第178話 伝えられずにはいられない
「……というわけです。今まで隠していて本当にすみませんでした」
「「「………………」」」
みんなは俺の話を最後まで黙って聴いてくれた。やっぱり俺に失望しているのだろうか? それとも借り物の力で自由にやっていて軽蔑されたりするのだろうか? リリスさん達ならそんなことは絶対ないと思っているのだが、もしかしたらという気持ちがどうしても頭から離れない。
「……話はわかりましたわ。マサヨシ様がそうおっしゃるのなら本当のことなのでしょうね」
「ああ、あれほどの力を持っていたマサヨシ兄さんが、いろいろとこっちの世界のことを知らなかったわけだよ」
「この世界へ繋がっている扉が閉ざされてしまうと、もう一度この世界に戻って来られるかもわかりません。それに、もしこの世界に戻ってこれたとしても、大魔導士の力もないので、そのあたりにいる一般人よりも力が弱くなります。
そんな俺がみなさんと釣り合うわけもありませんし、俺はサーラさんに好意を持っています。ですので、みなさんの気持ちには答えることはできません」
ハッキリとした断りの返事。そう、なんの力もなくなった俺なんかにリリスさん達みたいな、強くて綺麗な女性達にはまったく釣り合わない。
「それでも、もし俺がこの世界にまた戻って来ることができたら……大切な友人としてまた今日みたいに接してほしいです!」
だけど……それでも俺は、この世界に戻って来ることができたら、また今日のように俺の作った料理を食べてもらって喜んでもらいたい! 酒場でみんなと楽しく飲み食いをして騒ぎ合いたい! リリスさん達との繋がりを失いたくない!
「……マサヨシが言いたいことはよくわかった。だが、なんでそれが俺達と釣り合わないなんて話になるんだ?」
「……だって、俺はもう大魔導士の力がなくなるんですよ?」
「それがどうしてマサヨシを好きでなくなる理由になる? たとえ大魔導士の力がなくなったとしても、マサヨシはマサヨシだろ? 別に俺はマサヨシが持っている大魔導士の力なんかを好きになったわけじゃない!
確かにきっかけはドラゴンから助けてくれたその大魔導士の力だったかもしんねえ。だけどマサヨシと一緒に飯を食って騒いだり、一緒にいろんな場所に出かけたり、長い時間を共に過ごしたことでよく分かったよ。
マサヨシが持っている大魔導士の力なんかじゃない、誰かを助けるために迷わず手を伸ばす優しくてお人好しで、自分の命を張ってでも誰かを守るために一生懸命なマサヨシを好きになったんだよ!」
「リリスさん……」
実際にその時のことは、その時になってみないとわからない。だけど、この場でそう言い切ってくれるリリスさんの言葉は、今の俺にとっては何よりも嬉しい言葉だった。
「てい!」
「いてえ! 何すんだよ、ノノハ!?」
「ひとりでポイント稼ぎすぎだぞ! 俺だって同じことを言おうとしたのに!」
「そうですわ、私達の言いたいことまで全部言わないでください!」
「お兄ちゃんはお兄ちゃんだニャ!」
「ノノハさん……ルルネさん……ネネアさん……ありがとう」
「だからさっさと戻ってこいよ。もう一生会えなくなるなんてことは絶対にねえ。何か必要な素材や道具が必要ってんなら俺達が集めるのを手伝う。俺達だけじゃねえ、イアンやギルダートや他のやつらも、手を貸してくれるに決まっている。そのアンデとかいうやつに、俺達も全力で手伝うって伝えておいてくれよ!」
「……はい、アンデに伝えておきます!」
やっぱり俺はたとえ大魔導士の力がなくなったとしても、またみんなと一緒に過ごせる可能性が上がることを選びたい。
「……というわけです。今まで隠していて本当にすみませんでした」
「………………」
リリスさん達に説明を終えた後、そのまま王都へ転移魔法で移動し、サーラさんの屋敷までやってきた。
サーラさんに大切な話があると伝え、部屋でサーラさんとふたりきりにしてもらい、リリスさん達と同じように俺がこの世界の人間ではないことを告げ、大魔導士の力を継承してその力を使ってきたこと、サーラさんを助けられたのも俺の力ではなくて大魔導士の力のおかげであったこと、その異世界への扉が閉ざされてしまうことを話した。
そして最後に、この大魔導士の力をアンデに継承するため、もし次にみんなと会うことができたとしても、もう俺には大魔導士の力がないことを正直に告げた。
「サーラさんから求婚された時は本当に飛び上がりそうなくらい嬉しかったです。ですが、俺はこの世界の人間ではありません。元の世界には俺の唯一の家族である母親もいて、父親のお墓もあり、友人達もいます。すべてを捨ててこの世界に残ることはできませんでした」
「………………」
「もしかしたら、またこちらの世界に戻ってくることができるようになるかもしれませんが、確実にとはいえません。それに俺は力をすべて失ってしまいます。いえ、そもそもそれは元々俺の力なんかじゃなかったんです。……だからサーラさんとは結婚することはできません」
「………………」
……言ってしまった。俺は元の世界に残ると決めた。もうこの世界に戻ってくることができなくなるかもしれない。それにこの世界に戻ってこれたとしても、一般人よりも弱くなっている。
サーラさんはこの国の第三王女だ。当然ながら結婚相手だって相応の相手になる。今の大魔導士の力を継承した俺ならともかく、一般人以下になった俺では、たとえ今までの功績があったとしても、サーラさんと結婚なんてできるわけがない。
「……マサヨシ様のお話はわかりました。マサヨシ様がそう仰るのでしたら、別の世界からやってきたということは本当のことなんでしょうね」
「はい」
「マサヨシ様、ひとつだけ教えてください。もしもマサヨシ様のご家族や別の世界のことや身分など、一度すべてのことをお忘れになって考えてみてほしいのです。その場合、私と結婚を考えることはできますか?」
「……はい。いろんなことを考えなければ、俺はサーラさんのことが好きです。俺はサーラさんと結婚したいです!」
母さんや元の世界のこと、年齢、法律、身分、すべてのことを考えなければ、俺はサーラさんのことが好きだ、サーラさんと結婚したい!
もしかしたら異世界の扉が閉ざされてしまい、もう二度とサーラさんと会えなくなってしまうのかもしれない。だから、サーラさんを縛りつけるようなことを言うべきではないことはわかっている。それでも俺はサーラさんに伝えずにはいられなかった。
「……ありがとうございます。それなら話は簡単ですね。私をマサヨシ様の世界へ連れていってください!」
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