第13話 親離れの日まで

魔王様は自ら地方視察に行く事も多い。

その地を自ら見ることで、部下からの報告では気づけないことが多いからだ。

いつもは第一秘書のフラスが同行するが、今回は魔王様の指名もあり、フォールスが同行している。

2人は馬車に揺られ、視察先へと向かっている。

視察に関する必要な会話を済ませた後は、しばらく無言が続いていた。

そんな中、話を切り出したのは魔王様からだった。


「最近、ログの事を嗅ぎ回っているようだが」

「嗅ぎ回ってなど……それは誤解です。ただ、個人的に興味がありまして」


明らかに敵意を向けられている。フォールスは恐怖を感じた。


「お前の父親は、人間との親和に反対している。ログの存在は、さぞ目の上のたんこぶであろう。息子のお前が、何かを仕掛けてくると余が考えるのは当然だろう?」


やはりそのことか、とフォールスはため息をつく。誤解を解くのは並大抵のことでは難しい。


「確かに、一時期は父の言葉を疑うことなく、なんとかしてログを辞めさせようと考えていました」


嘘をついても見抜かれる、正直に話すしかない。その上で、今の気持ちを伝える。フォールスはそう決めた。

それで駄目なら、この仕事を辞めるのも仕方ない。


「それは、父親からの命令か?」

「……それは」


言えば、父親の立場がどうなるか、それがわからないフォールスではない。


「直接命じられたと言う事はありません。ただ、言葉の端々に、それを望んでいるのではと感じていました。なので、父のためになるなら……と自分が勝手に動いただけです」


あくまで自分の意思でしたこと、そこに落とし込みたい。だが、納得されるとは思えない。


「今は違います。ログと職場を共にしたことで、彼女が人間であろうがなかろうが関係ない、父の言う事は間違っていると気付かされました。父からのプレッシャーはいまだありますが……もう、それに影響されるような事はありません。命にかけて誓います」


背中を汗が伝う。肩に力が入る。手はこれ以上ないほどに握りしめている。

魔王様は、しばらく考え込むと、ようやく口を開く。


「ほう……その言葉、おぼえておこう。次はないと思え」


その言葉に、肩から力が抜けるフォールス。

首の皮一枚繋がっているだけだろうが、まだ切り離されてはいない。


「では、なぜログに関して聞き回る?」

「……それは」


なんと答えればいいか、どういう言葉を使えばいいか、フォールスは悩む。


「ログの事をもっと知りたい……そう思ったからです。彼女の全てを……手に入れたい」


その言葉は、魔王様の表情を苦々しくさせるには充分だった。


「娘が、男を連れてきた時の気持ちは、このようなものなのだろうなぁ……殴りたくなるとはよく言ったものよ」

「……親として?それだけでしょうか?」


むくりと、男としての独占欲が沸き上がるフォールス。

魔王様は、鼻で笑う。


「ほう、意外と怖いもの知らずだな。好きに捉えるがよい。

ただ、ひとつ言っておこう……簡単に、余の手から奪えるとは思うなよ」

「自分は……自分が出来ることをやるだけです。子はいつか、親から離れる日が来ますから」


そう遠くない未来を想像するふたり。

はたしてどちらの望みが叶うのか、それはまだ分からない。

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