第140話 お返し
「ええ!? あの、バレーボールですよ? このまま棄権されたほうが……」
バレーとは仲間内でボールを交互に打って相手のコートに返すゲームだ。当然だがひとりではすべてワンタッチ以内で返さなければならないため、まともな試合にすらならない。
「いえ、どちらにしろ棄権で負けになるなら続けさせてください」
「ええ〜と……どうしましょうかね……」
「俺らなら構いませんよ」
「そうそう、怪我させちまったのは俺らなんですし」
「……わかりました。対戦相手であるおふたりがそう仰るのでしたら」
「ピー!」
先程のポイントは相手チームに入り、得点は19対19。金髪男と鼻ピアス男はすでに勝利を確信してうっすらと笑っている。
だが幸いサーブ権は俺に与えられた。このまま俺が2回連続でサービスエースを取ればそれで終了だ。
俺はボールを空高く放り投げる。
「ていっ!」
ザンッ
「んな!?」
俺が打ったジャンピングサーブに金髪男も鼻ピアス男もまったく反応できていなかった。
「「「おおおおおおお!」」」
俺がひとりでプレーしていることと、今日イチのスピードのサーブに観客達が沸き立つ。これで20対19、あと1点で俺達のチームの勝利である。
「ピー!」
「ていっ!」
「くっ!」
「ナイスだ!」
俺のジャンピングサーブが金髪男に止められる。さっきまでと比べてだいぶスピードをあげたサーブだが、さすがに2回連続でサービスエースは取れなかったか。
「いくぞ!」
「おう!」
鼻ピアス男がトスをあげる。そして体勢を立て直した金髪男がアタックの構えを取る。俺はネット際まで詰め、ブロックの構えを取る。
先程の展開とまったく同じだが、ブロックをしているのは俺ひとりで後ろはガラ空きだ。さすがに今回は俺の顔面ではなく、空いたスペースを狙ってきた。
しかし、見切りスキルでボールの弾道がスローに見えている。金髪男のアタックをしっかりと捉え、弾いた球が金髪男の顔面に当たるように微調整してブロックする。
「がはっ!」
その結果、俺が弾いた球は金髪男の顔面にヒットし、球はそのままコートの外に消えていった。
「痛って!」
顔面にボールが当たり金髪男は倒れたが、アタックをブロックした球が当たっただけなので、先程安倍が食らったアタックよりも威力は格段に低い。
「ウ、ウォンバイ、安倍・立原ペア!」
「「「おおおおおおお!」」」
「おい、テメエわざとだろ!」
「痛え……」
金髪男の鼻からは鼻血が出てきた。球の勢いもそれほどなかったから、鼻を押さえながらもう立ち上がってくる。
「まさか? ブロックした球が偶然顔に当たっただけでしょう? それともあなたのアタックはそれを狙えるほど
本当は顔を狙う必要もなかったのだが、安倍が故意に顔面をやられたことで俺も少し怒っている。あえてアタックを打った金髪男の顔を狙い、相手を煽るようなセリフを言う。
とりあえず安倍と同じように顔面に球を当てて鼻血も出たし、最後だけとはいえ2対1で負けて恥もかかせたから今はこれで十分だろう。だがもしも安倍に何かあったらこんなもので済ます気はない。
「……くそっ、覚えてやがれ!」
「クソッたれ!」
よくある下っ端的な捨て台詞を吐いて2人は去っていった。この大会は3位までしか賞品はもらえないからな。
「立原くん、おめでとう!」
「すごい、ジャンピングサーブなんてできたんだね!」
「これまでにだいぶ練習したからね」
男たるものジャンピングサーブには憧れてしまうものだ。準決勝に来るまでに何度か打って試していた。
ただそのうちの大半がサーブミスで相手の得点になってしまったが。さすがに準決勝ではミスをしないように下手サーブだけにしたが、最後は抑制スキルを弱めて少し強めに打った。
2本目のサーブを取られたのは少し計算外だったな。あの2人もだいぶ強かったから、1点リードしていたとはいえ、普通に戦っていれば負けていた可能性も十分あった。
「さすが兄貴っす! このまま優勝を狙いましょう!」
「いや、さすがに棄権するから」
いくらなんでも決勝戦をひとりで戦うつもりはない。本気を出せば優勝は余裕だろうが、そこまでしなくても十分だ。決勝戦まであの2人を進めさせたくなかっただけだからな。
そのあと安倍に付き添っていた渡辺から連絡があって病院で検査を受けたが、異常はまったくなかったようだ。このまま先に宿に戻っているらしい。どこにも異常がなくて本当によかったよ。
そして3位の俺達チームが棄権したことにより、実質決勝戦の試合をみんなで観戦した。どちらのチームも俺達よりもずっと強く、決勝戦と呼べるハイレベルな戦いだった。やはり俺達が準決勝まで来れたのは安倍のくじ運が良かったからだろう。
1位はボディービル大会に出ていてもおかしくないようなガチムチ系の2人だった。2位は俺達と同じくらいの高校生の2人だった。2人とも俺達よりも全然うまかったからバレー部とかに入っているのかもしれない。
参加者や観戦者も多く、表彰式の時は少し恥ずかったりもした。今までこうやって表彰されたことなんてなかったもんな。
時間的にも日が暮れてきそうな時間になったので、着替えてみんなと買い物をして宿まで戻る。川端さんと佐山さんと一緒に買い物をするという至福の時間はあっという間に終わってしまった。あとは茂木さんさえいなければなあと思ったことは内緒だ。
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