第122話 ビルへの潜入


 というわけで今俺は詐欺師集団が潜伏していると思われるビルの前に来ている。それほど古いビルというわけではないが、駅からも離れており人気のない場所だ。


「……勢いで来てしまったな」


「ホー!」


 守さんから話を聞いてすぐこのビルまで移動してきた。最寄駅からは念のため隠密スキルを使用している。フー助も一緒に連れてきたがいつも通り小さくなってもらっている。


 いくら隠密スキルを使っても監視カメラとかには映ってしまうんだけよな。とりあえず守さんだけは敵に回してはいけないということがよくわかったよ。


 これから俺がすることはすでに守さんと打ち合わせてある。このビルに侵入し、中にいるやつらが行った詐欺行為の証拠を探し出さなければならない。証拠を確保したあとは、詐欺師達を守さんの知り合いの警察に引き渡せば任務完了だ。


「とはいえさすがに緊張する」


 今から犯罪者集団の本拠地と思われる場所に侵入するわけだ。テロリストを相手にしたり、ダンジョンを攻略してある程度度胸はついたが、やはり多少は怖かったりもする。


 だがどんな人間であろうとあのダンジョンのボスに比べたら軽いもんだ。う、いかん、また思い出してしまった……





 守さんの調べによると、ビルの入り口には監視カメラがあるらしい。詐欺の証拠が見つかるまで相手に見つかるわけにはいかない。


 探索魔法を使ってビル周辺の状況を確認する。……ふむふむ、監視カメラは正面入り口だけのようだ。続いて気配察知スキルを発動させる。このビルの各フロアには10人〜20人ほどの人の気配がある。


 異世界と違って日本は人口が多すぎるから、普段は気配察知スキルはオフにしてある。一度駅前のビルで発動させたらあまりの人の気配の多さに頭が痛くなったからな。


 さて、このビルは5階建になっているが、問題の詐欺集団はどこにいるのだろうか? 守さんから話を聞いたところ、最近の詐欺師集団は普通の企業に紛れて普通のビルに入り込んでいることもあるらしい。


 駅前から少し離れて人気が少ないとはいえ、こんな普通のビルに詐欺師達が入り込んでいるとは思えない。とはいえ、俺は守さんが調べてくれた情報を信じている。なあに、もし違ったら俺が不法侵入罪で罪に問われるだけだ。……捕まる前に逃げるけど。




「よし、なんとかビルに入れたな」


 ビルの周辺をいろいろと探った結果、このビルの3階の倉庫のような部屋の窓が開いており、そこから中に侵入することができた。もちろんいつもの黒い仮面はつけている。


 正面には監視カメラがあり、裏にある非常口と屋上にある扉には鍵がかかっていた。鍵を壊して入ることもできたが、すぐにバレてしまう。


 最悪屋上ならあまり人が来ることはないだろうから、扉を壊して入ろうと思っていたが、運良く窓が開いていたので、そこからビルに侵入した。人通りは少ないとはいえ、道に面している3階だから窓を開けた人も油断したのだろう。普通はビルの正面の3階の窓から侵入してくるやつはまずいないよな。


「まずはこのフロアから探るか」


 窓から中を見たところ、どのフロアもドラマとかでよく見る普通のオフィスの風景だった。本当にこのビルのどこかに詐欺集団がいるのか怪しいくらいだ。


 この倉庫はごちゃごちゃとしており、PCやプリンター、電話や文房具などが置かれていた。このフロアは普通のオフィスの可能性が高いかな。


 倉庫のドアを開けてゆっくりと廊下に出る。隠密スキルが発動しているから、たとえ人に見られたとしても認識はされないはずだが、気配察知スキルで他の人に遭遇しないように進んでいく。


 なんだか有名なステルスゲームをプレイしているみたいだが、犯罪者集団がこのビルにいるかもしれないし、こちらは不法侵入しているわけだから気を引き締めていこう。


「馬鹿野郎! そんなんじゃ全然だめだ! いいか、もっと相手の気持ちになって考えるんだ!」


「す、すみません!」


 大きな声がフロア中に響き渡る。ドアを少し開けてそこから中の様子を窺う。中では数人の男達がフロアの一角に集まっていおり、ひとりの大柄な男に3人の男が頭を下げている。男達の服装はスーツではなく、ポロシャツやスラックスでネクタイは付けていない。いわゆるクールビズというやつか。


「もっと背筋を伸ばして姿勢を正せ。相手から自分がどう見えるかをよく考えるんだ。できる限り相手に好印象を与えるよう努めろよ!」

 

「「「はい!」」」


 新入社員の研修みたいな感じかな。どうやらここはまともな会社みたいだ。よし、次は下のフロアを探ってみるとするか。


「いいか、銀行員や警察のフリをするんだ。常に堂々としていろよ! いくらジジイやババアどもを騙すからといって油断するんじゃねえぞ!」

 

「「「はい!」」」


 ………………んん?


「年寄り共も最近は知恵をつけてきてやがるからな。少しでもこちらを疑ってるようならすぐに撤退だ。それと演技をするのに夢中になって周りへの警戒を怠るんじゃねえぞ。近くに本物の警察官がいてしょっ引かれた大マヌケもいたからな!」


「「「はい!」」」

 

 ……どうやらこのフロアが詐欺師集団の拠点であることが確定したようだ。詐欺師の新人研修かよ……

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