第159話 水の極大魔法
「……ハイヒール」
左腕が緑色の光に包まれ、痛みが引いていく。
血を流すことなんて久しぶりだな。いじめられていたころに磯崎に殴られて鼻血を出した時以来か。当たり前だがあの時の比じゃないくらい痛かった。この世界の冒険者の人達は毎日こんな痛みと常に隣り合わせなんだから本当に尊敬するよ。
今のアンデとの攻防でこの辺りの草原一帯はひどい有様となっている。……いや、最早草原とは言うことができない。土は捲れ上がり、緑色の草花はすべて消滅していた。
一瞬だけサーラさん達がいるほうを見るが、エドワーズ国の陣営は無事なようで、先程よりも更に俺達から距離を取っている。今の攻防でかなりの範囲に魔法による攻撃が飛んでいってしまった。サーラさん達には悪いが、そちらをかばいながらアンデと戦う余裕は俺にはないようだ。
「……貴様もかなりやるようだが、戦闘経験の差で我のほうに分があるようだな。どうだ、ここいらで降参するか?」
……悔しいがアンデの言う通りではある。驚くべきことだが、アンデの魔法はあの大魔導士の力を継承した俺の魔法と同等かそれ以上だ。その上で、目眩しやその場に適した魔法を選び、必要最小限の回避や防御で攻撃をいなしていく戦闘経験は、間違いなくアンデのほうが上である。
少しでも足を止めたり、反撃の魔法を撃たなければ、間違いなく先程のような絶え間ない魔法のゴリ押しでこちらが押し潰される。少なくとも昨日までの訓練がなければとっくにやられていた。本当にみんなには感謝しかない。
しかしこの戦い方では間違いなく俺は勝てない。可能性があるとすれば、アンデの魔力切れだ。しかしあれだけ連続で魔法を撃ったにもかかわらず、まったく疲労している様子はない。持久戦に持ち込んだとしても、先にこちらが潰れる可能性が高い。となると……
「絶対にごめんだ!
空に巨大な魔法陣が浮かび上がる。極大魔法は他の魔法と異なり、発動しようとすると空に補助用の魔法陣が出てくる。
手数や経験で劣っているならば、それを上回る強大な一撃で勝負を決めてやる。アンデには手加減なんてする余裕がないし、必要もない。今俺にできる最強の魔法を撃つ!
「……まさか貴様もそこまでの領域に辿り着いていたとはな。ならば我もそれに応えよう! 極大魔法アクアヴァルギニル」
「っ!?」
空に浮かんでいた巨大な魔法陣の一部に重なりあうように、もうひとつの巨大な魔法陣が浮かび上がった。
目の前に巨大な水でできたドラゴンが現れる。極大魔法アクアヴァルギニル、この極大魔法は水により巨大なドラゴンを作り出す魔法だ。
「「GAAAAAAAAA!」」
そして同様にアンデの目の前にも巨大な水の竜が現れた。竜の姿は魔法の使用者のイメージによって異なるのか、俺の魔法でできた竜の姿と、アンデの魔法でできた竜の姿は異なる。俺のほうは昔リリスさん達と初めて出会った時に倒したドラゴンと同じ姿だ。
火や風の極大魔法は範囲攻撃となっており、広範囲の魔物などの殲滅には向いているかもしれないが、アンデひとりに発動しても、魔法が発動する前に超スピードで範囲外に逃げられてしまう。
この水属性の極大魔法なら、当たるまで敵を追い続けていくし、巨大であるためいつかは的中するはずだ。しかしアンデが火属性の極大魔法を使えるという情報は聞いていたが、水属性の極大魔法まで使えるという情報は聞いていなかった。
「「GAAAAAAAA!」」
互いの水でできたドラゴンが互いに爪を敵の身体に突き立て、キバをその身に食い込ませる。姿形は異なるが、その大きさはほとんど同じである。水でできているとはいえ、当然魔法でできたドラゴンだ。あの巨大な爪や牙はすべて実体で、もしあれが当たればかなりのダメージとなる。
「「GAOOOOOO!」」
しばらくの間、互いの水のドラゴン同士が激しく戦う。この隙に術者本体を攻撃とも思ったのだが、水のドラゴン達は、俺たちの目の前で激しい戦いを繰り広げている。この巨大な水のドラゴン同士の戦いに巻き込まれたら、さすがに無傷ではすまないため、俺もアンデも下手に動くことができずにいた。
そして激しい戦いの末、互いのドラゴンは同時に消滅していった。このアクアヴァルギニルの魔法は完全に互角のようだ。
「……どうやら極大魔法については互角のようだ。しかし、まさか極大魔法まで使えるとは思いもせんかったぞ。本当に惜しいのう、もしも貴様がハイエルフで時間さえあれば、我をも超えた存在となっていたであろうにな」
「その賞賛に免じて、今回だけは降参してくれないか?」
極大魔法でも相殺されるのか。……チートな魔道具を装備していても、すでに相当な魔力を消費している。正直に言ってかなり厳しい状況だな。
「……面白いことを言うな。これほど楽しい戦いは初めてだぞ、こんなところで終わらせてたまるか」
「………………」
この戦いが楽しいとか戦闘狂かよ! こちとらサーラさん達が助かるなら土下座でも何でもしてやるというのに。
「……さあ、戦いを続けようではないか!」
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