第3話 魔王様、襲来
「最近、公私混同が酷すぎやしません?」
ある日、魔王様の側近スクルは、相談室のハヤシに言った。
「うーん、ワタシにはなんとも……ダヨ」
2人の視線の先には、ついこの間新しく置かれたデスクに座る魔王様の姿があった。
「はっはっは……今日も精が出るなお前たち!」
その長くスラっとした足をデスクにドン!と乗せ、大層偉そうに話す魔王様に、オフィス中がドン引きしている。
***
あれはログが入社した翌日、オフィスに急にやたらと豪華なデスクが搬入されたのだ。
何も聞かされていない相談室メンバーだったが、事情を知る室長ディフの一言に衝撃を受けた。
「魔王様がね、視察でしばらく通われるそうだよ」
「視察ってどういうことなのダヨ!?」
「さあねえ」
何考えてんだか分からないと評判の室長だが、何も考えてないの間違いなのかもしれない。
搬入と共に、魔王様が登場する。
「やあやあ、みな元気だったか?」
皆を労いながら、搬入されたデスクに着席した。
きらきらきらーん、という効果音を纏うかのような美しさ、街中であれば女たちが群がることだろう。
だが相談室のメンバーは、魔王様に辛辣な事で有名である。
「はいお疲れ様ですお茶飲んだらとっととお帰り下さい邪魔なので」
みんなのお母さんことクライアさん、缶入りのお茶を魔王様デスクに叩きつける。
それ……賞味期限切れですよクライアさん?わざとですか?
「冷たい歓迎だなあクライア。ぐびくび」
あーあ、飲んじゃった。
「ここは余の直下の部署であるにも関わらず、しばらくお前達に任せっきりにしていたからなあ、余もしばらくここで仕事に励むつもりだ!」
とそこに、新入社員研修を終えたログとフォールスが戻ってきた。
「せん……違う魔王様、何してるんですか?」
「おおログ!それと、もうひとりの新入社員のフォールス!なんだ、研修は終わったのか?」
「はい、研修から戻ってまいりました。というか、魔王様、僕の名前……ご存じだったのですか?光栄です」
「それくらい当たり前であろう。全て余の大切な、子供も同然だ。名前がわからぬなど魔王としてありえぬ」
えっへん、という声が聞こえるようなドヤ顔の魔王様。
「まあ、じゃあ私が入った頃は記憶障害を起こされてたのね……回復されたようで何よりだわ。
さ、新入社員のおふたりは、今日の研修の振り返りをなさいな。たくさん課題出されたのでしょう?」
クライアさんの毒舌は魔王様に痛恨の一撃を喰らわせた。
ぐふっ、と倒れ込んだ魔王様に吹き出しながら、ログは自分のデスクに戻った。
***
席に着くと、隣席のハヤシが話しかけてきた。
「ログちゃん研修どうだったヨ?」
「それが、フォールスくんが凄すぎて、成績トップの名は伊達じゃないな……と思わされました」
しかも、お顔も大変整っているため、同じ部署であるログは、女性陣から根掘り葉掘り聞かれたり、嫉妬の眼差しを向けられたり、色々と大変だったのである。
「それはそれは、お疲れ様ダヨ」
「あと……私自身への風当たりも、大変強かったです……」
新入社員18名中、人間はたったの2人。
あからさまな態度の者は減っているが、未だに人間を下に見る物も当然いる。
さらに、ログの立場が特殊な事も影響している。魔王様から直々に教えを受けた唯一の存在である。魔物でさえ、そのような者は存在しない。
「研修担当者の方々はそうじゃないんですけど、同期の子からはわりとあからさまな態度を取られる事も多く……分かってはいましたけどね」
てへへ、と笑うログ。
笑っていられるような物ではなかっただろう……ハヤシは心を痛めてしまう。
と、背後に気配を感じ、2人は振り向く。そこには。
「ログさん、気にしなくていいわ……明日から新入社員が何人か減ってるから……ウフフ、安心なさい」
「いやいやクライアさんそれはだめヨ!!!」
「そそそうですよ!!!ダメぜったい!!!」
クライアさんならやりかねません。何をかは言いませんが。
「……大丈夫ですクライアさん!」
ログは拳を握りしめて、クライアさんに見せる。
「いつも言われてる通り、実力でねじ伏せればいいんですよね?」
「フフッ、そうよお、私たちがどれだけログさんを鍛え上げたと思ってるの?そんじょそこらのひよっこなんて一捻りよお。早速、明日にでも試してごらんなさい」
クライアさん、それは物理的な話でしょうか?
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