第4話 魔王様の愛人疑惑
ログが入城してから1ヶ月ほどたったある日の朝。
「おはようございます!」
まだ始業までだいぶ早い時間のため、まだオフィスにはハヤシだけ。元気な挨拶に顔を上げたハヤシは、驚きで固まる。
そこには、武者修行から帰ってきたかのようなログの姿があった。
「ロロロ……ログちゃん!!!どうしたんダヨ!!!」
「えへ、襲われちゃいました!」
「ぎゃー!!!」
ハヤシは慌てて救急箱を探し、ログに駆け寄る。
「どこか痛いところはないダヨか!?」
「んー、擦り傷くらいはありそうだけど……大丈夫だと思います」
「と、とりあえず消毒だけでもするダヨ!」
治癒魔法なんて便利なものは殆ど使い手がいないので、こういう時はやはりお薬の出番である。
ペタペタと消毒していきながら、ハヤシは事情聴取を行う。
「場所と人数と、あとその時の状況を話すダヨ」
「えっと……ここに来る途中ちょっと細道になってくる所ありますよね?そこに、背後から急に3人がかりで襲ってきて、特に武器は所持してなかったようなので、とりあえず拳でねじ伏せてきました!」
たくましい……これもアルバイト時代の厳しい指導の賜物である。
だがそこまで育つとは思ってもいなかったハヤシであった。
「訓練と実戦ってやっぱり緊迫感が違いますよね!うまくやれてたと思ってたことも、反省点たくさん出てきましたし……次はもっと綺麗なまま終わらせたいなあ……」
うわあ……。
「襲ってきた奴らは?まだ現場にいるの?」
「はい、ロープで木に縛り付けておきました!」
ロープ持ってたの!?
「じゃあ警備の方々に向かってもらうように連絡してくるダヨ。消毒はとりあえずこれでよし、とりあえず誰か出社してきたら一緒に医務室までついてもらって、一通り診てきてもらうダヨ?」
「大丈夫だと思うんですけど……」
「ダメダヨ!ちゃんと診てもらうのも仕事のうちダヨ!」
はーい、としぶしぶな感じで返事するログ。
やれやれと思いつつ、ハヤシは警備に連絡を入れに行った。
そこへ、ログと同期のフォールスがオフィスに入ってきた。
「おはようございます……あれ、ログさん、どうしたの?絆創膏だらけ」
「あ、これ?……うーん、ちょっと派手に転んじゃって」
口止めはされていないが、あまり大っぴらにしない方がいいと判断し、とりあえず誤魔化すログ。
「そうなんだ。気をつけなよ」
「うん」
それ以上特に突っ込まれることもなく、フォールスが自席に着くと同時にログは肩を撫で下ろす。
と、そこに、警備への連絡を終えたハヤシが戻ってきた。
「あ!フォールスくん来てるヨ!フォールスくん、ログちゃん医務室行くの付き合ってあげて欲しいダヨ。最近、物騒な事件も耳にするし、ついてってあげてほしいんダヨ」
「医務室ですか?分かりました……ログさん、行こうか」
「う、うん、ごめんね」
同期とはいえ、直属の上司が違うため、殆ど交流のない2人。そのせいか、どうもぎこちない。
そんな2人に、ハヤシは
「医務室までの間に、同期同士で交流でも深めるといいダヨー」
と言って見送った。
***
相談室は城下町の外れにあるため、城の医務室までは徒歩20分ほどの距離である。
「ログさん、質問していい?」
何話そうか、と悩んでいたログだったが、先にフォールスが話しかけてきた。
「うん、いいよ。なに?」
「同期の子たちが、『ログさんって、魔王様の愛人らしいよ』って言ってたんだけど……本当?」
お茶を飲んでいたら絶対に噴き出していただろう。
「はあ!?えっ!?あ、愛人!?いやいやいや……そんなんじゃないよ……」
「そうなんだ?でも、最近毎日のようにオフィスに来ては、やたらとログさんのこと構ってるから、噂もあながち間違ってないのかな……と思ったんだよね」
そうだ、確かに、オフィスにデスクを搬入してからというもの、魔王様はほぼ毎日のように姿を表しては、ログに絡んでいる。
勘違いされても仕方ないのでは?
「いや!本当にそんなことないから!……魔王様は、おじさん……お父さん……そう!なんというか、保護者的な存在って感じなの!」
必死に否定するログに、フォールスはクスッと笑った。
「ふふっ、そこまで必死に否定されると、逆に怪しいなあ……」
「そんなあ……誓ってそんなことないから!それに魔王様、私が知ってる限りでも、両手の指でも数えきれないくらい女の人をとっかえひっかえしてるんだから……わたしなんか愛人にする必要性ないでしょ」
話して、だんだん呆れてしまうログ。いくら尊敬する人とはいえ、女癖の悪さは許せないくらいにはお年頃なのだ。
「いや、ログさんも、充分魅力的だと思うよ?」
フォールスから真顔でそんなことを言われ、固まるログ。
意味が分からない。
「何が?何がなの?……よ、よく食べるところ?あ、健康そうとか?そうだねえ、風邪ひかないしわたし」
「違う……男から見た上での魅力的ってことだよ?」
「……は?」
そう、ログは、色恋に疎い……どころではない。徹底的に縁がなかったのだ。
「……ふふ、ログさんって純粋培養だったんだね。まあいいや、この話はこれで終わり。早く行こう」
そういうとフォールスは、ログの手を握って、歩き出す。
突然の行動にどうしていいかわからず、されるがまま、ログは医務室へ向かうのだった。
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