第131話 臨時のアルバイト


「明後日からのライブに同行する予定だったスタッフが食中毒で病院に運ばれました。幸い全員命には別状なかったのですが、スタッフが足りておりません。


 先程すぐに動ける人がいないかを確認したのですが、この時期はどこもイベントが多く、4〜5人のスタッフがどうしても足りなくなるそうです」


「なんてことだ!? 4〜5人くらいならなんとかならないのか?」


 どうやら佐山さん達グループのマネージャーさんとお偉いさんが話をしているようだ。たぶん以前に茂木さんといろいろあった時に謝ってきた人だと思う。


「資材や搬入などはなんとかなると思うのですが、案内係やチケットの確認などのスタッフ数が足りないのは難しいです。ですが今日明日中になんとしても探してみせます。ここで問題を起こしてライブを中止になんてさせません!」


「そうだな、頼むぞ。私のほうでも心当たりをあたってみるが、今日明日中で見つかるかどうか……」


「あの、マネージャーさん」


「あっ、茂木さん。不安にさせて申し訳ありません。なんとしてもスタッフは探してみせますから!」


「いえ、確かその4〜5人のスタッフは高校生でも大丈夫でしたよね。ちょっと隣の部屋にいる人達に心当たりがあるんですけど」


「ほ、本当かね!?」


 そういえばこの部屋に通される時に茂木さんと目が少しあったから、俺達がここにいるということを知っているはず。となると……




「というわけで突然の出来事に急遽スタッフを探しております。もし予定の空いている方がいらっしゃいましたら、明後日から2日間のアルバイトをしてもらえないでしょうか?」


 部屋には先程控え室で話していたマネージャーさん、偉そうな人、茂木さん、佐山さんがやってきた。今はマネージャーさんが話している。


「あ、あの……どういった仕事内容なんですか?」


「はい、ライブ会場入り口でのチケットの確認、物販コーナーのスタッフ、会場への案内係などをお願いしようと思っています。実働時間が7時間ほどで日給1万円、交通費や食費や宿代はこちらで支給致します」


 お、中々の好待遇なんじゃないか。時給にすると1400円くらいか。高校生のバイトとしては破格のバイト代だ。もしかしたら急なこともあって少し時給を上げてくれているのかもしれない。


「兄貴、お願いできないっすか!」


「急なことで本当にごめんなさい。もし時間があったら力を貸してほしいの!」


 茂木さんや佐山さんに他の大人達、全員で高校生である俺達に向かって頭を下げてくれる。


「ゆかり、大丈夫よ。私は参加できるわ!」


「俺も大丈夫です!」


「ぼ、僕もできるかわからないけどやってみます」


「俺も参加します」


 これだけの人達に頭を下げられてしまったら、応えなくては男ではない。みんなでどこかに行く予定が、みんなでバイトをすることに変わっただけだ。


「本当ですか! ありがとうございます!」


「みんな、本当にありがとう!」


「いやあ、本当に助かったよ。そうだ、せめてものお礼といってはなんだが、宿は余分にもう一泊とっておくとしよう。せっかくの夏休みなんだし、友達とで遊んでくるといい」


「「「海!!」」」






 というわけで翌々日、俺達はバスに揺られながら目的地である海まで向かっている。


「いやあ、兄貴達のおかげでマジ助かったっす!」


「俺達もちょうど山か海に遊びに行こうとしてたからよかったですよ。バイト代も高いし、しかも一泊多く宿に泊まれるなんてむしろラッキーかも」


 結局全員が佐山さん達のライブのスタッフとして参加できることが決まり、今は駅に集合してバスに乗って現地へ向かっている。


 俺も母さんにアルバイトの許可をもらい、契約書に同意のサインをしてもらった。明後日という急な話であったが、マネージャーさんがわざわざうちに電話をしてくれて母さんに詳しい説明をくれたので、問題なく許可が下りた。


「宿もビーチの近くだし、宿代やご飯代も出るのは助かるよね」


「だよなあ。しかも毎日ライブが終わって次の日の準備が終われば、そのあとは自由にしていいんだろ、最高じゃん!」


「ふふ、でも仕事だからね。まずはしっかりと仕事を頑張りましょう」


 このバスには俺達以外のスタッフやライブのための機材が乗っている。佐山さん達ライブのメンバーは別のバスに乗っているようだ。


 もちろんフー助も小さくなって一緒に来ている。今週は守さん達も海外へ旅行に行っているから、緊急の事故や事件があったとしても連絡は来ない。そのためフー助もお留守番ではなく一緒に来ている。


 それにしてもアルバイトとはいえ、まさか俺が海に来ることになるなんてな。俺が太っていたころは海か山に誘われていたら多分断っていただろう。


 山を登るのは体力のなかった俺にとっては拷問以外のなにものでもない。すぐに汗を大量にかくし、少し登ったところですぐに体力が尽きて休憩しなければならない。


 それになんといっても俺の進みが遅くて一緒に山を登っている人に迷惑をかけてしまうのが一番つらい。学校の行事で山に登った時とかは同じ班の人に散々迷惑をかけていた自覚もある。


 海に関しては言うまでもなく、太っていたころの腹を見せたくなかったからだ。太ってはいたが、泳ぐことはできた。だが、それよりもあの贅肉たっぷりのボディはたとえ友人であってもあまりみせたいものではなかった。


 そんな俺がまさか海に来れることになるとは思ってもいなかった。しかも同じクラスの女子までいるんだから、これはもう奇跡といっていいレベルだ。もう何度目になるかわからないが、大魔導士に感謝するとしよう。

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