第124話 社長


 1階は2階や3階とは異なり、いくつかの部屋に分かれていた。ビルの入り口には監視カメラがあるので気をつけなければいけない。


 おや、この部屋は女性がいるのか。しかもキチンとしたスーツを着ている。部屋は小さく女性2人しかいない。


「はい、左様でございますか。申し訳ございません、佐藤は只今外出しております。こちらから折り返すようお伝え致します。はい、それでは失礼致します」


 ん? もしかしたらここは上の詐欺グループとは別なのか? スーツも着ていて言葉遣いもとても丁寧、あまりにも上のフロアとはかけ離れている様子だ。


 ガチャッ


「じゃかあしいんじゃボケ! 佐藤も鈴木も田中もいねえんだよ! 何度も何度もかけてきやがってクソカスが!」


 ……前言撤回、間違いなくここも上と同じだな。


「だりーやつに当たっちまったみたいだな。ほらヤニでも吸って落ち着けって」


「わりーわりー……スゥ。ったく銀行員のふりとかマジだりーよ。まあ金払いがいいから、ましだけどな」


「そうそう、金だけは貰えっから我慢しねえとな。それに人も滅多に来ねえんだから、この格好も勘弁してほしいぜ」


 なるほど、どうやらこの2人の女性はこのビルにかかってきた電話対応係のようだ。うん、下手をしたら上のフロアにいた男達よりも怖いかもしれない。


 他にはお客様というべきか、カモが来た時用の立派な来客室や受付が1階にあった。すごいな、ここまで徹底されているとは思わなかったぞ。




 そして4階には立派な部屋が何部屋かあった。中にいた男は下のフロアにいた連中よりも立派な格好をしていたから、おそらくだがこの組織の幹部連中なのだろう。昨日の班長と呼ばれていた男と話をしている。


「よしよし、今月もなかなかの稼ぎのようだな。新しく新人も入ったし、いい感じじゃねえか」


「はい、まさか我々が拠点を持って堂々とやっていけるとは思わんかったですな」


「そうだな。徹底的に一般企業を装い、カモを探す時はここから離れた場所で探す。電話も海外を経由させ、金の受け渡しは人を雇う。逃走経路を常に確保し、車を待機させておく。


 これで今のところ逮捕者はなしだからな。ゆくゆくは他の詐欺グループと合併してさらに大きくしていくぞ!」


「はい、我々一同、幹部方についていきますとも。年寄りどもから精一杯金を巻き上げていきましょう!」


 ……間違った方向に計画的で熱心なやつらだ。その情熱をもっと他で活かせよな。


「そういえば今日は2ヶ月に一度のリフレッシュデーだったな。準備はできているのか?」


「はっ! そちらも手抜かりなく朝から調達に行かせました。もうすぐ戻ってくるでしょう」


「うむ、さすがだな。社員達の士気は大事だから息抜きはしっかりとせんといかん」


 犯罪者集団のくせに部下への配慮もしている。リフレッシュデーね、うまい酒や料理を調達してきて打ち上げでもするのか?


「お、噂をすればちょうど調達が終わって帰ってきたようですな。いつも通りまずは社長からなので上に運ばせます」


「おう、任せたぞ」


 部長と呼ばれていた男が部屋から出ていく。社長と呼ばれる男はこの上の5階にいるということか。ちょっとその面を拝んでくるとするか。




 5階のフロアには部屋が3つほどあった。この部屋の扉が一番豪勢な造りとなっているので、ここが社長室だろう。


 鍵はかかっていないようなので、少しだけ扉を開けて中の様子を見てみる。中には1人の若い男が大層な椅子に座っていた。

 

 こいつがこの組織のボスか。さっきの部長や班長は30〜40代といったところだが、この男はまだ若く20代くらいに見える。黒い髪をオールバックで固め、銀色のスーツでビシッと決めているかなりのイケメンだ。


 おっと後ろから人の気配がする。部長と呼ばれていた男が来たのかな。隠密スキルでバレないとはいえ社長室の扉の前から離れる。


「社長、失礼します」


「入れ」


「うう〜! う〜う!」


「ほ〜今回の獲物は活きがいいじゃないか。前回は遊んでそうなギャルだったが、今回は真面目そうな可愛らしい女子高生か。悪くない人選だな」


「ありがとうございます。手筈はいつも通りで、人目や監視カメラなど最大限に配慮させたので、絶対にバレないかと」


「うむ、よくやった」


「んん〜!」


「生徒手帳によると石住高校2年生の西村ゆきちゃんか。君はいきなり車で攫われて、目隠しをされて手錠で両手を繋がれているから、今の状況がまったくわからないだろう。


 今から君には大勢の男達の相手をしてもらう。だが、安心してくれたまえ。君が大人しくしていれば、今日中に家に帰すことを約束しようじゃないか。


 もちろんこのことを警察や家族に話そうだなんて思わないことだ。名前と学校名は控えたし、これからの一部始終は動画で撮らせてもらう。もしも君が通報しようとすれば、この動画が世界中に拡散されて君の人生が終わるだけでなく、ご家族やご友人にまで危害が及ぶからね。


 君が黙ってさえいてくれれば、今日以降我々は君に一切関わらないということを誓おう。もちろん動画を使ってもう一度脅すなんてことは絶対にしない。


 つまり、君が今日1日だけの不幸な出来事を黙ってさえいれば、今までと何一つ変わらない日常を送れるということだ。どうか賢い選択をしてご家族や友人達を大切にしてあげなさい」


「うう……うう……」


「ふふ、泣いてる顔もそそるじゃないか。おい、向こうの部屋に連れて行け」


「うす!」




「いやあ、さすが社長は天才ですね。あれだけ言われればどんな女も通報なんてできるわけはないですよ!」


「ああ、何度も脅したりしてしまえば、さすがに女達も通報してしまう。一度だけの悪夢と思えば家族や友人を守るために耐えられるものさ。


 たとえ通報されたとしても、ずっと目隠しをされた状態で、ここがどこだかも分からず、誰に何をされたのかも分からないのでは捕まりようがないからな。


 あと他の者は構わないが、新人にだけは確実にヤらせておけよ。詐欺だけでは犯罪行為をしている感覚が薄い。女を輪して犯罪意識と仲間意識をしっかりと植え付けるんだ。そうすればうちの組織を裏切るやつもいなくなるだろ」


「いや、素晴らしい! 心配しなくてもこの組織を裏切ろうと考えるやつなんておりませんよ。大金も稼げて、リフレッシュデーでは女を好き放題できるなんて最高ですから! ささ、まずは社長から女の味見をお願いしますよ!」


「ああ、前回の女のように少しばかりは抵抗してくれると面白いんだがな」


「ははは、おっしゃる通りですな」


「さあ、後もつかえていることだし、一服だけしてから楽しませてもらうとするか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る