第9話 先生と生徒
「魔王様……」
フォールスが、焦りともとれる表情で魔王様を見上げている。
「先生……違った、魔王様。これ以上はわたしの手に負えないので、呼び出ししてしまいました」
「よい。それで、余は何をすれば良い?」
ログはフォールスを見る。
「フォールスくん、このまま引くなら、何もなかったことにできる。……どうする?」
最強のカードをちらつかせるログ、しばらくフォールスは考え込むが、決断した。
彼はジャイルから離れると、両手をあげる。
「わかった。僕は何もするつもりはない」
「そう。ならよかった」
ログは息をふうと吐くと、立ち上がって魔王様の方を向いた。
「魔王様、報告いたします。フォールスくんに立ち会ってもらい、ジャイルさんに聞き取り調査を行いました。彼女は、持病の発作が起きたため、薬を飲んで慌てて家に帰っただけとのことでした。わたしが色々と勘違いしてしまったようです。申し訳ありません。……これでよろしいでしょうか?」
辻褄は合っているだろう。ログは何の問題もないといった顔で説明する。
「よかろう。フラスへの処分はなしとしよう。だが、ログ、お前の勘違いによってこのような騒動になったことは事実だ。一週間の謹慎を命ずる」
「……かしこまりました」
ログの返答に頷くと、魔王様は姿を消した。
ふう、と息を吐くと、ログはフォールスの方を向く。
「というわけで、一週間分の仕事、お願いね」
***
謹慎を命じられたログは、家に訪問者を迎えていた。
「先生、仕事はいいんですか?」
「ああ、そんなもの、私がいなくてもなんとかなる」
ダイニングテーブルに、ログと向かい合わせで座るのは、魔王様……いや、今はログの先生としてそこにいる。
律儀に姿も変えている。顔立ちは変わらないが、威圧的なオーラは消え、優しい雰囲気を纏っている。
「最近は時間もなかったからね。久しぶりに、可愛い教え子に色々と教えたい気分なんだ」
「そう言ってもらえるのは嬉しいですけど、なんとも複雑……」
目の前の魔族から、一週間の謹慎を言い渡されたのだ。複雑な気持ちになるのも仕方ないことである。
「いやあしかし、入城早々謹慎なんて、なかなかのものだよ?」
「ああもう!そうやって意地悪ばっかり!先生のバカ!もう生徒卒業する!」
机に突っ伏すログに、あっはっは!と笑う先生。
「まだまだ、卒業は認められないなあ。泣こうがわめこうが、逃さないよ?」
「むう……」
ログとしても、魔法の技術はもっと極めたい。そして、魔族の中でも、魔王様以上の先生は存在しない。それが分かっているから、どうやったってこの関係をやめるわけにはいかないのだ。
「でも先生、せめて、封印を解いたままにしてはもらえない?」
ログは普段、魔法が使えないよう封印を施されている。
「だめだよログ。力によって相手を屈服させる事を一度おぼえてしまえば、力に飲まれてしまうんだよ」
「でも……わたしももう大きくなりましたよ?力のコントロールだって、しっかりできるようになったと思うんだけど」
幼い頃の出来事が、先生の中で引っかかっているのだとログは思っている。
力を抑えられず、自らの命さえ消そうとした……そんな出来事。
あの時、先生がいたから、ログは今も命がある。
「私から見たら、君はまだまだ小さい子供だよ。焦ることはない。学び続ければ、いつかその時は来る」
「……わかりました、先生がそう言うなら。先生の望む高みまで成長すればいいんですよね」
ログの問いに、先生は優しく微笑み、頷いた。
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