第127話 素直に喜べない解決


 脅しがきいたおかげで、その後の尋問は簡単にいった。守さんと相談して、まずは女性が乱暴された動画は信頼できる警察の人が回収し、こいつらの処分が下ったあと即座に処分してくれることとなった。


 詐欺行為で得たお金は様々な銀行などを経由していたが、守さんがそのルートを調べてくれており、なおかつ捕まえたやつらの証言により、回収の目処がたつそうだ。


 守さんの話によるとこの詐欺グループはどの口座からいくらお金を騙し取っていたのかを詳細に記録していたため、被害者への返済もできそうらしい。緊急の際にはそれらすべてをボタンひとつで消去する、漫画やドラマみたいなシステムもあったらしいが、さすがに警察でもない俺の襲撃は想定外だったのだろう。


 詐欺行為だけでなく、女性への暴行、日本刀や銃などの不法所持により、かなりの実刑が課されるはずだ。それに加えてこの犯罪者集団と交流があるグループの情報も得ることができた。これにより他の犯罪者集団を逮捕できることになる。


 守さんが知り合いの警察を呼んでくれたので、直に警察官がここに来てこいつらを逮捕してくれる。さて、俺も最後にやることをやってからここを去るとしよう。




 気絶している社長と呼ばれていた男の頭に手を乗せる。

 

「社長にな、何をする気だ!?」


「おまえらから乱暴した女性の記憶と今日の俺の記憶を消去するだけだ。命には別状ない」


 乱暴された女性の記憶と、ないとは思うが俺の正体がバレないように俺の記憶も消しておく。


 ただこの忘却魔法は初めて使うため、本当に可能なのかわからないし、命に別状はなくても精神的に何が起こるかわからない。だがこいつらになら遠慮はいらないな。


「忘却、ヒール」


 忘却魔法の手応えはあったが、本当に記憶が消えているのか確認しなければいけないため、回復魔法も一緒にかけて目を覚まさせてやる。


「う……う……うお、誰だ貴様は!? な、なんで身体が縛られているんだ! い、痛え、股間が痛い! おい、何がどうなっているんだ!」


 よし、ちゃんと記憶は消えているようだな。まあこいつならいっそ失敗して廃人とかになってしまったら、それはそれで構わないけど。そして気絶は回復させたが、股間のほうはそのままである。


「くそ、俺を誰だと思ってやがる! おい、お前だけでなく家族や友人まで破滅に……」


「スリープ」


「追い込んでや……ふにゃ」


「さて、最後に社長にもう一度忘却魔法をかけて、他のやつらにも忘却魔法と魔法をかけて終わりだな」


 改めて俺の姿を見られてしまったからな。今の一瞬の記憶だけ消去しておかなければならない。そして他のやつらにも忘却魔法、そして上級状態異常魔法の不能をかけてから引き上げるとしよう。


「お、おい不能ってなんのことだよ。まさか……」


「ん、ああ、そういうことだ。おまえら全員一生まではいかないけど、数十年くらいは役に立たなくなるんじゃないか」


 状態異常魔法、そういえば以前に担任を下痢にしたことがあったな。しかしその時は下級の状態異常魔法だったが、今回は上級魔法だ。大魔導士の強大な魔法の力だし、おそらくは数十年ほどは効果が続くだろう。社長に限っては物理的に一生使いものにならなくなった可能性が高いがな。


 相応の魔法を使える者なら状態異常を解除することは可能だが、もちろんこっちの世界にそんな魔法を使える者などいるわけがない。


 それにしても拘束、麻痺、毒、睡眠、石化、下痢に不能などなど。これだけの状態異常魔法を覚えて大魔導士は何と戦っていたんだろう……拷問用に新しい魔法とか研究してたわけじゃないよな?


「はあ!? なんで俺達まで!?」


「おい、散々あんたに協力しただろ!」


「詐欺にあった被害者達はお金が戻ってくるとはいえ、それまで苦しんだ。それに暴行を受けた女性達はきっと死にたくなるほど苦しんだだろう。それなのにおまえらは捕まって留置所に入るだけじゃ釣り合わない」


 さっき助けた女の子も泣きながら震えていた。実際に被害を受けていた女性はあの女の子よりももっと苦しんでいたはずだ。あの女の子とも約束したし、少なくともこれ以上女性を襲うなんてことはさせない。


 本音を言うと、事故に見せかけてこのビルごとぶっ壊してこのまま生き埋めにしてやりたいところだが、現代社会でこれだけの人が死ぬと問題が残るし、いくら守さんでも揉み消せないだろう。戸籍とか整っていない向こうの世界だったら、魔物のエサとかにしてやるところだ。


「そ、そんな……」


「自業自得だ。恨むなら俺を恨め、まあ覚えてないと思うがな」


 そのあとはビル中にいる男達に睡眠魔法、忘却魔法、状態異常魔法を順にかけていく。睡眠魔法や忘却魔法はともかく、上級状態異常魔法を30人近くかけたので、さすがに疲れた。なんとか警察が来る前に全員にかけ終わり、転移魔法で家まで帰ってくることができた。


 これで詐欺にあった人のお金は戻ってくるし、女の子は助けられ、犯罪者集団を潰すことができたのだが、被害にあった人達の気持ちを考えると素直に喜ぶことはできなかった。






「そうですか、被害者達にお金は戻ってきそうですか」


「はい、他の詐欺グループと異なり、細かく詳細が残っていたのは助かりましたね。多少は使われておりましたが、大半は戻ってくると思いますよ」


「ありがとうございます、今回は守さんのおかげで本当に助かりました。俺だけじゃ絶対にあいつらを捕まえられなかったです」


「お役に立ててよかったです。それに立原さんのおかげで多くの被害者が助かり、犯罪者達を捕まえることができましたよ。本当にお疲れ様でした」


 今回は本当に守さんに感謝だ。というより最近は守さんに感謝しっぱなしだし、今度何かお礼をしないといけないな。


「守さんも寝ないでいろいろと調べてくれて、本当にありがとうございました。それに勝手にやつらを罰してしまってやりすぎた気もします。もし何か問題があったら、全部俺の責任にしてください」


 守さんには犯罪者集団の記憶を消して、不能の呪い的なものをかけたということは伝えてある。

 

「日本ではどうしても性犯罪への処罰が甘くなりがちですからね。海外では一度性犯罪を犯したら、名前や顔写真が一般にも公開されますし、GPSの装着が義務付けられる国もあるそうですよ。被害者の気持ちを考えたら、私もそれくらいの報いは受けて当然かと思いますよ」


「そういってもらえると少し気が晴れます」


 日本にも法律があるわけだし、それを無視して俺が勝手に罰を与えるのも、冷静になって考えるとやりすぎたのかもしれない。……後悔はしていないがな。

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