第160話 切り札


「ファイヤーランス、エクスプロージョン、アースニードル!」


「ストーンバレット、エアカッター!」


 くそっ、きつい! 絶え間ない攻撃魔法の連続で回避と防御で精一杯だ。見切りスキルによって多少時間の流れが遅く感じているが、それでも思考が追いつかない!


 また一瞬でも動きを止めたり反撃の手を緩めれば、即座に先程と同じで四方からの攻撃に押し潰されてしまう。……ここは勝負に出るしかない!


 ダンッ


 抑制スキルを切った状態で空に跳躍する。


「サンダーランス、アクアショット!」


 先程俺が空中に回避した時と同様に追撃の魔法を放ち、更にはアンデ自身もこちらに向かって跳躍してきた。


 しかし今回俺は横に回避しようとせずに、風魔法で足場を作って更に上空へと跳躍した。当然アンデも更に俺を追ってくる。


 ここだ!


!」


「んな、なんだこれは!!」


 これが俺の切り札だ!


 収納魔法で収納していた天災の死骸。巨大な体躯、というより山と言ってもいいサイズの質量。それが空中でアンデの目前にいきなり現れた。


 先程アンデが放った魔法が巨大な天災の死骸に当たるが、それをものとももせずに重力に従って猛スピードで落下していく。さすがのアンデも目の前に一瞬で現れた、山のような巨躯を持つ天災の死骸を回避することは叶わず、その圧倒的な質量に押し潰されていく。


「ぬおおおおおおおおお!!」


 今まで何をしても声色ひとつ変えなかったアンデが大きな悲鳴をあげる。しかし無情にも天災の死骸はアンデを悲鳴ごと地面へと押し潰した。


 ズズーン


 巨大な衝撃音と共に天災の死骸が地面に衝突する。その衝撃波により、ただでさえ草原とは呼べなくなっていたベージル平原が更にその地形を変えた。


 いくらアンデとはいえ、あれほど圧倒的な質量に押し潰されてしまえばなす術もないだろう。もしかしたら大魔導士の弟子を殺してしまったかもしれないが、こちらが手加減をしている余裕などなかった。


 障壁魔法を張っていたし、あれほどの強靭な肉体だ。まだ生きていて回復魔法をかければまだ助かるかもしれない。


「……んなっ!?」


 気配察知スキルによりアンデの所在を確認しようとした瞬間、俺よりも危機察知スキルが最大限に反応した!


 バキンッ


 いきなりの頭上からの衝撃により俺の障壁魔法が割れ、その衝撃によって天災の死骸の上に叩きつけられた。


 ダンッ


「……痛っ」


 完全に勝負が決まったと思っていたため、完全に油断していた。障壁魔法も消えかけていたため、天災の死骸に上空から叩きつけられてダメージを受けてしまった。なんとか身体を持ち上げ立ち上がる。


 だが何が起きたんだ! なぜ俺はあんな上空から下に向かって叩きつけられたんだ!?


「……やってくれたな。さすがに今のは死ぬかと思ったぞ。障壁魔法を張ってはいたが、あの質量だ。そのまま押し潰されて圧死していてもおかしくはなかった」


 天災の死骸の上にいる俺の更に上空より俺を見下ろす小柄な影があった。


「どうやって今の攻撃を回避したんだ……」


「……答えを教えてやる」


 上空にいたはずのアンデが消え、いきなり俺の目の前に現れた。


「……転移魔法か」


 その魔法を俺は知っている。自らが移動したことのある場所、一度視界にいれた場所に一瞬のうちに移動することができる魔法。俺もよく移動に使っている転移魔法だ。


 だがこの転移魔法は、魔法を発動してから数秒間のタイムラグがあるはずだ。しかし、今のはどう見ても魔法の発動と同時に移動をしたようにしか見えなかった。


「……さすがに知っておるか。ひょっとすると貴様も転移魔法を使えるのか? だが、これほどの速度で転移魔法を使用することはできないであろう」


 そう言いながらヒュンヒュンと前に後ろへと一瞬のうちにその身体を移動していくアンデ。


「さすがにそれは反則だろ……」


 これほどの速度で転移魔法を発動できるのは流石にチート過ぎるだろ! 今までは全然本気じゃなかったんだな。最初からこの転移魔法を使っていれば、戦闘経験の少ない俺なんか一捻りだっただろうに。


「……我の一番得意な魔法だ。この転移魔法は戦闘にも使えるよう長い年月をかけて鍛え上げたからな。反則というなら貴様の今の攻撃も相当だったぞ。この死骸は天災のものであろう?


 我も師匠と一緒にいる時に一度だけ見たことがあった。その時はあの師匠でさえ討伐することができなかった化物だ。我もいずれは挑もうと思っていた相手でもあるな。しかもこいつは絶望的に魔法と相性が悪かったはずだ。どうやってこいつを倒したのかは非常に興味がある」


「……さあな」


 たまたま持っていた爆弾と廃棄物の毒ガスのおかげとは言えない。


「……まあよい。しかし今の攻撃は実に見事であった。あえて移動に制限のある空中へ逃げたと思わせ、空中でこんなものを放り出すとはな。どうやら我もまだ貴様を甘く見ていたようだ。マサヨシといったな、これからは我も本気でいかせてもらうとしよう」


 ここから本気とか、そういう展開は漫画の中だけにしてくれませんかね……

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