第152話 抑制スキル


 威圧スキルによって騎士達が一瞬ひるんだ隙に、左側にいる騎士達のほうへ向かって右足を力強く踏み込んだ。踏み込んだ右足の衝撃によって地面がえぐれる。たった一歩の踏み込みで、騎士達との距離を一気に詰める。あまりの高速での移動に騎士達はほとんど反応できていない。


 抑制スキル、オン!


「がはっ!」


「ぎゃあ!?」


 もちろんこの猛スピードのまま騎士達を殴れば、大怪我を負うことは必至なので、攻撃が当たる瞬間に抑制スキルをオンにして、適度な力で後ろに並んでいる騎士達ごと吹き飛ばす。


 そう、俺は大魔導士から継承魔法でその力を受け継いだ時から、ずっと抑制スキルを使用してその力を抑えていた。そうでもしないとこの凄まじいほどの力では、普通に歩いたり物を持つことすらもまともにできなかったからだ。

 

 みんなと大魔導士の力を使いこなす訓練の中で、抑制スキルを使わずに、この力とスピードに慣れていった。最初はこの力とスピードに振り回されていたが、見切りスキルを使うことによって多少時間の流れを遅く感じることができ、うまくこの力とスピードを制御することができた。


「て、敵はたったひとりだ! 前衛部隊は前に出よ、後衛部隊は支援魔法と攻撃魔法を唱えるのだ!」


 先程前に出てきていた者が騎士達の指揮を取る。統率された動きで即座に隊列を組み直していく。その間に左側の騎士達を大怪我させないように、殴って吹き飛ばして戦闘不能にさせていく。


「フィジカルアップ! プロテクト!」


 ギンッ


 先程までは盾ごと騎士達を吹き飛ばしていた拳が盾によって受け止められた。後衛の支援魔法である身体強化魔法と硬化魔法が前衛の騎士達を強化したようだ。一度後ろに引いて距離を取る。


「よ、よし! 敵が離れたぞ、今が好機だ!」


 さすがに対応が早いな。こういう場合はまずは後衛から潰すとしよう。


「エアバレット!」


「んなっ!? あ、あれほどの速さと力でさらに魔法も使うだと!?」


「た、隊長! 巨大な魔力が!?」


 エアバレット、空気の球を打ち出す中級風魔法である。それほど威力は高くないが、高速で見えにくい空気の弾丸を撃てるので後衛を狙うのにはピッタリだ。抑制スキルを使っても魔法による手加減はできないし、魔力を温存しておきたいから、あえて上級魔法は撃たない。


「す、凄い数です!」


「い、いかん! 後衛をなんとしても守るんだ!」


 空中に20近くのエアバレットを浮かべて、一気に後衛のローブを着た魔法使いらしき人達に狙いをつけて撃ち込む


「ぐうっ!?」


「こ、これが中級魔法の威力だと!?」


 その攻撃は魔法によって身体能力を強化された盾を持った騎士達に阻まれた。さすがにこれで倒せるほど甘くはなかった。


 だが、十分に騎士達の注意を惹きつけ、エアバレットを防ぐために盾を前に突き出したことで、一瞬前衛の視線が俺から外れた。


 その隙に抑制スキルを切ったスピードで一気に距離を詰めて陣形の側面を突いて後衛を直接狙う。


「お、おい! こっちから来て……ぎゃあ!」


「くそっ! 速すぎる!」


 何人かの騎士達は即座に反応したが、すぐに後ろに下がって次の魔法を撃つ。


「エアバレット!」

 

「また来たぞ!」


「くそ、攻撃する暇がねえ!」


「がはっ!」


「ぐえっ!?」


 後衛を削ったことにより、身体強化魔法が切れた騎士達が先程と同じ攻撃を受けて吹き飛ぶ。そしてその隙をついてさらに後衛を削っていく。


 これがみんなと訓練をすることによってできた戦闘スタイルだ。魔法使いとは思えない身体能力を活かして、高速で移動しながら魔法を撃って相手に攻撃させる隙を与えない。


 そういえばだいぶ前に大魔導士マニアであるジーナさんにもらった資料でも、大魔導士は自らの足で戦場を駆け巡って大規模な魔法を放っていたと書いてあったから、もしかしたら俺と同じような戦略をとっていたのかもしれないな。


「む、無茶苦茶だ……」


 これで護衛部隊の右側にいた騎士達もほぼ壊滅状態だ。残りは中央に位置する隊長と思わしき男の部隊と、決闘の代表者であるパジアさんだけだ。

 

 でもパジアさんの近くにはまだサーラさんもいるんだよな。さすがにあそこに突っ込むことはしたくない。


「……もう十分であろう、貴殿らは引くがよい」


 部隊の中心にいたパジアさんが俺の前に出てきた。


「パ、パジア様!? ま、まだ我々が残っております!」


「周りをよく見てみるのだ。吹き飛ばされた騎士達はまだ生きておる。もしこの者が本気を出しておれば、もうとっくに全滅しておる」


「うっ……」


「真の大魔導士を継ぐ者と言ったな、そなたは何者だ!」


 どうやら話し合う意思があるらしい。


「我の名はマサヨシ! かの大魔導士ハーディより、その力を受け継いだ者なり!」


 ……自分で喋っていておいてなんだが、この口調はかなり恥ずかしい。とはいえ、いつもの丁寧な言葉遣いでは舐められてしまうから仕方がない。あと国の代表者になるなら、さすがに名前くらいは名乗らないと駄目だろうな。


「マサヨシ……知らない名だな。大魔導士の力を継いだとはどういう意味だ?」


「詳細は省くが、大魔導士に近い力を使えると考えるがよい。かの大魔導士が使っていた極大魔法も使うことが可能だ」


「なに!? 極大魔法だと!」


「ま、まさか!? しかし、先程の中級魔法であの威力、可能性はあるのか……」


「お、おい。それならもしかしてバードン国と互角に戦えるんじゃ……」


「ば、馬鹿、ハッタリに決まってんだろ!」


 パジアさんの後ろで兵士達がざわめく。証拠を見せてるのが1番早いんだろうけど、できれば敵国の代表者と戦う前に極大魔法を使いたくはない。

 

「……仮に極大魔法が使えるとして、なぜそなたはエドワーズ国に味方をする?」


「エドワーズ国? そんなものはどうでもいい。我が助けたいのはそこにいる第三王女であらせられるサーラ様だけだ」

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