第17話 ふたりで決めること

「……え?ログにも教えてない?」


あの感動の仲直りから数日後、フォールスは予想もしてなかった事実を知らされた。


「余は寛大でな。内密に処理したと言ったであろう?墓場まで持っていくがいい」


あまりのことに、口をパクパクさせるフォールス。

ログから逃げ回ったのも……あの資料室での出来事も……ひとりで空回りしただけ……。そんなこんなを色々と思い出し、恥ずかしさのあまり今にも生涯を終えてしまいそうになっている。


「いやあ、愉快愉快。若いとはいいものだ、なあスクルよ」

「そうですねえ」


魔王様とその側近は、ニヤニヤと楽しそうにフォールスを見ている。


「ぐっ……そんな……余裕ぶっていられるのも今のうちですよ!お宅のお嬢さんは、僕が幸せにします!!!」


相手の許可もないうちから、堂々の交際宣言をするフォールス。今の彼には、もう薔薇色の未来しか見えていない。


「子供は3人は欲しい!そして、仕事から疲れて帰ると、可愛い妻と子供たちがお帰りと迎えてくれる!ああ、楽しみだなあ……」


あれ、こんなにアホな子だったっけ?フォールスって……。


「ははっ、その時は祝儀も奮発してやるわ。まあ、そうなることは万に一つもないだろう!余とログは、あの子が幼き頃に将来を誓い合った仲であるからな!はっはっはー!!!」


……何なんでしょうね、これ。


***


魔王様たちが楽しく揉めている頃、ログは相談室で仕事をこなしていた。

書面で来たさまざまな相談を調査回答している。

今や、魔王城のありとあらゆる事を把握していると言っても過言ではない。


その時、ログは急に強い動悸に襲われた。汗も大量に出て、明らかにおかしい。

誰かに助けを求めよう、そう思った時には、意識を失っていた。

遠くに、ハヤシの声を聞きながら、ログは完全に闇に落ちた。


ログが倒れたとの連絡で、魔王様はすぐにログの元へ駆けつけた。


相談室の一角にある仮眠室、そこでログは寝かされていた。

顔色が悪く、苦しそうな表情で眠っている。


「こうなった時は、魔王様をお呼びするとのことでしたよね……ログさん、大丈夫なのでしょうか?」


ログを側で見守っていた、相談室のおかあさんことクライアが尋ねると、魔王様は頷く。


「しばらくすれば、落ち着くだろう。少し、体に負担がかかっていたようだ」


汗ばむ額に優しく触れながら、魔王様は答えた。


「ログの魔力はあまりにも強い……余が封印を施しているとはいえ、抑えきれない事も増えてきた。それがこの子の体には、負担が大きいのだろう」


ログは成長と共に魔力も増大し、魔王様の封印にさえヒビが入るかのようにすぐ綻んでしまうようになっていた。

まるで、早く魔族へ迎え入れろと言わんばかりの状態である。

魔族となれば、コントロールは容易になるだろう。


だが魔王様は、ログが望まない以上、無理強いするつもりはなかった。


「あ……先生……」

「目が覚めたか」


ログは、ぼんやりと魔王様を見つめ、額に置かれた手に触れる。


「先生の手……冷たくって気持ちいい……」

「体の具合はどうだ?」

「うん……ちょっとぼーっとしてるけど……大丈夫」


ログは、額に当てられている手を、頬へ移動させる。猫のように、すりすりと頬を当てる。


「こうするの……好きだったの……小さい頃……先生がわたしが寝るまでこうしてくれたから……」


そのまま、再び眠りにつくログ。

先程と違い、苦しそうな表情はなくなっている。

ほっとしたクライアは、ふと魔王様を見ると、今度はこっちが苦しそうな表情をしていることに驚く。


「魔王様、大丈夫?」

「……姉様、私は無理にでも、ログを魔族にしてしまうべきなのでしょうか」


ふたりきりの時にだけの呼び方をされ、クライアは苦笑する。常に頂点に立つ魔王様も、彼女の前では甘えん坊の弟である。


「あなたがログを大切に思う気持ちを、きちんと伝えたらどう?大切だから、共に生きる道を選んで欲しいと。

あなただけが決めるのでも、彼女だけが決めるのでもない。ふたりで考えなさいな」


魔王様の背中をそっと撫でるクライア。子供の頃より広くなった背中なのに、なぜか昔のように小さく感じた。

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