第165話 求婚


「けっ、結婚!?」


 ちよっ、いきなり何を言っているんだサーラさんは!? まず結婚は18歳を超えないとできない。いや、ここは異世界だから年齢制限とかはないのか!? いやいや、そもそもそういう問題ではない!


「お、落ち着いてください、サーラさん! 今サーラさんは冷静じゃない状態です。結婚とか一生にかかわる大事なことは、一時の感情ではなく、もっと落ち着いた時にじっくりと考えてください!」


 いわゆる吊り橋効果というやつだ。今サーラさんは冷静な状態ではない。そりゃこれから死を覚悟していた状況で、それを助けてもらったのなら、一時の感情で惚れてしまうことがあるかもしれない。


 だけど結婚とかそういう話はもっと冷静な時にする話だ! ……いや、冷静な状態でも結婚とかは違うだろ。まずは付き合ってから……じゃない! いかん、俺もいろいろと混乱している。


「一時の感情ではありません! もっとずっと前からマサヨシ様のことをお慕い申し上げていました! この国の王女としてではなく、ひとりの女性として結婚してください!」


「ひとりの女性って……と、とりあえず一度離れてください!」


 先程までは俺の腰回りに抱きついてきていたサーラさんが、今では俺の首周りに抱きついてきている。つまり俺の顔のすぐ真横にサーラさんの顔がある。いろいろとまずい状況だ。


「嫌です! 結婚すると言ってくれるまで離しません!」


「ちょっとサーラさん、キャラ変わってますから!」


 いつものあの大人びていた様子のサーラさんはどこにいってしまったんだ!


「……ごほんっ、娘と取り込み中のところすまないが少しよろしいかな?」


「あ、国王様! ちょ、ちょっとお待ちください!」


「結婚してください〜!!」


 なんかもういろいろとカオスな状況だ! 俺もアンデのように転移魔法で逃げ出したい……






「……大変お恥ずかしいところをお見せしました」


「……いえ、落ち着いてくれたようで何よりです」


 とりあえずあの後しばらくの間、俺の首周りに抱きついてきたサーラさんが落ち着くのを待って、今は俺と国王様とサーラさんで他の人達から少し離れた場所で話をしている。


 あのあと敗戦の決まったバードン国の陣営はひどいものだった。絶叫が飛び交い、兵士の一部は慌てて逃げ出してしまったようだ。先程の俺とアンデとの戦いを見ていたら、逃げ出したくなる気持ちも分からなくはないが。


 そして王族の何人かも逃げ出そうとしたようだが、決闘前につけていた首輪が締まり気を失ったようだ。こちらの陣営の首輪は相手国の首輪をコントロールできる国王様以外の首輪は解除されている。


「ごほんっ、マサヨシ殿。まずはこの度の決闘の勝利、本当に感謝する。そなたのおかげで決闘はこちらの国の勝利で終わり、私達の命は救われた。礼を言おう」


「いえ、俺が自分で決めたことですから」


「先程とはだいぶ口調が違うようだな。それに黒い仮面の下はこれほどの若者だったとは……」


「ああ、こっちが素なんです。先程まではとりあえず強そうに見せたかったから、そう話していただけです」


 もう戦いは終わったし、強そうな口調をする必要もない。仮面が壊れてしまって素顔を見られてしまったが、まあ今更か。元の世界と違ってこちらの世界なら顔バレしても大丈夫なはずだ。……たぶん。


「そうなのだな。私達はこれからバードン国の王族達を連れて王都に戻るが、そなたはどうするのだ?」


「え〜と、俺も帰ろうと思います」


 アンデのやつが破滅の森にいる大魔導士の家まで、大魔導士の墓参りに来ると言っていたからな。あのまま大魔導士の家に来られると、あの黒い渦を通ってこっちの世界に来てしまうかもしれない。


「そうか。先程そなたが言っていたように、今回の褒賞はパジアに与えるが、それとは別にそなたは我等の恩人で英雄だ。それに先程のあまりにも巨大な山のような死骸は天災のものであろう。あれもそなたが討伐してくれたのだな?」


「……はい」


「本来ならば天災の討伐を讃えたいのだが、マサヨシ殿が名乗りを上げなかったということは、褒賞を捨ててでも目立ちたくないということでよろしいのか?」


「そうですね。今の俺に名声は不要なので、このままにしておいてください」


「承知した。マサヨシ殿に大きな恩ができた。何かあったらなんでも言ってほしい、できる限り力になるとエドバ=エドワーズの名において誓おう!」


「ありがとうございます」


 おお、まさかの国にまで貸しができてしまった。何かあったら遠慮無く頼るとしよう。


「……して娘のサーラのことなのだが」


「マサヨシ様……」


「………………」


 ぶっちゃけそれよりも大きな問題が残っていた。この国の第三王女であるサーラさんに求婚されてしまったのだ。


 いや、そんな言い方をすると、良くないことのように聞こえてしまうが、そんなことは断じてない! むしろ両手を挙げてバンザイをしたいくらい嬉しい!


 こんなに優しくて綺麗な女性に求婚されて嬉しくないはずがない。もしここが異世界でなければ、秒でオッケーの返事をしていた自信がある。


 しかしここは異世界だ。元の世界とこの世界を行き来しながらサーラさんと結婚するなんてことができるか? あるいは元の世界のすべて、母さんや友人や日本を捨ててこの異世界で暮らす? それともサーラさんのような素晴らしい女性からの求婚を断る?


 どうすりゃいいんだよ!!

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