レポート3:「希望はあるかと言われると意外とこまります」

「希望はあるかと言われると意外とこまります」



昨日衝撃的なことがあったはずなのだが、人は意外と慣れるのか平静にいようとするのか、意外と落ち着いて寝て起きて、畑仕事をして朝飯を食べて佐藤さんの来訪を待っていた。


来訪予定時刻は10時。

只今の時刻は9時35分。


何とも微妙な時間だ。

何をするにも時間が少なすぎるし、かといって待つのは退屈だ。

とりあえず、テレビでも見るかと電源をオンにする。


『本日の天気ですが……』


どうやらニュースの天気予報の時間らしい。

この時間は基本的に掃除が畑仕事かってところだから、あまりテレビをみることがないから新鮮だ。

というか最近はパソコンで動画を見るほうが楽しいので、あまりテレビを見た記憶がない。


「これも時代の流れかね~」


最新の情報を流すかと思っていたテレビも今やネットニュースには及ばないし、動画を上げる有志たちのほうがよっぽど真実味を増しているときもある。

まあ、情報過多なこの時代。それを的確に読み取って判断する必要はあるんだが。

しかし、こうしてテレビをぼーっと見るのも悪くない。

自分が探してもいない情報を提供してくれるので、はっとさせられる時がある。

例えば……。


『先週オープンしたばかりのお店……』

「へぇ、あそこに新しいのができたのか」


田舎故、町の情報はそこまで入ってこないので、こういうニュースで知れるのはいいことだ。

自分で意図して調べたいことではないが、美味しい食べ物となると興味はでてくる。


「今度行ってみよっと」


そう思って、スマホにメモをする。

よし、これで今週末の予定は一つ決まったな。

と、思っていると……。


ピンポーン。


家のインターホンが鳴る。

古い家なのに、こういうところは最新式なのが今でも違和感があるが、安全のためにもこういうのは必要だ。

ちゃんと、モニターを確認すると佐藤さんだったので、そのまま玄関へ向かいドアを開ける。


ガラガラ……。


引き戸を開けて佐藤さんを迎え入れる。


「おはようございます。いや、昨日も来ましたが引き戸もいいですね~」

「おはようございます。日本家屋に興味が?」

「ええ。なんというか安全面を考えるとちょっと不安はありますが、それを置いても風情がいいです。宇宙船内の内装変えてみますかね? 畳とかも好きなんですよ」

「井草の香りはいいですよね~。と、立ち話もなんですしどうぞ」

「はい。お邪魔いたします」


雑談も交えつつ昨日話した今の方へと移動して、お茶をだす。


「ありがとうございます」


そういって佐藤さんはお茶を飲む。


「あ~。熱いお茶というのはいいですね」

「ええ。子供のころは冷たい飲み物が一番だったんですが、熱いお茶も癖になりますよね」

「はい。この香りが何とも。まあ冷たいお茶をそれはそれでいいのですが……と、失礼しました。準備のお話をいたしましょう」


お茶談義になりかけたのをはっと修正をかける佐藤さん。

この様子を見る限り彼が日本の文化を痛く気に入っているのがわかる。

これなら、俺を無下に扱うこともないんじゃないだろうかと少し安心する。

これが演技ならそれはそれで大した役者ではあるけど、ともかく準備に関してもしっかり確認をしていく必要はあるだろう。


「では、まずはこちらです」


そういって取り出してきたのは、新品のスーツ。


「えーと、スーツですよね?」

「はい。まあ、こちらの技術でシールド機能を備えてはいます。一応こちらの爆弾などの直撃も防げるもので、宇宙服の代わりも務まります」


いきなりとんでもないものが来た。


「これが宇宙服の代わりですか」

「はい。地球の重苦しい防護服だとスムーズに作業はできませんからね。もちろん現地になじむための服装変更をする必要もありますので、そちらにもシールド機能を付与することも可能です。そちらは一旦宇宙船に戻って作ってもらう必要はありますが」

「作ることもできるんですか」

「はい。あとで案内いたしますが、野田さんに提供する予定の宇宙船に複製機があります。それを使って作ることができます」


ああ、確か言ってたなSF映画にあるような複製できる機械が存在するって。


「あと、こちらは我が社出社用のスーツでもあります。こちらが社員証ですね」


そういって渡されたのは「佐藤貴金属」という名前が入った社員証で、俺の顔写真が入っている。


「あの、貴金属の取り扱いに関しての資格などは?」

「ああ、大丈夫ですよ。基本的に会社単位で古物商許可証があれば大丈夫ですから。まあ、我が社に来る際にそこら辺の勉強はしてもらいますが。表向きは貴金属なもので」

「いえ、当然だと思います」

「ありがとうございます。それで次なのですが、ここからは野田さんの希望を聞かないといけないことがありまして」

「私の希望ですか? 宇宙船の内装とかですか?」


先ほど佐藤さんが日本の内装にしたいとか言ってたからそういうことかなと思っていたが……。


「それも含みます。宇宙船の操作などや戦闘訓練、そして調査の仕方などを教える生体アンドロイド、女性型と詳しく言うのであればガイノイドを用意したいと思っています」

「はぁ、それで何故私の希望を?」

「それはここで一緒に暮らし、サポートもするのですから、色々希望に沿った方がよいでしょう。性格などの設定もありますからね」

「ああ、そういうことですか。しかし、ガイノイドですか……」

「やはり人造の生命体で合っても忌諱感はありますか?」

「いえ、アンドロイド自体はいいと思いますが、それは奴隷を持っているようでどうも……」


俺のための人を用意する。

そういう言い方は別の意味では使用人を持っているようでもある。


「ああ、なるほど。大丈夫です。そういう行為は物理的に止めることになりますし、もちろん感情というモノもあります。なにより、先日お話したと思いますが生命体がいる惑星において無茶、違法行為をした際止めるためのものでもあるので、ちゃんとした一個人です。仕事の付き合いとなると気が引けますし、ここで過ごすのであればお付き合いをしている女性という立場の方がいいでしょう。もちろん、気に入っていただければ結婚もできますし子供もできます」

「あはは、後半はともかくそういう抑止力も兼ねている立場なら大丈夫です。なんでもいうことを聞いてもらえる人がいるというのはどうしても問題が出てくると思うので」

「確かにそういう勘違いを起こしやすいですね。そう自身で自覚があるのならそういうことにはならないと思いますよ」


ということで、佐藤さんが持っているタブレットを使って好みのサポーターガイノイドを作ることになるが……。


「意外と希望といわれると悩みますね。なんというか美人にしようにも周りの視線が集まりそうですし……」


そう、最初は超美人、スタイル抜群のガイノイドを作ってやろうと思ったが、それは返って周りの目を引くのではないかと思ってしまうし、これは本当に美人なのかとも思ってしまう。

スタイルをボンキュボンにしたのだが、これってやりすぎじゃないか?という感じだ。

特に髪の色なんて金髪プラチナとか日本の田舎では目立って仕方がない。


「確かに、一人目はせめて黒髪の日本人風にしておくべきだとは思いますね」

「え? 一人目? 他にも作るんですか?」

「ええ。何せこれからするのは惑星調査ですよ。たった二人で作業できるわけもないでしょう。それにこの畑の世話もあるのですから」


あ、そういえば畑をもっと作って広げてほしいという話もあったな。


「せめてあと二人は作ってください。一人目はお付き合いしている方で、もう二人はこちらの農家で研究をしたい外国の方とでも言っておけばいいでしょう。それで髪の色や目の色も変えられます。その方が今後行動するのに便利です」

「あーそういうことですか。人が色々出入りしていても問題ないという風にするんですね」

「ええ。隠すのではなく、馴染ませるというのがいいかと。隠すといつかぼろが出ますからね」

「確かに」


嘘をつき続けるというのは意外と難しい。

どこかでぼろが出てしまう。

だからこそ真実を織り交ぜて、いや真実を話せばいい。

この家に出入りしているのは他国の企業の人だと。


「では、残り二人の性別は男女でいいですね」


俺は普通にバランスがいいだろうと思ってそう告げたつもりだったが……。


「いえ、そこは全員女性でお願いします」

「え、何か問題でも?」

「はい。こちらの都合ではあるのですが、あくまでも野田さんがガイノイドたちの補佐はありつつも主体で仕事をこなしたというのが大事なのです。下手にガイノイドに任せっきりだとロボットの判断が正しいのかという話になってしまいます。確かに知識はありますが、こういう感性については全然なんです。いつか追いつきますが、それでも作られたということであまり喜ばれることではないのです」

「話は分かりますが、性別は関係ないのでは?」


俺が主体としてやればいいだけのはなしで、女性にこだわる理由はない。


「男性が二人いたとして、例えば交渉相手の人はどちらを主体に見るでしょうか?という話です」

「ああ……。私がトップに見えるようにしておかないといけないんですね」

「はい。特に未開の惑星の住人となると男性女卑の場合もありますからね。逆の場合もありますが、それでもしっかり三人のガイノイドが傅いていればわかりやすいんですよ。相手にとっても」


じゃあ、男性アンドロイドも傅かせればと思うが、それは手間だということなんだろうな。

一見でわかるようにするのも大事なのだろう。

何より、自分で作るなら男ならかっこよくガタイがいい、女も美人でスタイル抜群。

そんなのと比べられて、俺が主だというのは確かに無理がある。


「つまり、今回は俺が男だから女性三人だけど……。女性の場合は……」

「なるべく男性三人にしますね。まあ、どうしてもというのであれば止めはしませんが」

「いえ、そういう趣味はないので、三人とも女性にします。ハーレムってやつですね」

「その意味で作っていただいていいですよ。冗談抜きでそうでもないと付き合いがつらくなりますからね」


冗談で言ったつもりが普通に返された。

少し焦ったが、よく考えればこれも納得できる。

下手に現地の人に手を出すわけにもいかないんだ。

どんな病気を持っているかもわからないから。

なるほど、そういう意味でも女性にしろ。好きに使ってくれというわけだ。

とはいえ、そうそう手を出すつもりもないけどな。

結婚する、子供を作る、っていうのは責任が伴うものなんだ。

今の収入じゃやっていけないのは目に見えている。


「さ、頑張って作ってください。私は服装などのサポートをするぐらいですから。妥協しては駄目ですよ。これは下手をすると数日作業ですから」

「そこまでですか?」

「そりゃ、これからの同僚なんですから」


なんというか、色々な意味で大変そうだな。

テンプレートとかあるのか?

何か見本みたいなものは……。


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