第108話 疾風迅雷パーティ


「おお、やるなフー助!」


「ホー!」


 スマホのタイマーを2時間にセットして、リリスさん達からある程度離れたところで見張りをしながら、水魔法で小さな水の塊を作ってフー助に追わせて遊んでいた。


 結構速いスピードで水の塊を動かしたのだが、なんなく動いている水をキャッチされた。フクロウって結構速く飛べるんだな。もしかしたら召喚獣だから普通のフクロクよりも速いのかもしれない。


 見張りにかんしては気配察知スキルを安全地帯の入り口の少し先まで広げているので、魔物や人が来たらすぐに察知できる。見張りをほったらかして遊んでいるわけではないよ。




「ん! フー助、ちょっとストップ!」


 見張りを始めてから1時間半くらいが経ち、もう30分ほどで見張りの交代時間というところで気配察知スキルに反応があった。魔物ではなく、人くらいの大きさが4つ。ということはおそらく……


「くそ、出てくる魔物は強くはねえけど、とにかく数が多いな!」


 やっぱり疾風迅雷のメンバーだった。ダンジョンの入り口で別れて以来だな。最初の階層のあたりでは彼らが倒した魔物の死骸をいくつか見かけたが、しばらく先へ進むともう見つからなくなった。


 リリスさん達はこのダンジョンは小さいほうだと言っていたが、それでも1階層ごとがかなり広いので今まで鉢合わせることがなかったようだ。


「しかもろくな素材にもならねえような魔物ばっかりだ。こりゃダンジョン踏破の依頼料が貰えねえと、完全に無駄骨だぞ!」


「俺らには金が必要だってのによ! 今回の勝負、なんとしても負けるわけにはいかねえ!」


「おう、やつらには絶対に負けられねえ。お、どうやらここは安全地帯みてえだ。ちょっと休憩でも……」


 疾風迅雷のパーティが同じフロアに入ってくる。リリスさん達を起こさないように疾風迅雷が来るほうへ近付いていった俺と目が合った。


「……ちっ、先を越されていたか。さすがAランクだけはあるな」


「残りのやつらは奥のほうで寝てやがるな。俺達相手なら楽勝とでも思ってやがるのか」


 さすがに冒険者同士で戦闘にはならないと思うが、警戒を強める。高ランク冒険者とはいえ女性が4人も無防備に寝ている。万が一に備え、フー助をリリスさん達の近くに行かせておいた。


「今更ですがマサヨシと申します。今回は万緑の猫のみなさんのサポート役として同行しています。もし休憩されるようでしたらそちらのほうでお願いします」


 この安全地帯も他のフロアと同じくらい広く、何十人も休憩できるようなスペースはある。半分を譲っても特に問題はないだろう。


「……おまえら、先に進むぞ。休憩はなしだ!」


「おう!」


「了解だ!」


 踵を返して別の道へ進もうとする疾風迅雷パーティ。大丈夫かな、大きな怪我はしていないようだが、疲労も溜まってそうだし大丈夫かな?


「あの、疲れているようですし少しだけでも休んでいかれたらどうですか?」


「ああん? てめえには関係ねえだろ!」


「てめえみてえな金持ちのボンボンは黙ってろ!」


 ガラ悪いな!?


「はは〜ん、あれか。俺らを休ませて少しでも先へ進むのを遅らせようとしてやがるな」


「そういうことか。サポート役とかほざいていたが、弱えやつは小細工が大変だな」


「いえ、そんなつもりは……」


「てめえみてえな雑魚は冒険者には向いてねえよ。大きな怪我をするまえに大人しく普通に働いとけ!」


「おい、おまえら。そんな雑魚は放っておいてさっさと行くぞ」


「おう!」


 言いたいことを言うだけ言って、疾風迅雷パーティは先へ進んでいった。


 勝負をしている最中だから余計なお世話だということはわかる。気を遣ったつもりだけど、今のは俺が悪かったな。逆上して攻撃してこなかっただけまだマシなほうか。


 最悪リリスさん達を襲ってくる可能性もゼロではないと思っていたが、そんなことにならなくて本当によかった。


 まあさすがにそんなことしようとする輩が高ランク冒険者にいるわけがないとは思いたい。そんなの冒険者じゃなくてただの盗賊だもんな。


 さて、彼らは先へ進むようだが、一度リリスさん達を起こしたほうがいいのかな? ちょうどあと少しで2時間が経つことだし、その際にちょっと聞いてみるとするか。






「なるほどな、やつらは先に進んだか」


「どうするニャ? ノノハ達を起こしてうちらも先に進むニャ?」


 疾風迅雷パーティが先に進んでから少しして、見張りをしてから2時間が経ったのでリリスさんとネネアさんを起こした。そして事情を伝えたところだ。


「……このダンジョンが10階層までだった場合は先を越されてしまうかもしれないな。だが同じような依頼を達成してきた経験上、このダンジョンはもう少し先があると思う。


 この先に安全地帯がどれほどあるのかわからないから、休める時にしっかり休んでおこう。あいつらとの勝負も大事だが、ここは無理をせずこの先に備えよう」


「……そうだニャ、ここで無理する必要はないと思うニャ」


「俺も同意見です。勝負よりもしっかりと休んで安全第一でいきましょう」


「そういえばマサヨシ。あいつらに何か言われたり、ちょっかい出されたりしなかったか?」


「ええ、大丈夫ですよ。戦闘にもなりませんでしたし」


 多少ガラが悪いくらいだ。それにさっきのは俺も無神経だった。勝負相手に心配されてイラっとくるのは仕方ないのないことだ。それに言われたことだって大したことはない。元の世界で太っていたころのほうがよっぽど酷いことを言われていたしな。


「……だったらいいんだ。さ、俺とネネアが見張りをしているから、残り少しだけど休んでいてくれ」


「はい、それじゃあ休ませてもらいますね」

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