第177話 この世界の人間ではありません


 ギルダートさんと話をしたあとは、ブラッドリーの冒険者ギルドにいた以前の決闘でお世話になった冒険者に挨拶をしていった。


 もしかしたらこれが今生の別れになるかもしれないのだが、その気持ちを出さないように必死に隠した。願わくば、決闘が終わった時のように、またみんなで楽しく乾杯をしたいものだ。




 ブラッドリーの街からエガートンの街へ転移魔法で移動する。この便利な転移魔法がもうすぐ使えなくなると思うと残念でならないな。


 先に冒険者ギルドに行くとリリスさん達はいなかった。ちょうどイアンさん達はいたので、ギルダートさん達に話したことと同じ内容をみんなに伝えた。つい先日この冒険者ギルドの食堂で、リリスさん達やイアンさん達と騒いでいた時はこんなことになるなんて夢にも思わなかったな。




「マサヨシお兄ちゃん!」


「相変わらずよく俺だとわかりますね」


 冒険者ギルドを出てリリスさん達のパーティハウスへ向かった。ノックをするといつものように一番にネネアさんが飛び出してきた。今日は冒険者の依頼はなかったのか、ネネアさんは防具ではなく普段着である。


「おっ、マサヨシ兄さん、パーティハウスまで来るなんて何かあったのかい?」


「あっ、ノノハさん。ちょっと大事なお話があって来ました。リリスさんとルルネさんもいますか?」


「……2人は今買い物に行っているな。少ししたら戻ってくると思うから、中で待っていたらどうだい?」


「ええ、それではお言葉に甘えて。あと少し台所を貸してもらってもいいですか?」


「ああ、もちろんだぜ」


 リリスさんとルルネさんが帰ってくるまで台所を借りて、まだ残っていたドラゴンの肉を使って料理を作らせてもらう。アンデに収納魔法を継承した時に収納魔法の容量が追加されるのか分からない。食材に関してはできるだけ消費できる物は消費しておく予定だ。




「んん、誰か来てるのか?」


「あら、何かとても美味しそうな匂いがしますわね」


「リリスさん、ルルネさん、お邪魔してます」


「おっ、マサヨシ!」


「マサヨシ様!」


 しばらくすると2人が買い物から帰ってきたようだ。いつも見ている冒険者姿とは違って、みんなの私服姿は新鮮だったりするな。


「突然どうしたんだ? しかもいい匂いもしているな」


「ちょっと台所を借りてます。ちょうどもう少しでできるのでちょっとだけ待っててくださいね」




「というわけで、まずは料理が温かいうちにみんなで食べましょう!」


「……よく分からないけれど、またご馳走になっていいのか?」


「ええ、あとで説明しますけれど、今ある食材は使い切っちゃいたいんですよね。だから遠慮なく食べられるだけ食べてくださいね」


「……本当にいいのかい。この料理は前に食べさせてもらったドラゴンの肉じゃないのか?」


「えっ!?」


「いろいろとあって、もしかしたら捨てることなるかもしれないんですよ。それならみんなで食べられるだけ食べちゃいましょう」


「……よく分からないけれど本当にいいのニャ?」


「ええ、もちろん。それじゃあいただきます!」


 みんな遠慮しているから、先に食べてしまおう。俺が食べた後のほうがみんな食べやすいだろうしな。それに俺もドラゴンの肉は久しぶりだ。この肉、異世界の食材の中でも段違いにうまいんだよな。


「うん、やっぱりうまい!」


 今日は前にも作ったドラゴンステーキとドラゴンカツ、生姜焼きと甘味噌で炒めた料理を作ってみた。もっと時間があれば、時間のかかるローストドラゴンやドラゴンシチューなんかも作ってみたかったな。


「うおっ、やっぱりうめえな!」


「ええ、とっても美味しいですわ!」


「うん、やっぱりマサヨシ兄さんの料理はうまい!」


「美味しいニャ!」


「………………」


 ……やっぱり俺はみんなで美味しい料理を食べているこの時間が本当に大好きだ。たとえ大魔導士から継承した力を失ってしまっても、何度でもみんなとこの時間を共有していたい。






「……はあ、腹一杯だぜ」


「美味しかったですわね」


「ああ、幸せだぜ」


「ご馳走様ニャ!」


「お粗末さまでした」


 さすがに5人分ということで結構な量のドラゴンの肉を消費することができた。多めに作ったので、余った分は収納魔法にしまっておく。


「……それでマサヨシ兄さん、なにか大事な話があるんじゃないのかい?」


「はい」


 食事が終わり本題に入ることとなった。空気が変わってみんなの視線が俺に集まる。


「実は、俺はこの世界の人間ではありません」


「「「………………」」」


 ギルダートさん達に話したように、その辺りをぼかしてリリスさん達やサーラさんに話すこともできた。けれど、こんな俺を好きと言ってくれたみんなにだけは、本当のことを知ってもらいたかった。


 俺は別の世界からこの世界にやってきたこと、大魔導士の力を継承してその力を使ってきたこと、リリスさん達を助けられたのも俺の力ではなくて大魔導士の力のおかげであること、その異世界への扉が閉ざされてしまうことを話した。


 そして最後に、この大魔導士の力をアンデに継承するため、もし次にみんなと会うことができたとしても、もう俺には大魔導士の力がないことを正直に告げた。

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