第129話 とある女性の悪夢②


「まず、犯人達は全員警察に捕まっています。また、女性に対する暴行の動画については犯人達の罪状を確定するために女性警察官が確認すると思いますが、そのあとすぐに処分されるので安心してください」


「……そうですか、本当によかったです」


 この人の言うことが本当ならば、これであの動画が世間に広がることはなくなる。


「さっき見たらちょうどニュースにもなっていたので確認してみてください。たぶんそれで俺が言っていることが本当だと確認できると思います」


「え!? わ、わかりました。ちょっとだけ失礼します」


 急いでスマホを開いてよく使う検索サイトのニュース欄を開いてみる。


「ほ、本当だ。ニュースにもなっています! 『大型犯罪グループ緊急逮捕!』これですよね!? 本当によかった、あいつら捕まったんだ……」


「実は別の事件について調べていたんですけれど、そいつらを捕まえてみたら女性への乱暴や銃の不法所持などいろんな余罪があったというわけです」


「そうですか……あの、犯人達の罪はどれくらいになるんでしょうか?」


「ああ〜すみません、俺もあまり詳しくは知らないんですよね。でもそのあたりに詳しい人から、少なくとも執行猶予はつかずに、実刑判決は出そうだと聞きました」


「そうですか……でもたった数年から数十年で刑務所から出てきちゃう可能性もあるんですね……」


 ……私は今もこんなに苦しんでいて、これから一生苦しんで生きていかなければならない。それなのにあいつらは刑期が開けたら刑務所を出れるなんてこんなの酷すぎる。


「ただ少なくともそいつらが女性に乱暴することはないと思いますよ」


「え!? どういうことですか?」

 

「実はそいつらを捕まえる時に女の子が乱暴されかけているのを見てついカッとなってしまって……ちょっとその……え〜と、そいつら全員に呪いみたいなものをかけました。なのでその、数十年は女性とすることは物理的にできないかと……」


「の、呪い。そうなんですね。……ふふ、あははははは! はあ〜ありがとうございます、少しだけ気が晴れました!」


 本当にいい気味。あ、思えばあの日から初めて作り笑いじゃなくて心から笑えたかもしれないわね。


「あの、本当にありがとうございました。おかげさまで、この先少しだけ前を向いて歩いていけそうです。わざわざこんな遠くまで教えにきていただいて本当に感謝します」


 この人のおかげでほんの少しだけど気持ちが晴れてきた。それにこの先あいつらが女性を襲ったり、あの時の動画が世間に出回らないとわかっただけでも気がだいぶ楽になってきたわ。


「あ、いえ、これも自分がやりたくてやってるだけなのでお気になさらず。それよりもここからがです。俺はあなたのその時の記憶を消すことができます」


「え、そんなこともできるんですか!?」


「はい。捕まえた犯罪者達から女性に乱暴した記憶と俺に関しての記録をすべて消してあります。散々この能力のもしたので、男性へのトラウマなんかも残らないレベルで記憶を消せると思います」


「本当ですか!! あの悪夢みたいな記憶を消せるんですか!」


 何度も何度も繰り返し夢見るあの悪夢……いきなり男達に連れ去られ、散々に乱暴された記憶。今まで夜中にその時の悪夢を見て、飛び起き眠れなくなった夜は数えきれない。


 こんなにつらい思いを私は一生抱えて生きていかなければいけないと思っていた。でも、本当にあの日起きた地獄をなかったことにできるなら……


「私にできることならなんでもします! お願いします……どうか……どうか助けてください……」


「……頭を上げてください。目が覚めたら乱暴されたことと俺のことは忘れていますから。それでは失礼しますね」


 仮面の男の人の右手が私の頭に触れる。一瞬だけ男の人に触れられたことで、飛びのいてしまったけれど、この人は改めて私の頭に優しく手を置いてくれた。あの男達とは違う、パパみたいに優しくて温かい男の人の手だ。


「あ、あの! 私、あなたのことは忘れてしまいますけれど、とっても感謝しています!


 何度も何度もあの日を思い出してとっても心が痛かったです! 誰にも助けを求めることができなくて、とってもつらかったです! 乱暴した男達を全員殺して私も死にたいって思うほど苦しかったです!


 だから本当の本当にありがとうございます! 私を助けてくれて本当にありがとう!!」


 薄れゆく意識の中で私はこの人にちゃんと感謝の気持ちを伝えられただろうか? 絶望に苦しんでいる私を救ってくれたこの優しい手の持ち主に、私がどれだけ心の底から感謝しているか。ほんの少しでも彼に伝わってくれることを祈りながら私の意識は消えていった。






「う〜ん。あれ、もうこんな時間だ!」


 目が覚めたらもうお昼を過ぎていた。ネットで動画を見ている最中にいつの間にか眠ってしまったみたいね。


 ……なんだろ、なんだかとてもスッキリとした気分。長い間見続けていた悪夢がようやく終わったって感じ。ってあれ、何言ってるんだろうな、私?


「って、せっかくの夏休みなのに私ってば全然予定入れてないじゃん!?」


 なにこの真っ白なスケジュール帳は〜!? ちょ、さすがにこれはヤバいって!?


「あ、もしもしユミ。急だけど今からショッピングに行かない? え、最近体調崩しがちだったけどもう大丈夫かって? 大丈夫、なんか今すっごい調子いいから! え、昔みたいに戻ったってなにそれ。私は前からこんな感じだったじゃん!? オッケー、そんじゃ後でね!」


 あれ、そういえばユミの言うとおり最近私ってずっと落ち込んでいた気がするけど何でだっけ? ……思い出せないならたいしたことじゃなかったのかな。


 あ、それよりもパパとママと一緒に北海道のおばあちゃんの家に行くのなぜか断っちゃったんだっけ。あれ今からなかったことにできないかなあ。おばあちゃんの家で食べるとうもろこしとかかぼちゃとか本当に美味しいんだよね!


 今からユミとショッピングに行くって伝えるのと一緒にパパとママに聞いてみよっと。そういえば最近体調が悪くて何度か学校を休んで、パパとママにはいっぱい心配かけちゃってたかも。なんか今はすごい体調も気分もいいから、もう大丈夫って教えてあげよう。


 せっかくの夏休み、たくさん楽しまなくちゃ!

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