第10話 種族を越えて

相談室のある建物は古い一戸建てで、一階がオフィス、二階は休憩室や打ち合わせブースがある。

その打ち合わせブースで、ログはフォールスと二人きりで向かい合わせに座っている。


「一週間、わたしの仕事までこなしてくれて、本当にありがとう。さすがフォールスくん、トップ入城だけあるね」

「……そんなことを言いたくて呼び出したわけじゃないよね?」


疑いの眼差しでログを見るフォールス。


「お礼を言いたいのは本当だよ。でも、本題は別にある……何のことか言わなくてもわかるよね?」

「……」


簡単には口を割らないだろうことは予想通り。

ログは手元の資料に目を通しながら言う。


「フォールスくんのおうちは、魔族の中でも、人間との親和を目指す政策に異を唱えている一族……父親は魔王城内でもかなりの有力者である……思想はともかくその能力は唯一無二のもの……魔王様も重用している」


フォールスは何も言わず聞いている。


「13年前、魔王様は気まぐれで、人間の少女を世話し始める……それはフォールスくんの父親の思想では到底受け入れられない出来事だった。でも、魔王様の言うことは絶対……表だって逆らうことはできないが、なんとか排除したい。

そして、その人間の少女は、なんと魔王城に入城しようとしている……それを知った父親は、自分の息子に何としても同じ部署に入るよう命じる……そして同僚として油断させ人間の少女を排除させようとした」


資料から顔をあげるログ。フォールスの表情に変化はない。


「どう?わたしの考えたお話は?」

「……興味深い話だね」


簡単には認めないだろうことは、ログも分かっている。


「僕の父親を失脚させようとでも?」

「……それは魔王様しだい。わたしには何も決められない。わたしの望みは……認めてもらいたいだけ」

「認める……?」

「そう。思想を変えるなんて、失脚させるよりも難しいことだろうけど。わたしは、人間だからというだけでどれだけ能力があっても認めようとしない考えを変えたい」


ログは、真っ直ぐにフォールスを見つめる。


「だからわたしは、あえて魔王城に入った」


フォールスは、驚いたような表情をする。

そして、ゆっくり口を開く。


「僕は……君の入城は特例なのだと思っていた。魔王様は人間の少女に懸想し、正常な判断ができていないと……父が言っていた事を鵜呑みにしていた」

「……やっぱり、そう思われてたんだね。でも、わたしは、そんな優遇なんてないと信じてる。それを疑うのは、魔王様を疑うのと同じだもの」


入城の日、魔王様は否定した。自分の部下はそのような事をしないと。


「……同じ部署で、君の働く姿を見て、父から聞いた事を疑問に思うようになっていた。誰も君を贔屓などしていないし、持っている能力できちんと仕事をこなし、周りもそれを認めている。魔族より劣ると聞かされていたような存在では、全くなかった」

「それは……褒めてくれてるの?」


首を傾げて聞くログに、フォールスは少し照れながら言う。


「そうだよ。人間とか、もうどうでもよくなるくらい、すごいと思った」

「そっか……ありがとう。わたしのやってきた事、間違いじゃなかったね」


ログの笑顔に、フォールスは思わず目を逸らす。直視するのが、どうしてか、苦しくなったように見える。


「僕は、魅力のスキルを使って、無理矢理にでも相手の心を奪うことができる。でも君は、何も使わず、自分の力で皆の心を惹きつけている……。うらやましいな」

「ふふ、うらやましい?そんなこと言われたら、図にのっちゃうなあ」


嬉しさで、ニヤニヤ笑うログ。少し気持ち悪いぞ。

そんなログに、ためらいつつも、フォールスは手を伸ばし、彼女の手を優しく握った。


「図にのっていいよ。僕は……」


バーン!!!という音とともに、扉が勢いよく開く。

2人はビクッとし、扉の方を見る。そこには。


「魔王様!何してるんですか!?」

「ログ!余は不純異性交遊は認めないぞ!!!」

「は、はあ!?何言ってるんですか!!!」


呆れるログ。

深くため息をつくフォールス。


これは、一件落着……なの?

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