第153話 代表者決定


「な、なんと不敬な男だ! 国がどうでもいいだと!」


「こんな愛国心のカケラもない男にこの国を任せられるか!」


「それならそれでいい。ただし、その場合はこの場よりサーラ様だけを攫って失礼するだけだ。もちろんそれを邪魔立てするなら容赦はしない!」


「マサヨシ様……」


「「「………………」」」


 はっきり言ってサーラさんの安全だけを考えるならその手段もありだ。しかし、その場合だと間違いなく俺やサーラさんはお尋ね者になってしまうし、サーラさんの家族を見捨てることになる。


 ぶっちゃけ以前にサーラさんの命を狙った第一王子と第二王子の命はどうでもいいのだが、国王であるサーラさんの実の父親まで見捨てたくはない。屋敷でサーラさんと話していた時も、父親との仲は悪くはなさそうだったからな。


「ま、待て!」


「ジャ、ジャレン様!?」


 ん? 誰かが馬車の中から出てきた。ジャレンって誰だ?


「お、俺様はこの者がこの国の代表者になることを認める!」


「なっ!? ジャレン様、何をおっしゃっているのですか!? こんな怪しい黒い仮面で顔を隠していて、どこの馬の骨ともわからない不審者など信用できるわけがありません!」


 ……よし、そこの部隊長。おまえの顔は覚えたから、あとで校舎裏に集合な!


 そうか、どこかで見たことある顔かと思ったらこの国の第一王子だったか。確かおっかない魔道具を持っていたやつだ。


「お、俺も賛成する! この者ならばバードン国の大魔導士を継ぐ者に勝てるかもしれない!」


 さらに馬車からもうひとり出てきた。今度出てきたのはこの国の第二王子か。そういえば前にこの仮面を付けてサーラさんに手を出さないように警告しに行ったことがある。


 その時にはこの国の王城に忍びこんで、精鋭の護衛達を倒したからこの2人は俺の強さを知っているし、サーラさんを助けにここまで来たこともわかるはずだ。今の勝ち目が薄い絶望的な状況よりは俺が代表者になるほうがいいと思ったのかもしれない。……なんだったら俺と敵が共倒れになることが2人の理想かもな。


「エ、エドワード様まで……」


 さすがにこの国の第一王子と第二王子が賛成しているとなれば、部隊長が何か口を挟めるような状況ではない。


「サーラ、その者は以前にお前を救ってくれた者か?」


「お、お父さま!?」


 さらに馬車から立派な髭を生やした男が現れた。高価そうな服を着て、立派な装飾品や王冠を身につけていることから、彼がこの国の王様なのだろう。


「……はい。以前にお父様にもお話ししました方です。私はマサヨシ様に何度も命を救っていただきました」


「なるほどのう。マサヨシ殿、娘を救ってくれて感謝する。本来ならばゆっくりと礼を伝えたいところなのだが、あいにく今は時間がない。パジア、そなたから見てこの者の実力はどう見えた?」


「はっ! 先程は己の身体能力と中級魔法のみの使用にもかかわらず、この騎士団を圧倒しておりました。極大魔法が使えるかどうかの真偽は分かりませぬが、少なくとも本気を出せば現在力の衰えた私では歯が立たないでしょう」


 おっ、これはパジアさんとの戦闘は避けられそうかもしれない。あの部隊長とは違って話が分かりそうだ。やはり実力者であればあるほど、相手と自分の力量を測れるということだろう。


「ふむ……パジアをしてそう言わしめるか。マサヨシ殿、そなたは先程サーラのためにこの国の代表者としてバードン国の代表者と戦うと言ってくれたが、本当なのだろうか?」


「ああ、彼女のためにできる限りのことをつくすと誓おう」


「マサヨシ様……」


「……なるほど。パジアには悪いが、正直に言って敵国相手の実績を考えると、少々厳しい戦いになると思っていた。どうか、我等を助けてほしい」


「ああ、全力を尽くそう」


「私からもお願いしたい。どうかこの国を守ってほしい」


「突然現れ、いきなり代表者を代わってくれなどという馬鹿げた願いを聞いてくれて感謝する」


 パジアさんが引いてくれたおかげで、俺は万全の状態で敵と戦うことができる。さらに国のためにいきなり現れた代表者の座を奪った俺に頭を下げている。むしろこちらのほうが感謝している。


「して、そなたは何を望む? 以前にサーラを救ってくれたこともあるし、できる限りの礼をしたいのだが……」


「ひとつ約束してもらいたいのだが、もし我が勝った場合には、敵国の人々を人道的に扱うと約束してほしい」


「それについては問題ない。そもそもバードン国との決闘では、負けた国の国民達を無下に扱わないように取り決められている」


 あ、そうなんだ。いくらサーラさんのためとはいえ、ないとは思うが敗戦国の国民を全員奴隷にするとか、税収を倍にするとかいう圧政をしかれたら困るところであった。


 敗戦国の王族はほぼ処刑されるという話であったが、俺が勝ったあとの相手国の王族の処遇については王様達に任せるとしよう。そもそも向こうの国が戦争を仕掛けてきたのだ。さすがにそいつらをかばう気なんてこれっぽっちもない。


「それともしも金品や勲章などをいただけるのであれば、それらはすべてパジア殿に与えてほしい。パジア殿のおかげで、我は万全の状態で敵国の代表者と戦うことができる。今は特にそれ以外の望みはない、ひとつ貸しと思ってくれればそれで良い。我からの要求はそれだけだ」

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