第161話 チートオブチート


 アンデが瞬間移動みたいな転移魔法が使えたとは、はっきり言って完全に誤算だった。これではどんなに強烈な一撃を加えようとしても寸前で回避されてしまう。こんなの完全にチートだろ!


「……とりあえずこの天災の死骸は邪魔ではないか?」


「……ああ」


 さすがにこの天災の死骸はお互いにとって邪魔だ。それに俺はいざとなったらこの天災の死骸を盾にも使おうと思っていた。これだけの質量なら大抵の魔法は防げるからな。


 改めて天災を収納魔法で収納する。相当な重量だったため、地面は凹んでおり、いくつかあった岩や木などはすべて潰れて真っ平らな平地となっていた。


「……それほどの質量の物を収納できるという貴様の魔力量もかなりのものだな。さて、改めて仕切り直しといこうではないか!」


 さすがに今の攻撃を防がれるとは思っていなかった。あの高速の転移魔法は反則だ……


「……面白いものを見せてもらった礼だ。先手は譲ってやろう、そちらから魔法を撃ってくるがいい」


「………………」


 くそ、こちらの渾身の一撃を防いだためか、アンデにはだいぶ余裕があるように見える。何を企んでいるのかわからないが、こちらから攻撃していいというならば乗るしかない。


「ライトニングキャリバー!」


 アンデの上空に金色の雷の剣が現れる。この魔法の着弾と同時にアンデに突っ込もうとしたのだが、アンデは避けようともしなかった。


 バリバリバリバリ


 雷の剣が上空からアンデを襲おうとする。


「マジックイレイザー!」


「んなっ!?」


 アンデが魔法を唱えた瞬間に雷の剣がした。アンデの上空5〜6mのところを境に、剣が刃のほうから順に消滅していった。


「……これは最近になって我がようやく完成させた新魔法だ。この魔法を完成させるのには長い年月をかけたものだな。効果は見ての通り一定時間の間、我の周囲の術者が放った魔法を消滅させる魔法である」


「魔法の無効化……」


「……その通り、奇しくも貴様が倒したその天災と同じ力だ。師匠が天災を研究し、それを我が引き継いでついに完成させたのだ! その力身をもって味わうがいい」


 フッ


 アンデがいきなり消えた! これは転移魔法!?


 それと同時に危機察知スキルが後ろで反応する。


「っ!?」


「ファイヤーイグニション!」


 転移魔法により俺の後ろに一瞬で現れた。まずい防御を!


「くそ! ウォーターウォール!」


 パアアアアアン


 アンデの目の前で大きな火炎の爆発が巻き起こる。


「がはっ!!」


 あまりの衝撃に一瞬のうちに遥か後方まで吹き飛ばされた。鎧の胸部分が凹み、胸部に大きな衝撃を受けたため、口の中から血の味がする。


「障壁魔法まで消せるのかよ……」


「……どうだ? この魔法の恐ろしさがわかったであろう?」


 ……もう十分すぎるほどにわかっている。相手の魔法を消滅させる魔法、それはもちろん防御にも有能だが、攻撃の際にも非常に有能だ。防御の魔法や障壁魔法すらも強制的に解除させられる。


 アンデの周囲ではアンデだけが魔法を使えるという理不尽さ。これを防ぐにはとにかくアンデから距離を取ることだが、転移魔法によって一瞬でその距離を潰される。


 チートオブチートすぎるだろこんなの! 転移魔法でもかなりお手上げなのに、さらに魔法の無効化とかねえよ! てかもうとっくに大魔導士の力を超えてるだろ!


「……今までで出会った者の中で、師匠の次に強い男であった。マサヨシ、最高に面白い戦いであったぞ!」


 一方的な蹂躙が始まった。




「ぐうっ!?」


「……いい加減に諦めて降参したらどうだ?」


 先程から俺が魔法を使えないように一定の距離を保つアンデ。おかげで回復魔法も使えずに徐々に傷を負っていく。俺を吹き飛ばさずに自分の一定範囲内の距離に留めておくために、アンデはそれほど強い攻撃はしてこない。


 くそ、一度でいい。一度でいいからアンデの魔法を無効化する範囲外に出なければ!


「絶対にしねえよ!」


 足が重いし腕は痛い。呼吸するだけでも胸が痛くなるし、血を流しすぎたせいか頭も少しクラクラする。


 大魔導士の家にあった一番硬いはずの鎧はところどころひしゃげている。そして長い間顔を隠すために使っていた黒い仮面も半分は割れてしまっている。


 だがそれでも降参なんかするわけがない! サーラさんの命がかかっているんだ、引けるわけがあるか!


「……よほどその王族の者が大切なのだな。まあよい、それなら戦闘不能にさせて終わらせてくれよう」


 くそ、このまま終わってたまるか! 一か八かだ!


 俺は右腕を突き出した。そして俺の右腕にはがはめられていた。


「いけ!」


「ぬっ!?」


 エドワーズ国の宝具である神雷の腕輪。この腕輪には魔力を溜めることができ、エドワーズ国の魔法使いが総力を上げてこの腕輪に魔力を込めていた。その全てを一気に放出し、金色の巨大な雷がアンデを襲う。


 かつてはこの国の第一王子が持っていた国宝であったが、今回の決闘のためにパジアさんが装備していたものを借りて右腕に身につけていた。


「ハイヒール!」


 アンデの魔法無効化範囲外に出てすぐに回復魔法を使う。みるみるうちに傷が癒えていった。


 どうやら俺は賭けに勝ったらしい。アンデの魔法を無効化する力は魔道具には効果がなかったみたいだ。


「……驚いたな。そいつは魔道具か? 確かにこのマジックイレイザーは魔道具には効かぬが、それほど強力な魔道具があるとはな。だがそれも今の一撃で仕舞いであろう? それほどの力がそう何度も使えるはずはあるまい」


「………………」


 そう、今のでこの神雷の腕輪にあった魔力はすべてなくなった。もう今と同じ手は使えないし、今の一撃でもアンデは障壁魔法で傷ひとつ負っていない。再びあの魔法無効化の範囲内に入ってしまえばもう防げない。


 だからこれが俺の最後のチャンスだ!


「収納魔法! 極大魔法アクアヴァルギニル!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る