第130話 久しぶりのライブ


 あの調子ならもう大丈夫そうかな。


 見知らぬ人の家の外から女子高生の部屋を覗き込む怪しい影……というか俺です。もちろん不純な動機ではなく、先程記憶を消去した女の子が本当に大丈夫なのかを確認していただけだ。


 というかあの子、塞ぎ込む前はあんなに明るい性格の女の子だったんだな。それにしても記憶を消す前にあの子が言ってくれた言葉は嬉しかった。


「それじゃあ、帰ろうか」


「ホー!」


 この女の子で今回の犯罪者集団に乱暴された女性達の記憶はすべて消したことになる。やつらを警察に引き渡したあと、守さんから被害を受けた女性の住所を教えてもらった。


 そうして乱暴された女性の家をまわって、犯人達が捕まったことを伝え、本人に確認してから乱暴された記憶を消していった。


 やつらに乱暴された女性は全部で10人以上。そしてそのすべての被害者の女性が誰にも相談できずにおり、記憶を消すことを望んでいた。


 さっきの女子高生と同じで犯人達の顔も車もアジトも何も見ていない状況では犯人達を捕まえられずに、家族や友人に危害が及ぶかもしれないと思い、誰にも話せなかったのだろう。


 そして守さんの話によると被害者の女性の中には、自殺未遂を起こした女性や結婚を取りやめた女性までいたらしい。リストカットの傷跡などは消す事ができたが、結婚の取りやめについては俺にはどうすることもできなかった。


 ……それを考えるとあいつらを不能にしただけでは生温かったのかもしれない。たぶん守さんもそのつもりだと思うが、あいつらの罪が少しでも重くなるように手を回してもらえないか聞いてみるとしよう。




 犯罪者集団を捕まえてから3日。被害にあった女性の記憶を消して、トラ丸のおばちゃんのお金が無事に返って来ると警察から連絡があったことも母さん経由で聞いた。


 捕まえたやつらの裁判はまだまだ先だし、捕らえたやつらを尋問して得た別の犯罪者集団の情報は守さんを通して警察に渡してある。


 そっちについても俺が潰しに行こうと思ったのだが、これ以降は警察に任せたほうがいいと守さんに止められた。守さんが言うようにキリがないという事はわかるので、警察でも対処できなかったり、女性の記憶を消す必要があれば遠慮なく声をかけるように伝えてもらい、あとは警察に任せることにした。


 おばちゃんや詐欺の被害者のお金が戻ってきて、女性を助けることはできたのはいいことなんだけど、完全にスッキリはしていない。本当に犯罪者達は滅びればいいのに。






「おはよう。遅くなっちゃってごめんなさい」


「川端さん、おはよう。時間ちょうどだから全然大丈夫だよ」


「これで全員だな。よっしゃ早く行こうぜ!」


 さて、先週はいろいろとあったが、今日はまたみんなで佐山さんのライブを見に行く。飯島さんは仕事があるそうなので、今日は俺と安倍、渡辺、川端さんの4人だ。最寄駅に集まってからライブ会場へ移動する。


「立原くんは夏休みはどこかにでかけたりしたの?」


「母さんと一緒に神奈川県に旅行したよ。……あとはいろいろと走り回ってた気がするな。川端さんは?」


 異世界のダンジョンに行ったり、犯罪者集団を潰していたとは言えない。


「私は長野のおばあちゃんの家に遊びに行ってたくらいかな」


 長野か、行ったことないな。それにしても夏休みにいつもの学校の制服ではなく、私服姿の川端さんを見れただけでものすごく得をした気分になるから男ってやつは単純だ。


「へえ〜僕も長野の上田のおばあちゃんの家に来週行くんだ」


「渡辺くんのおばあちゃんも長野なんだ。私のおばあちゃんは松本なんだよ。長野のおやきって美味しいよね!」


「う、うん」


「ちぇ、みんな旅行に行ってて羨ましいぜ。俺なんて毎日ダラダラと家で過ごしているだけだったのに。なあ、今週みんなで海とか山とかどこか行かないか?」


「いいね。俺は今週空いてるよ」


「うん、僕も大丈夫」


「私も大丈夫よ。ゆかりにもあとで聞いてみようかな。あっ、でも確か今週はどこか別の場所でライブがあるって言ってたかも」


「そっか残念」


 ゆかりさんはアイドルだもんな。むしろ普段よりも夏休みのほうが忙しいかもしれない。というか川端さんも来てくれるのか。夏休み中に同じクラスの女子と遊びにいけるなんて最高すぎるんだが!


「細かいことはライブ終わったらご飯でも食べながら決めようぜ」






 佐山さん達のライブが無事に終わった。今日もライブは大盛況だったみたいだ。そして今日は念願だったチェキというものを撮らせてもらった。小さい写真とはいえ、アイドルである佐山さんとのツーショットはとてもドキドキした。アイドルにハマる人の気持ちもよくわかる。


 先週は気分が悪くなるようなやつらを相手にしていたから、本当に気分がスッキリして元気が出てきた。ストレス解消にライブに来る人も大勢いるんだろうな。前に佐山さんが言ってたけど、アイドルって本当に元気を分けてくれるようだ。


 そして今日はライブが終わった後に佐山さんとファミレスにでも行こうという話になっていた。改めて考えると、先程までステージの上で歌って踊っていたアイドルと普通に話ができるなんて贅沢すぎるよな。


「なんだと!?」


 佐山さんの関係者ということで、控室の隣の部屋に通されて佐山さんを待っていたところ、控室から大きな声が響いた。危機察知スキルに反応はないから特に誰かが危険というわけではないが、少し気になったので聞き耳スキルで音を拾ってみた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る