第141話 ヤンキー再び


「それじゃあ、安倍くんと立原くんの3位入賞を祝って乾杯〜!」


「「「乾杯!」」」


 日が暮れて宿の庭で川端さんの音頭によりバーベキューが始まった。安倍ももう鼻血は止まったようで、普通に歩き回っている。


「それにしてもまさかあそこから勝てるとは思ってもいなかったな。普通に棄権するもんだと思っていたぞ」


「あとたった2点だったからな。さすがにもっと点差があったら棄権してたけど。ギリギリ勝ててよかったよ」


 その場合はサーブで相手1人を狙って道連れにする作戦に切り替えていたかもしれないのは秘密だ。


「2人のおかげでバーベキューがとっても豪華になったわ。本当にありがとうね!」


「ええ、私もライブを手伝ってもらっただけじゃなくて、ご馳走してもらって本当にありがとう!」


 3位の賞品がこの地域のスーパーや商店街で使える地域振興券5000円分だったため、安倍に許可を取ってすべてこのバーベキューの食材と花火に使ってしまった。悪いけどここにまた来る機会なんてなさそうだったから使い切ってしまった。


 そしてバーベキュー代や花火代を佐山さんと茂木さんがすべて出してくれるという提案があったのだが、男サイドが満場一致でそれを却下した。そりゃ間違いなく佐山さんが茂木さんの次にお金を持っているのは知っているが、男としてそれはできなかった。


 その結果、年長者の茂木さんが半分を支払い、残りを全員で割ることになった。それに加えて5000円分の券があるので、予定していたものよりも豪華な食材と花火を買うことができたというわけだ。


「みんなには応援してもらったからね。あれでこっちもすごいやる気が出たよ」


 これはお世辞でもなんでもなく事実である。同級生の女子に応援してもらって張り切らない男子高校生など存在しないと断言できる。


「それに渡辺には病院まで付き添ってもらったからな。サンキューだぜ」


「べ、別に大丈夫だよ」


 ああいう場面で率先的に手を挙げられる渡辺もいいやつなのである。


「安倍くんも渡辺くんもいい人っすね。さすが兄貴の友達っす!」


「そういえば茂木さんはなんで立原のことを兄貴って呼んでいるんですか?」


「まあまあまあ、その話は置いておいて食べようじゃないか。ほら、こっちの肉もいい感じで焼けているぞ」


 むしろ俺が聞きたいくらいだよ。


 まあ色々と絡まれたり、安倍が軽い怪我をしたが最終的にはいい思い出になりそうだ。みんなでバーベキューを楽しむことはこれほど楽しいものだったんだな。リア充の気持ちが少しだけ分かった気がするよ。


「……あ、ちょっとトイレに行ってくる」


「おう」


 バーベキューも盛り上がっているところだが少しだけ席を外す。まさか今やって来るとはな。




「おお、てめえひとりで出てくるとは都合がいいじゃねえか」


「なんだこんなガキに恥かかされたのかよ。ダッセーな」


「うるせー、黙ってろ!」


 ……覚えてろと言われたが、まさか本当にやってくるとは思わなかったよ。実はあのバレー大会のあとから買い物をして宿に帰るまでずっとひとりの男が跡をつけてきていることに気付いた。


 交差点のカーブミラーを使って姿を確認したところ、知らない顔ではあったが、ヤンキー風な格好をしていたことから先程の金髪男と鼻ピアス男の仲間と判断した。


 あいつらが何かちょっかいを出してくる可能性も考えて気配察知スキルをオンにしておいた。すると宿に向かってくる先程の男と他5人の気配があったので、トイレに行くふりをして宿の外までやってきたわけだ。


 しかし、日が暮れているとはいえ本気なのか? これだけの人数で宿を襲撃なんてしたら、間違いなく警察沙汰になるはずだ。鼻血を出して恥をかかされたくらいでそこまでするのか。


「腹いせに楽しんでいるところをちょっと邪魔してやるくらいのつもりだったんだが、おまえひとりで出てきたなら話は別だ」


「そうだな、ちょっと付き合ってもらうぞ」


 ……なるほど、バーベキューの食材を買いに行ったところは見られていたから、バーベキューで楽しんでいるところに絡んできたり、食材でもひっくり返して楽しい思い出を台無しにしようとしていたわけか。


 怪我をさせたりしなければ警察も動かないだろうし、捕まったとしてもロクな罪には問われないだろう。……安倍の顔面にアタックを決めたことといい、ずる賢いやつらだな。


「いいですよ、ここではあれなので人気のないほうに移動しましょうか。そちらの方がいいでしょう」


「へえ〜度胸あるじゃん。その度胸に免じて殴るのは服の上からだけにしておいてやるよ」


「そうだな、警察を呼ばれないくらいにサクッと痛めつけて解放してやるから安心しな」

 



「「「すみませんでした!!」」」


 それから人気のないところに移動して、いつものように威圧スキルを使い、もう二度と同じようなことをしでかさないように入念に脅して解放した。


 警察に突き出そうとも思ったのだが、吐かせたことによると、これまでもギリギリ警察沙汰にならないようなことばかりしてきて罪には問えなさそうだ。


 まあ軽い気持ちでヤバいやつの虎の尾を踏むこともあると学んだだろう。それに俺も2日連続で警察にチンピラ達を突き出せば、痛くもない腹を探られる気もする。


 とりあえずみんなの楽しい思い出を壊されないでよかったよ。しかし昨日から恐喝をしたり絡んできたりとこのあたりは治安が悪いのかもしれない。地域振興券をもらっておいてなんだが、正直に言ってもう二度とこの街に来ることはないだろう。

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