第119話 詐欺
3日ぶりにこっちの世界に戻ってきたわけだが、特にこちらでは大きな事件や事故もなく平和そうだったので本当に助かった。どうしようもないとはいえ、その間に何か起こってしまったら悔やまれるからな。
来週にはみんなと一緒にライブに行く予定だが、それ以外はまだ予定がないからどうするかな。今度は異世界の観光地とかを旅行してみてもいいかもしれない。
「はあ〜」
「溜息なんてついてどうしたの母さん。やっぱり仕事が忙しい?」
異世界から帰ってきた翌日、久しぶりに本屋に出かけたり、のんびりと家で漫画を読んで過ごしていたのだが、母さんが家に帰ってくるなり溜息をついた。
「ああ〜仕事じゃないんだけどね……正義、トラ丸のおばちゃんの篠崎さんって覚えてる?」
「うん、もちろん。え、まさかおばちゃんに何かあったの?」
トラ丸のおばちゃんこと、篠崎さんは母さんの職場の先輩だ。俺が子供の頃からお世話になっていた人で、おばちゃんの家にも何度も遊びに行ったこともある。俺が熱を出して母さんが仕事の時にはわざわざ様子を見に来てくれたりもした。
ちなみにトラ丸とはおばちゃんが飼っていた犬の名前だ。今思うと全然虎っぽくはなかったけど、小さい頃はよく吠えられて少し怖かったんだっけ。
「病気とかじゃないんだけどね。どうやら詐欺に引っかかっちゃったらしいのよ」
「詐欺!?」
母さんから詳しい話を聞いたところ、おばちゃんは数百万円を騙し取られたらしい。昔からよくある電話でのオレオレ詐欺ではなく、銀行員と警察官の制服を着ていた人が直接話をしにきて、銀行のカードを預かりに来たから信用してしまったようだ。
わざわざ偽の名刺や警察手帳まで用意していたらしいから驚きだ。最近の詐欺師集団はそこまでやってくるのか。
「本物の警察に相談してもすでにお金はおろされていて犯人が捕まらない限りはお金は戻ってこないらしいのよ。
篠崎さん、ちょうど孫ができたばかりで孫のためにいろいろと買ってあげようと思っていたらしいの……。でも母さんが役に立てそうなことは何もないし歯痒くてね」
「………………」
詐欺師集団か……
大魔導士から継承したスキルや魔法を今一度振り返ってみるが、見知らぬ詐欺師集団を探すような能力はない。
ネットでの時といい、力を使ったり移動をしたりすること以外に関しては、大魔導士の力はこちらの世界であまり役に立たないようだ。
だがこういった犯罪に関して詳しい人に心当たりがある。ただ、いくらあの人でも実際に会ってもいない詐欺師集団の情報を得ることなんてできるだろうか?
「……母さん、トラ丸のおばちゃんに詳しい話を聞いてもいい? ちょっと知り合いにこういうことに詳しい人がいて、ダメ元で相談してみようかと思うんだけど」
「いいけど、篠崎さん結構気を落としているから言葉には気をつけてあげてね。でも正義にそんな知り合いがいるなんてね、法律関係の仕事をしている人?」
「……そんなとこ。ちょっとその人と縁があってね」
実際あの人の仕事はなんなんだろうな。でもあのいつも元気なおばちゃんが落ち込んでいるのか。何もできない可能性のほうが高いし、先に守さんに相談してからおばちゃんに話を聞いたほうがいいかもしれない。
というわけで次の日、あらかじめ守さんに連絡をしてから例の高級マンションの最上階の部屋にやってきた。
「お邪魔します」
「ホー!」
「立原さん、フー助さん、いらっしゃい」
「正義お兄さん、フー助ちゃん、いらっしゃい」
守さんはいつも通りスーツでのお出迎えで、風華ちゃんは小学生らしい可愛らしい服を着ている。今日は平日だが風華ちゃんが家にいるということは、小学校ももう夏休みに入っているんだろうな。
「すみません、昨日の今日でいきなり来てしまって」
「いえいえ、こちらはいつでも大丈夫ですよ。ささ、中に入ってください。先日はたくさんのお土産ありがとうございました。生シラス、とっても美味しかったです」
「鳩サブレーと横濱ミルフィユもとっても美味しかったです!」
「それはよかったです。いろいろと選んだ甲斐がありました」
部屋の中に入れてもらうと、前に来た時と同じようにかなり高級そうなお菓子やケーキと果汁のジュースが目の前に出された。
ケーキやジュースを美味しくいただきながら少し2人と一緒に雑談をした。2人は来週から海外に旅行に出かけるらしい。もしよければ一緒に来ないかと誘われたが、さすがに遠慮した。というかそもそもパスポートなんて持ってないからな。
「それでは本題に入りましょうか。立原さん、こちらの私の部屋へ」
「あ、はい。風華ちゃん、もしよかったらフー助の面倒を見ててもらえないかな」
「やったあ! フー助ちゃん、こっちで遊ぼう!」
「ホー!」
ふっふっふ、うちのフー助は女子に人気だからな。大きくなって、そのモフモフの気持ち良さを存分に風華ちゃんに味わわせてあげてくれ。
守さんの部屋に入れてもらう。相変わらず大きな部屋にたくさんのPCモニタやタブレットなどがいっぱいあった。
「それで、お知り合いの方が詐欺に遭われたとお聞きしましたが?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます