます」」」


そう言って晩御飯をいただく。

うん、いつもの通りの味だ。

問題は彼女たちだが……。


「これが、食べるということですか」

「不思議ね。エネルギー補給効率でいうと非効率だけど……」

「美味しいね! 沢山食べられるよ!」

「ええ。お米が美味しい。お味噌汁も、肉じゃがも」

「これが生きるってことなのね。しかも美味しい?っていうのかしら、これなら佐藤さんたちが食べたいっていうのもわかるかも」

「なんか、佐藤さんの情報だとあっちは味気ないって言ってたしね」


気になることをカカリアが言っていたので、俺も口を挟む。


「宇宙食って駄目なのか?」

「そうみたい。僕の知識だとゼリー状のものを食べるだけ。味もほとんどなし」

「効率でいうととてもいいんだけどね。栄養価も高いし。でも、これを食べるとね……」

「……アレは駄目ですね」


控え目の椿までダメ出しをする始末。

知識だけの物でそこまでぼろくそに言われる食事とは何なのだろうか?

返って興味が湧いてしまう。


「気になる?」

「そりゃな」

「じゃ、ちょっと待ってて」


そう言って、カカリアは席を立って居間を出ていく。


「あ、おい」

「カカリア! 裕也さんが用意してくれたのに席を立つなんて!」

「裕也、椿おちついて。気になるって言った宇宙食取りに行ったのよ。すぐに戻るわ」


ああ、なるほど。

となると俺が原因か。


「すまん椿。俺の言葉が不用意だった」

「いえ。カカリアが申し訳ありません」

「でも、意外とカカリアって行動派ね。裕也はそういう性格にしたの?」

「ん~。明るく活発っていう風にはしたけどな」

「だとしても礼儀はわきまえるべきです」

「それはそうだ。これは後で注意すればいいさ。椿もセージも失敗しても改めればいい」


失敗しない奴なんていないんだし。

そんなことを考えていると、ドタドタと足音を立ててカカリアが戻って来た。


「ただいまー! 持って来たよ!」


そう言ってどこかで見た速攻補給ゼリーに似た物を持って来た。

しかもなぜか全員分。


「さ、食べてみて」

「あ、ああ」


俺がいいだしたことだ。

食べないわけにはいかないだろう。

しかしパッと見た目、パッケージも書いてないからちょと怪しい飲み物に見えてしまう。

ええい、覚悟を決めろ。

そう思って口を付けてパックを手でつかみ押しつぶすと口にゼリーが入ってくる。


「……」

「どう?」

「……ん~、味のないゼリーだな」

「でしょ?」


本当にその通り。

ただの柔らかい水を口に押し込んでいるような感じだ。

……あれか?ローションを口に含んでいる感じ?

それを考えるとなんか気分が……。


「あ、無理しなくていいよ。なんか水を口で咀嚼するって変だもんね」

「そうです。無理はいけません」

「そうね。これはあくまでも非常用。佐藤さんたちもこれが嫌だから美味しい食べ物が欲しいって言っているの」

「なっとくだな。確かに効率を重視するならこれでいいだろうが、セージの言う通り効率的過ぎる。これは生き物を機械にするかんじだ。だから、美味しい食べ物を求めるのかな。自分たちは生き物だというかんじで。欲を求めるわけだ」

「欲ですか」

「ああ、確かそんな本を読んだ気がする。人が人足りうるのは自我という欲があるからってな。あとは……我思う、故に我在りっていうのは違うか?」

「自己を確認する言葉だから間違いでもないと思うわ」

「難しいよねー。僕たちガイノイドも心って言われるとわからないし」


と、なんか哲学っぽい話になってしまった。

そんな辛気臭い顔で飯を食べるつもりはない。


「ま、難しいことはいいとして、しっかり食べてしっかり寝て明日に備えよう。改めていただきます」

「そうですね。いただきます」

「そうね。美味しいものを食べるのが大事ね」

「うんうん。いただきまーす!」


こんな感じで彼女たちとの生活初日はなんというか文化に違いに戸惑いながらもなんとか暮らしているって感じになっている。

さて、明日はどうするべきかなーとご飯を食べながら考えるのであった。


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