第7話 証拠隠滅

秘書課でのちょっとした騒動から一日、秘書室のフラスが、相談室にログを訪ねてきた。

なんと魔王様同伴である。

まあ魔王様は毎日来てるんだけど。


ログは、急な訪問に驚くが、昨日の事を思い出し、とりあえず相談室の2階にあるフリースペースに2人を案内した。


「あれから、どうなりました?」


2人にお茶を出しながら、ログはたずねる。


「証拠不十分のまま、姿を消しおった。調べさせたが、実家にこもったまま出てこない」


不満そうに言う魔王様。

フラスはその後に続いて言う。


「あの後すぐ、持っていた飲み物を飲み干されて、飛び出していってしまったのよ……だから、あの飲み物がなんだったのかも、あなたに何をするつもりだったのかも分からずじまい。このままでは単なる出社拒否のまま、こちらから何もできない状況よ」

「そうだったんですね……でも、結局」


何もなかったから、と片付けようとしたログだが、魔王様の冷たい視線に気づく。


「甘いぞログ。結果がどうであれ、問題の火種が存在した事は事実だ。フラスには責任を取らせる」

「責任?」

「そうだ」

「ちょ……ちょっと待ってください」


それは流石にやりすぎではないか、ログは少しカチンと来ていた。


「何も起きなかった、その責任を取るというのは、理解できません」


ログが言うと、それを待っていたと言わんばかりにニヤッと笑う魔王様。


「ではログ、ジャイルが何をするつもりだったのかを調査し、余に報告するがよい。内容によってどうするか決める。報告があるまで、フラスへの処分は保留するとしよう」

「……わかりました」


魔王様の手のひらで転がされてると分かってはいるが、やらざるを得ない。ログは立ち上がる。


「ではすぐ調査します。フラスさん、ジャイルさんについてわかる事を全て教えていただけますか?」

「分かりました。すぐにお渡しします」


***


ログは、フラスから渡された資料を前に、頭を悩ませていた。


(彼女の家、それなりに地位が高い……そんな家の娘が、わたしに危害を加えるようなことをする……?あの時、わたしに何かあったとしたら、犯人として疑われるのは彼女ひとり……入城試験に受かるような賢い子が、そんな馬鹿な真似する?ううん、あり得ない。彼女だけじゃない、家族親戚も巻き込んで、大変なことになるのは明らかじゃない)


眉間に皺を寄せるログ。


(もしかして、わたしの考えすぎで、飲み物には何も入っていなかった?……ううん、だったら証拠隠滅なんかしないはず)


フラスさんの言葉を思い出す。飲み干して飛び出していった……と。

ふと、とある可能性に気づき、隣の席のハヤシに話しかける。


「ハヤシ先輩、魔族には効かないけど、人間には効く毒物ってあるんですかね?」

「毒物!ログちゃん、急に物騒な話ヨ。うーん……魔族に処方される薬が、人間には厳禁って説明される物もあるから、そういう意味では人間にだけ効く毒物とも言えるダヨ」


(そっか……それなら、まさか人間に毒だったなんて知らなかったんです!なーんて、言い逃れできちゃうのか)


故意ではなく、不慮の事故。そう片付けられる。ログはその仮説に行き着いた。


(それでも、完全犯罪とまではいかない……。本人に、聞くのが一番か。でもどうやって会うかなあ……家に行っても門前払いだろうし。彼女と親しい人……親しい……あ!!!)


ふと見えた人物に、ログはひらめく。


「フォールスくん!!!協力して!!!」

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