第170話 祝杯


 ギルダートさんにお礼を伝えて、冒険者ギルドの食堂で食事を誘ったところ、残念ながら仕事が忙しかったようだ。冒険者ギルドマスターの部屋を出て広間のほうへ戻ると、そこには見知った顔がいた。


「ドレインさん!」


「おっ、マサヨシさん、話は聞いているぞ! 無事に決闘で勝利したようだな」


「はい。本当にみなさんのおかげです。もし時間があったら一緒に食事でもどうですか? もちろん奢りますよ!」


「そうだな、今日はまだ受けた依頼もないし、噂の大魔導士を継ぐ者との戦いも興味がある。ご一緒させてもらおう」


「はい。あっ、ミルバさん、ダートルさん、タシナさん。よかった、みなさんにもお礼を言いたかったんですよ! もし時間があったら、奢りますのでご飯でも一緒にどうですか?」


 アンデとの決闘の前に訓練に参加してくれたBランク冒険者パーティの3人もいた。


「おっ、マサヨシさんじゃねえか!」


「あっ、マサヨシさん。決闘に圧勝したと聞きましたよ! おめでとうございます!」


「奢りなの、やった! いつでも受けられる依頼だし、今日はキャンセルね! ありがとうマサヨシさん!」


「圧勝ではなかったですけれど、なんとか勝つことができました。これもみなさんが訓練に付き合ってくれたおかげですよ!」


 冒険者ギルドにある食堂でドレインさんや訓練でお世話になった冒険者パーティを見つけて声をかけていく。しかし、リリスさん達やイアンさん達の姿は見えなかった。おそらくはブラッドリーの街から拠点にしているエガートンの街に戻ったのだろう。後ほどエガートンの街にもよる予定だ。


「それじゃあマサヨシさんの勝利に乾杯!」


「「「乾杯!」」」


 結局ドレインさんやミルバさん達3人、他にも2人組の訓練を手伝ってくれた冒険者パーティを見つけて声をかけると、快く食事に付き合ってくれた。




「……なるほど、まさかあの大魔導士に弟子がいたのか」


「にしてもハイエルフってやべえな! 今じゃもうほとんど生き残っていない種族って噂だぞ」


「確かその綺麗な容姿と老いにくい身体、生まれながらにして持っている強大な魔力が理由で、大勢の奴隷狩りに狙われてしまったのよね……」


「ああ。ハイエルフという種族はひとりひとりが強くても、繁殖力がなくて数だけは少なかった。多勢に無勢、どんどんと姿を消していったという話だ」


「なるほど……なかなか辛い種族だったんですね」


 この世界では人さらいや盗賊により、ハイエルフという種族は多くの迫害を受けてきたみたいだ。アンデ自身も一度奴隷として捕まったと言っていたし、この世界での少数種族は普通に生活していくことすらもままならないようだ。


「少なくとも今は普通に生きているやつよりも、奴隷として捕まえられたハイエルフのほうが多いだろうな」


「………………」


 奴隷制度か……元の世界にも昔はあった制度だが、実際にそういう制度があるというのは嫌なものだな。


「ハイエルフの事はともかく、極大魔法を2人とも使えるなんてとんでもない戦いだったんだな」


「そうですね。少なくとも私達が入り込む余地がない戦いだったのは間違いないです」


 アンデとの戦いについては、切り札となる元の世界の兵器以外の部分とアンデのマジックイレイザーの部分以外はみんなに話した。まあその2つを話したところで問題となるわけではないけれど一応な。


「今度ベージル平原の近くを通るから寄り道して、ちょっと見てみるかな」


「ああ……結構酷いことになっているかもしれません」


 アンデとの戦いの跡は、もはや草原と呼べるような状況じゃなくなってしまっていたな。


「そりゃ楽しみだ。もしかしたら観光地とかになったりするかもな」


「はは……」


 そうなってしまったらもはや笑うしかない。


「……そうだ。ひとつ教えてほしいんですけれど、この国って何歳から結婚できるんですか?」


「あん? この国なら12歳から結婚ができるぜ」


「そういえばマサヨシさんは王族の中に大切な人がいるから、この決闘に参加したって言っていたわよね! もしかしてそういうこと!?」


「まあ、うすうすはそうではないかと思っていたさ。王族の中で未婚な女性は第三王女様か。確か今年で12か13歳だったから、結婚は可能な年齢だな」


 訓練を手伝ってもらう際に、王族の中に大切な人がいるとは伝えていたから、モロバレだったな。


「………………そういうことです。これからどうなるかはまだ分からないんですけど、そうなる可能性もあるので」


「なあに、マサヨシさんなら絶対に大丈夫だよ!」


「マサヨシさんは国を救ってくれた英雄だろ、断られる理由なんて万に一つもないって!」


「ええ、マサヨシさんは強くて優しくて格好いいから絶対に大丈夫よ! ……ちょっと残念だけど」


 どうやら俺がサーラさんにプロポーズをしてオッケーをもらえるか、まだ分かっていないと思われているようだ。さすがに向こうからプロポーズをされて、別の世界と行き来しているから、どうするか迷っているとは言えない。


 そのあとはしばらくみんなと話を楽しんだあと、食事代を置いて先に冒険者ギルドを後にした。もちろんこの後の飲み食いの分や、あの訓練に参加してくれた人が来たらその人達の分も出せるようにかなり多めに払っておいた。


 そしてそのままブラッドリーの街からエガートンの街に転移する。

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