第175話 継承魔法
「……よし、行くか!」
異世界への扉が閉ざされてしまう可能性が高いことについて、俺なりにいろいろと考えた。残された時間は少ない。今この瞬間にも向こうの世界への扉が閉ざされてしまってもおかしくはない。
「ホー!」
「ありがとうな、フー助」
次の日の朝、フー助と一緒に扉を通って異世界へ渡る。アンデはすでに起きていて、大魔導士が遺した本を読んでいた。
「……マサヨシ、随分と吹っ切れたような顔をしているがどうしたのだ?」
「ああ、さすがに昨日はショックが大きかったけど、いろいろと考えていたら吹っ切れたよ。やっぱり俺は元の世界を捨ててこっちの世界に来ることはできない。だけど、まだ扉が繋がっている間に、俺にできることをしようと思っている」
「そうか……」
「改めてすまないな。せっかく大魔導士が遺してくれた異世界への扉を壊してしまって」
「マサヨシに非はないであろう。自分の身を守ろうとしていただけだ。あえて言うなら、この障壁魔法と異世界への扉の魔法がリンクしていることを伝えなかった師匠が悪い」
「いや、さすがにそこまでは大魔導士でもわからなかっただろ……」
パニクって障壁魔法近くの敵に向かって上級魔法を放つなんてことは、さすがの大魔導士でも読むことはできなかったに違いない。……たぶんアンデは俺に気を遣ってくれたのだろう。
「それでアンデに聞きたいことがある。この扉の修復についてなんけど、
「………………試してみたのか?」
「試そうとしたけど、できない可能性が高すぎてやめたんだ」
さすがアンデだ、今ので俺が何をしようとしていたかを理解したらしい。
そう、俺は大魔導士が使える魔法を継承魔法によって使うことができる。すなわち、この世界と別の世界を繋げる魔法も使うことができるのだ。他の魔法やスキルと同様に一度も使ったことのない魔法だが、身体の感覚として使えることがわかる。
しかし、この魔法は他の魔法とは異なり、ただ使えばいいというわけではない。繋げる先の指定が俺にはできなかった。元の世界からアンデ達の世界の大魔導士の家の中、そこをピンポイントで指定することは、今の俺の力では不可能だった。
「魔法の知識もない俺が軽い気持ちで試したら、何が起きるかわからない。だから一旦アンデに相談しようと思っていた」
「……軽はずみに試さなかったのは正解だったであろうな。師匠の遺した資料によると、この魔法はかなり複雑で精密な魔法のようだ。失敗して何も起こらないだけならばよいが、術者であるマサヨシが消滅したり、繋げようとした部屋ごと吹き飛んでいた可能性も決してゼロではない」
そこまで大事になる可能性もあったのか……あっても別の世界への扉を開いて、ヤバい宇宙生物的なやつらが出てくるとかくらいしか考えていなかったよ。いや、それも相当だけどな。
「それにこの魔法はかなりの魔力を消費するらしい。この障壁魔法により魔力を取り込む装置のような仕組みか魔道具がなければ、長時間扉を開き続けることはできないだろう」
「そうなのか。とすると、この障壁魔法はかなりの魔力を周囲から取り込んでいるんだな」
「ああ、そのとおりだ。なぜ師匠はこんな場所に家を建てて研究をしていたのかと思っていたが、それなりに理由はあったようだ」
どうやら大魔導士はちゃんとした理由があってこの破滅の森に家を建てて研究をしていたらしい。
「それでさっきの質問に戻るけど、もし俺なんかよりも遥かに魔法の知識があるアンデが、異世界へ扉を繋げるこの魔法が使えたら、この扉を修復できる可能性は上がるよな?」
「……ああ、おそらく可能性は上がるであろうな。しかしその意味が本当に分かっているのか?」
そう、俺は大魔導士から
「ああ。継承魔法はその魔法だけを選んで誰かに継承することはできない。
つまり、異世への扉を繋げる魔法だけでなく、俺が大魔導士から継承した魔法やスキル、魔力、力など、そのすべてをアンデに継承しなければならない。アンデもすでにそれを知っていたということは、大魔導士が遺した資料を読んだのだろう。
「……お前は師匠から受け継いだそのすべてを、いやそれに加えてお前が元々持っていた力をも失うことになるのだぞ。先に言っておくが、仮に扉を修復することができたとしても、我は継承した力をマサヨシに返すことはできん」
そう、継承魔法はそれほど使い勝手の良い魔法ではない。扉を修復できたとして、その後にアンデが俺に継承魔法を使うと、アンデが長年鍛え上げてきた、そのすべての力まで俺に継承することになってしまう。
「ああ、構わないよ。アンデと違って俺が元々持っていた力なんて何もないんだ。大魔導士にもらった力がなくなって元に戻る、ただそれだけのことなんだよ」
そう、俺はアンデと違って長い間自分を鍛え上げてきたわけでない。たまたま俺の部屋が異世界と繋がって、たまたま大魔導士の力を継承した。元々俺には過ぎた力だったんだ。それが元に戻る、ただそれだけのことだ。
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