第128話 とある女性の悪夢①
……もう死にたい。
何度もカッターナイフの刃を手首に突き立てようとしたけれど、どうしてもあと一歩を踏み出すことができない。もうこの世に未練なんてないはずなのに……
あの日、たった1日だけで私の人生はすべて終わってしまった。
いつもと変わらない朝、パパとママとのいつもの会話。朝ごはんを食べていつもの時間に高校へ向かう。この辺りは人通りが少なくて明かりも少ないから夜は日が落ちる前に帰るようにしている。
後ろから一台の車がやってきた。この辺りだと農耕車くらいしか通らないのに珍しい。道を譲ろうと左端に寄ってあげた。だけどなぜか車はスピードを落として一向に私を追い越さない。
気になって後ろを振り向いた瞬間に袋か何かを頭に被せられて視界を失った。何が起こったのかわからずに大声をあげようとしたら、背中にバチリと衝撃が走ってそのまま私は意識を失った。
それから先は地獄だった。目隠しをされて何が何だかわからないまま、私は何十人もの男に乱暴された……
永遠に続くかと思える地獄の時間が終わって、私は元いた場所に解放された。いえ、解放というよりはもういらなくなった玩具のように捨てられただけね。
そのあとのことはよく覚えていないし、思い出したくもないわ。もちろんこんなことを両親や友人には言うことができなかったから、その日は体調不良で倒れてしまい、学校に行けなかったと嘘をついたんだっけ。
その日から私の生活は一変した。
確かに男達のいうように、あの日以降彼らが私に接触してくることはなかった。無理矢理飲ませられた避妊薬のおかげで妊娠もしていない。いっそ妊娠でもしていたら、もう諦めもついたんだけどね。
いつあの男達がまた私を犯しにくるのか、パパやママや友達に危害を加えないか心配で夜もまともに眠れない。それにあいつらは動画も撮っていたといっていた。もしもその動画が流出したらただでさえ絶望的な人生なのに完全に終わりね……
男の人が怖くなって彼氏とも別れたし、車が近くを通るだけであの恐怖が蘇る。学校も休みがちになって心配してくれる両親や友達の優しい言葉が逆に辛くなる。
あの男達を1人残らず殺して死んでしまいたいと思うけど、覚えているのは声だけで顔も場所も車のナンバーも分からないのに見つかるわけないわね。もうこんな私が普通の人生を送ることなんて一生無理なんだわ……
はあ……夏休みだというのに毎日毎日家でゴロゴロしているだけ。今日はパパもママも仕事で家には私ひとり。でも外になんか出たくないし、しょうがないわ。
コンコンッ
「え?」
私の部屋は2階にある。それなのになぜか2階の窓からノックがあった。でも窓のほうを見ても誰もいない。どういうこと?
ガチャ
「え、どうして!?」
閉めていたはずの窓の鍵が
そして窓が勝手に開いたと思ったら、
「きゃあああああああ!!」
窓の外にいきなり現れたのは黒い仮面を付けた怪しい男だ。それに変なスーツみたいなものを着てマントまで付けている。あれ、でもこの怪しい格好どこかで見たことあるような……
「すみません、こんな格好をしていますが、怪しいものではないです。家には入らないので、少しだけ話を聞いてくれませんか?」
「そんな怪しい格好をして何言ってるのよ! 警察を呼ぶわよ! そ、それとも、まさかあいつらの仲間なの!?」
何度も死のうと思って握りしめたことがあるカッターナイフの刃を伸ばして、怪しい男に向ける。どうしよう、うちはご近所さんの家から離れているし、今から警察を呼んでも絶対に間に合わないわ!
「あなたに乱暴した犯罪者集団は全員捕まりました。そのことについて少しだけお話があります」
「え…………」
思い出した! 確かこの怪しい男は少し前に動画で話題になっていた男だ。爆発事故から人を助けたり、テロ事件を解決して一時動画を賑わしていたのに、急に動画が削除されたんだっけ。そのあとにあがった動画もすぐに削除され続けて、最近では忘れられていく一方だったはず。
「あなた、確かテロ事件の……」
「えっと……そうです。あの動画を見ていたなら話は早いか。こんな感じで超能力を使うことができます。できればカッターをおろして、少しだけ話を聞いてくれませんか?」
「きゃっ!?」
突然私の目の前に水の球体が現れた。手で触れると冷たい水の感触がする。指で突くとプルプルと震えながら押した方向に進んでいく。
すごい、テレビで見たことのある宇宙空間みたい! 動画で見たみたいに本当に超能力なんてあったのね。
「……とりあえず中にどうぞ」
「あ、すみません、失礼します」
動画ではものすごい力持ちだったし、この人が本気を出したら私なんかどうにでもなる。格好は怪しいけれど悪い人のような気はしない。それに私に乱暴した男達が捕まったという話について、詳しく話を聞きたい気持ちが勝った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます