第107話 仮眠


 さて多くの海鮮料理と食後の和菓子を楽しんでもらったあと、安全地帯にいる間に少し仮眠を取ろうということになった。


 しかし、ここでひとつの問題が起こった。いや、起こったというより単に俺がその問題に失念していただけだ。


 そう、この安全地帯で見張りを交代しながら寝るということになるが、つまりは4人の綺麗な女性と一緒の場所で寝るということになる。泊まりがけの依頼と聞いた時も夜は転移魔法で家に帰ってこようと思っていたからな。


 ……いや、健全な男子高校生にとっては最高の状況であるが、逆にこんな状況で迂闊なことはできない拷問的な状況でもある。


 というか、今更だがなんだこのハーレム的な状況は!? なんで4人の女性の中に男が俺ひとりなんだよ、最高かよ!?


「ホー!」


 あ、そうだフー助もいたんだ。俺の考えていることが読めているわけではないが、ひとりだけ挙動不審だったために心配してくれたようだ。フー助のおかげで少しだけ冷静になってきた。


 そうだな、よく見たら慌てているのは俺ひとりで、他のみんなはレジャーシートの上に寝袋のような物を準備している。交代で見張りもするだろうし、別に慌てる必要もないのか。……いや、もちろん何かする気なんかないけどさ。




「それじゃあ交代で仮眠を取るぞ。いくら疾風迅雷との勝負で、ここが比較的簡単なダンジョンだからといっても、焦って進んで怪我をするのが一番まずいからな。しっかりと休息は取っていこう」


「そうだな、焦らず慎重にいこう」


 高ランク冒険者とはいえ冷静で慎重にいくんだな。いや、逆にそうでなければ危険なこの世界では高ランク冒険者になる前に死んでしまったり、大怪我で引退してしまうことになるのだろう。


「それじゃあ交代で見張りをするぞ。うちら4人で2人ずつに別れて、順番に仮眠を取っていこう」


「いや、俺も見張りを手伝いますよ。2人1組ならフー助もいますから」


「ホー!」


 俺の肩の横で任せておけというかのように翼を挙げるフー助。やる気は十分のようだ。


「でも、マサヨシ様には荷物を持ってもらっておりますし、あんなに美味しい食事もご馳走していただいているのに悪いですわ!」


「いえ、収納魔法がありますし、戦闘にもまったく参加していませんからね。間違いなく俺が一番疲れていないですよ。それに寝なくても活動できるスキルもありますし、むしろ俺が見張りをしますから休んでいてください」


「……マサヨシ兄さんがそのあたりを譲らないのはもうわかってきたからな。ここは大人しく3組で順番に休憩していこう」


「それが一番だニャ」


 まあそうだな。ノノハさんの言う通り、さすがにこの状況でひとりだけぐっすり眠るという選択肢はない。


「そういえば見張る時間はどうやって計るんですか?」


 この世界にはちゃんとした時計のようなものをまだ見ていない。砂時計とかあったりするのかな。


「そのあたりはいつも適当なんだよな。いつもは寝る時間の半分くらい経ったら2人を起こすんだけど今回は3等分だから少し難しいな」


「それじゃあ時間を正確に計る魔道具があるので俺が間に交代しますよ」


「そんな便利な魔道具があるのですね」


 スマホのタイマー機能を使えば問題ないだろう。しかし冒険者も大変なんだな。今度砂時計でも買ってきてプレゼントしてあげようかな。


 みんなと相談した結果、まずはルルネさんとノノハさんが見張りをし、2時間後に俺が起きてフー助と一緒に2時間見張りをして、最後にリリスさんとネネアさんが見張りをするようになった。4人はいつも順番に2人組を組んでいるらしい。


「それじゃあ先に休ませてもらうな」


「お先にニャ」


「2時間経ったら音が鳴るようにしたので、時間になったらそちらに行きますね」


「ええ、ゆっくり休んでくださいね」


「見張りのほうは任せておいてくれ」


 レジャーシートの上に寝袋を用意する。俺の寝袋はネットで買った千円くらいの安物だが、それほど寒くはないのでこれで十分だ。どちらかというと地面が固いからマットとかを用意したほうがよかったな。


「ほら、そんなに離れないでもっとこっちに来いよ」

 

「お兄ちゃん、一緒に寝ようニャ!」


「い、いえ。これくらいの距離で大丈夫です」


 すみません、健全な男子高校生には無理です! というかこの距離でもちょっとドキドキしている。ネネアさんはともかくリリスさんは男の人を意識したりしないのかな? 男として見られていないだけだとしたらちょっと悲しい。






 ピピピ、ピピピ!


「う……ううん」


 すぐに寝袋から抜け出してタイマーを止める。2時間か、結局ほんの少ししか眠れなかったな。


 まあ隣で女性が眠っているというのと、マットがなくて地面が固かったのと、ダンジョンの中で気を抜けないのと、快眠できる理由がひとつもなかったから当然か。


 少し離れて見張りをしているルルネさんとノノハさんを呼びに行って見張りを代わる。2人が見張りをしている間は特に問題は起きていなかったようだ。また2時間タイマーをセットする。


「あとは2時間の間、見張り頑張ろうな」


「ホー!」

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