第11話 男として見てほしい
「え、フォールスくん、異動なの!?」
季節は巡り、ログが入城して二回目の春を迎えたその日。休憩室で一緒に昼食を食べていたフォールスから、異動すると聞かされたログ。
「うん、僕が希望したんだ」
「そ……そうなんだ……寂しくなるなあ……」
色々とあったものの、それ以降はこうして、昼食を共にするまでの仲になったログとフォールス。そんな同期がいなくなることに、ログは寂しさを感じていた。
「寂しがってくれるの?」
「当たり前でしょ、一緒に働く仲間がいなくなるのに、寂しくならないわけない」
相談室でアルバイトした時から、メンバーの入れ替わりはなく、ログにとっては初めての経験なのだ。
「同僚として?」
「うん、そうだけど?」
「なーんだ、残念。それ以上を期待したんだけどな」
上目遣いで、意地悪そうに笑うフォールス。
そう、あの時から、フォールスはいちいち、同僚以上の何かを期待するようになった。
でも、ログは意味がよく分からず受け流してばかりいる。
「それ以上もそれ以下もないと思うけど……フォールスくんって、一体何を期待してるの?」
ログは初めて深掘りする発言をした。ああ、やめておいた方がよかったのに……。
「ログって、僕のこと、どう思ってるの?」
「どう?うーん……初めてできた同期仲間?頼れる同期?なんだろ、これと言った表現が思い浮かばないなあ……」
うーんと唸りながら、目を閉じて眉間に皺を寄せて考えるログ。
「男として、意識したことはないの?」
それは、開けてはいけない扉を、ノックした瞬間のようだった。
「男と……して?」
考えもつかなかった、と言う顔をして固まるログ。そしてそれを楽しそうな顔で見るフォールス。向かいの席を立ち、ログの隣に座ると、彼女の手をそっと取り、持ち上げる。
「そう、男として」
そう言うと、ひとつ、彼女の手の甲に口づけを落とす。
そのまま、上目遣いでログを見た。
「こういうことだよ?」
あまりのことに、思考が停止して、固まるログ。
顔を真っ赤にするログに、フォールスは嬉しそうに笑う。
「これでもう、君は僕を見るたびに意識するようになったね。第一段階は突破かな?」
そう言い残し、フォールスは荷物をまとめ休憩室を出て行った。
「なっなっな……なんなん!?」
事態を飲み込みきれないまま、ログの昼休みは終わった。
***
同じ頃、魔王様は執務室で不機嫌な顔を見せていた。
「魔王様、どうされたんですか?」
秘書のフラスは、手がつけられないまま冷めてしまった茶を、新しく淹れたものと交換しつつ、尋ねた。
「子離れの時は近いのだな……と思ってな」
「ログ嬢のことですか?」
「ああ。幼いあの子が足にしがみついて離れなかったの事が、昨日のことのように感じるよ……。恋をし、伴侶を見つけ、子を成し、そして命を終えるのだな」
随分先の話をする魔王様に、フラスは若干引く。
「……てっきり、魔王様はログ嬢を妃にするのだと思っていましたわ」
「そうしたい気持ちもあるがな。こればかりは、本人の気持ち次第だろう」
「あら、魔王様がそんな控え目な事おっしゃるなんて。強引にでも攫ってしまうような方だとばかり」
驚くフラスに、魔王様は笑う。
「そうだな、なぜだろうね……あの子が自ら闇に堕ちてくる姿を見たいのだよ」
「ふふ、怖い方。でも、それを望んでいるのは魔王様だけじゃないようですよ?うかうかしていたら、掠め取られてしまいますわ」
悪戯っぽく笑うフラスに、魔王様はため息をつく。
「あれのことか。だが、父親が許すわけがなかろう」
「今は、ですよ。ログ嬢なら、あの方の心さえ溶かしてしまうかもしれませんわ」
「人間との親和を望む魔王としては喜ばしいことであるな……余自身は不快以外の何者でもないが」
何か想像したのだろうか、魔王様は忌々しげに毒づく。
と、そこに扉がノックされる音が響く。
「魔王様、本日から秘書課に異動される方がお見えです。お通ししていいでしょうか?」
「あら、噂をすればなんとやらですわ」
楽しそうに言いながら、フラスは扉へ向かい、開く。
そこに見えた姿は。
「魔王様、本日から秘書課でお世話になります、フォールスです」
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