第135話 茂木さんなのに


 路地裏にはひとりの40〜50代くらいのスーツ姿の男性を囲んでいる20代くらいの男が6人いた。どこからどう見ても恐喝の現行犯である。


「ち、シケてやがんな。3万しか持ってねえじゃん!」


 こりゃ完全に確定だな。さっさとあの人を助けるとしよう。おっと茂木さんにはここで待っててもらわないといけない。


 本気で大会のために練習しているみたいだし、ここであいつらに手を出すのはまずい。相手に大怪我でもさせたら、たとえあの人を守るためであっても大会の出場は取消し、下手をすれば逮捕なんてこともあるかもしれない。


 幸い危機察知スキルも反応していないから、今のところあの男性の命に別状はない。それにあんなやつらが6人いたところで大した脅威でもない。つい先週はもっとヤバい銃や日本刀を持ったやつらを捕まえたばかりだ。


「茂木さん、大会も控えているし、俺が行ってくるんでここで待っててください。あと警察に通報をお願いします」


「兄貴、すんません!」


「え? あ、ちょ!?」


 俺の制止を振り切り、茂木さんが駆け出す。いやいや、ちょっと待てって!


「ひいいいい!」


「死ねええええ!!」


 バキッ


「ぐわあ!」


「ちょ、待ってくださいって! 俺が行くから待っててと言ったじゃないですか!」


 俺が止めたのにもかかわらず、茂木さんは男性を殴ろうとしていた男の顔面を思いっきりぶん殴りってしまった。


「いくら兄貴の命令でもこれは聞けないっす! 俺はこうやって大勢でひとりを囲むやつらが一番ムカつくんすよ!」


「いや、だからって今あなたが手を出したらまずいでしょうが!」

 

 こいつらの前だから言えないが、大会が控えているんだろ。大会の出場を取り消されたり、怪我をしてしまったらどうするんだ!


「それはそれ、これはこれっす! このおっさんはほっとけねえんで、そん時はそん時っすよ!」


 ……くそ、茂木さんなのに格好いいじゃないか!


「おいおい、いきなり誰だよてめえら。あ〜あ、こいつのびてんじゃん」


「なに、おまえらヒーローでも気取ってんの? こりゃおまえらにも慰謝料もらわなきゃいけねえな。そっちは2人でしかも1人はガキじゃん、俺達に勝てると思ってるわけ?」


「おい、どさくさに紛れてそこのオヤジが逃げないように見張っておけよ」


「………………」


 本当にどこにでも腐ったやつらはいるもんだな。大勢でひとりを囲むやつらがムカつくね、茂木さんに完全に同意だ。俺がいじめられたころを思い出して、だんだん腹が立ってきた。


「……ほどほどでお願いしますよ。あとこいつらのことより、自分が怪我しないことを優先してくださいね」


「押忍! 兄貴なら心配ないと思いますけど、お気をつけて」


「あん、マジでやる気じゃん、馬鹿なの?」


「おら、死ねや!」






「さて残りはひとりか」


「さすが、兄貴っすね! まさか2人相手に一発ももらわないなんてマジすげえっす!」


 敵は2人ずつに分かれて俺達を襲ってきた。俺のほうは見切りスキルで相手の攻撃をかわしつつ、襲ってくる男どもに手加減した一撃を与えていく。今はいつもの黒い仮面をつけてないから魔法はなしだ。


 茂木さんのほうもさすがに少し殴られたようだが、それでも大きな怪我はなく2人を倒せたようだ。そのうちのひとりは逃げ出そうとしたのだが、すでに2人を倒した俺が捕まえておいた。残りは男性が逃げないように見張っていた男ひとりだ。


「な、何なんだよ! てめーらは一体何なんだよ!?」


 目の前で起きた出来事が信じられないといった様子で取り乱している。


「て、てめーら、それ以上近づくんじゃねえ!」


「ひい!?」


 最後のひとりが男性を無理やり立ち上がらせ、その喉元にナイフを突きつける。


「茂木さんは下がってて」


 う〜む、いろいろと経験してきただけあって、もはやナイフのひとつくらいでは動揺しなくなってきた。むしろ刃物を出してくれたおかげで、こいつらの罪が重くなってラッキーとか思ってしまうもんな。


 しかし刃物は万が一のことがあるから油断は禁物。特に生身の茂木さんに任せるわけにはいかない。今度突っ込もうとしたら無理やりにでも止めよう。


「く、来るなよ。こいつが見えねえのか!」


「ひい!」


 念のために男性の首元に障壁魔法を張って怪我をしないようにしておく。一気に敵に近づき、手刀でナイフを持った手を叩く。


「ぎゃあ!」


 少し強めに叩いたから骨にヒビくらい入ったかもしれないな。手首を抱えて悶絶している。


「もう大丈夫です。立てますか?」


「あ、ああ。ありがとう、本当に助かったよ」


 改めて囲まれていた男性を見ると、メガネは割られて鼻と口からは血が出ている。……命に別状はないとはいえ、ひどいことをしやがる。回復魔法を使って治してあげたいところだが、今は仮面をつけていないから人前で回復魔法を使うわけにもいかない。


 さて、あとは警察を呼んで後始末か。だがその前にこいつらとちょっとお話しないとな。

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