第123話 上も下も


 とりあえずこのビルの3階が詐欺師集団の拠点であることはわかった。とりあえずこのフロアに潜伏しながら、おばちゃんから騙し取ったお金がどこにあるのかを探さなければならない。


 さすがにこのフロアに人がいる中でパソコンをいじったり机を開けたりはできないから、俺が動けるのはこいつらが帰ってからになる。一度守さんに連絡をしておいたほうがいいな。それと母さんにも遅くなると連絡しておこう。




 そのあとこいつらは警察官や銀行員になりすまし、どうやって人を騙すのか、どうやってカモを見つけ出すのかなどといった馬鹿げた教育をしていた。


 詐欺行為をここまで真面目に教育……教育と言っていいのかはわからんが、部下達に教え込むくらいなら普通に働けよと思ってしまう。


「よし、それでは今日はここまでとする。今日教えたことは各自しっかりと復習しておくように」


「「「はい!」」」


 ……よくわからない詐欺の講習がようやく終わったらしい。予習も復習もあったものじゃないと思うがな。


 教えられていた3人がこのフロアを出て帰宅していく。日中はデスクに向かってPCで作業をしていたり、電話をしていた他のやつらも順番に帰宅していった。


「おう熊、新人の出来はどうだ?」


「うす、班長。悪くねえ出来でさあ。もう研修として誰かと一緒についていかせてもいいかもしれやせんね」


「ほう、そいつは頼もしいじゃねえか。上のやつにも伝えておいてやる」


「あざっす!」


 どうやらこのグループの中にもきっちりとした上下関係があるみたいだ。


「おまえも遅くならねえうちに帰れよ。俺は上のフロアにいる部長に報告だけしてから上がるとすらあ」


「うす。俺も下のフロアにいる経理に報告だけして帰りやす」


 ……マジかよ。このビルの上のフロアと下のフロアもこいつらの仲間なのか。思ったよりも大きな組織じゃねえか。


 それからしばらくして19時になる前には、最後のひとりである熊と呼ばれた男がこのフロアをあとにした。ブラックな詐欺師集団の割には無駄にホワイトな組織らしい。


 明かりが落とされたフロアの中で携帯を取り出す。すでにメールで守さんに状況は伝えてあるが、電話で連絡をする。


「……というわけで、どうやらこのビル全体が犯罪者グループらしいです。どうしましょう、明日このビルにいるやつら全員捕まえましょうか?」


「まさかそれほど大きな組織でしたとは……。捕まえる前にまずは奪われたお金の行方を探りましょう。立原さん、お渡ししたUSBメモリをどこかのPCを起動して挿して下さい」


「はい」


 このフロアで一番偉そうだった班長と呼ばれていた男のPCを立ち上げる。パスワードについては隠密スキルを使って、見つからないように後ろから覗き見していたからわかっている。潜入捜査の時は隠密スキルって本当に便利だよな。


「守さん、オッケーです」


「ありがとうございます。これでそのPCはうちから自由に操作できるようになりました。ふむふむ、社内ネットワークも繋がっているので、ここを基点に他のPCもいけそうですね。なるほどIPはこうなっているのか、それなら……」


 PCにそれほど詳しくない俺では守さんが何をしているのかよく分からないが、USBメモリを挿してからしばらくすると勝手にカーソルが動き始めた。なるほど、どうやらこのPCを守さんが家からリモートで操作しているらしい。


「あの守さん、俺はどうすればいいですか?」


「あっ、すみません。つい夢中になってしまいました。もうUSBメモリを抜いて大丈夫です。こちらのPCはかなりの権限があるようですので、お金の流れを探ることができそうです。


 ただ少し時間が必要ですので、今日はもうお帰りいただいて大丈夫です。数日はかかると思いますが、情報が揃い次第すぐに連絡致します」


「わかりました、本当にありがとうございます。でも昨日も寝てないんですから、あまり無茶はしないでくださいね」


「はい、今日は夕方まで寝ていましたから大丈夫ですよ。それに朝にはそこのビルのやつらもやってくるでしょうし、夜から早朝にかけてだけにしておきます」


「わかりました、よろしくお願いします」


 どうやら今日の俺の仕事はこれまでだな。あとは守さんがPCを調べてくれるのを待つとしよう。






 そして次の日の朝、昨日あのビルの屋上に行って場所を記録したため、転移魔法でビルの屋上まで一気に転移することができた。そしてそこから気配察知スキルで昨日の3階の倉庫に人がいないことを確認してから倉庫に転移する。


 お金の流れに関しては守さんに任せて、俺は他のフロアも調べてみようと思っている。もしかしたら別のフロアのPCの情報が必要になる可能性もある。守さんに連絡したところ、昨日中には無理だったが、もう少しで金の流れを把握できそうらしい。


 2階フロアへ降りてみる。このフロアは3階のフロアよりも広く、10人ほどの男達がひたすら電話をかけている。


「もしもし、母ちゃん。オレだよ、オレ」


「ええ、そうなんですよ。この高齢者の方々だけに還付金がありますので。はい、受け取るためには一度振り込んでもらう必要がありまして」


 どうやらこのフロアは詐欺の電話をかけまくっているらしい。昨日窓の外から覗いた時は、電話で熱心に営業しているかと思ったのだが、蓋を開けてみれば詐欺電話に熱心であっただけだ。


 今もなお目の前で犯罪が行われているのを見ると、今すぐ全員を捕まえたいところだが今は我慢だ。次は1階に降りてみよう。

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