第106話 日本の伝統料理(?)


 さて、今日の晩ご飯だが、前々からお裾分けしようとしていたロウアンで買ってきた魚だ。さすがにダンジョン内で料理するのは難しいので、以前にサーラさんの屋敷でたくさん作っておいたものと、昨日家で作った魚料理を収納魔法から取り出す。


 改めて考えてみると、ダンジョン攻略で収納魔法は便利すぎるな。荷物になる水や食料、調理器具や食器に至るまで手ぶらで持ち運ぶことが可能だ。


 それに調理した料理を収納魔法に入れておけば、ダンジョン内で調理する必要もなく出来立ての料理が楽しめるわけだ。とりあえず今まで作った料理はすべて多めに作って収納してあるので、いつでも出来たてを食べることが可能だ。


「こりゃすごいな……」


「ここってダンジョンの中だよな……」


「すごいですわね……」


「美味しそうだニャ!」


「ホー!」


 安全地帯のエリアにレジャーシートを敷いて、その上にあらかじめ収納しておいた大魔導士の家にあったテーブルと人数分の椅子を収納魔法で取り出し、テーブルの上にたくさんの料理を置いた。


 ……うん、ダンジョンの広々としたフロアにこのテーブルや椅子は場違い感がすごいな。例えるならキャンプ場で家にあるテーブルや椅子を使っている感じだ。


「飲み物は水とうちの故郷のお茶があります。おかわりもあるので足りなかったら言ってください。あ、デザートもあるので、少しだけお腹は空けておいてくださいね」


「しかし収納魔法は本当にすごいな。荷物を何にも持たずにダンジョンに来れるなんて」


「どの料理も本当に美味しそうですわね。それにどれもまだ温かいです」


「こっちが網で焼いた魚や貝です。塩か魚醤か醤油をつけて食べると美味しいですよ。こっちは包み焼きとムニエルです」


 網焼きの魚や貝はサーラさんの屋敷で作ったものだけでは足りなそうだったので、昨日追加で焼いておいた。包み焼きとムニエルは少し手間がかかるので、前回サーラさんの屋敷で作って残ったものだけなので量はちょっと少ないかもな。


 そして今回はさらに追加で作ったものがある。母さんと2人だけの分を作ろうとすると、手間もかかるし食材もいろいろ買わないといけないから、今まで作りたいとは思っていてもなかなか手を出せないでいたものだ。


「こっちのは前に食べたカツとかいうやつか?」


「いえ、カツと結構似ているんですけど天ぷらといいます。こっちの天つゆか塩で試してみてください」


 そう、日本の伝統料理の天ぷらである。えっ、もともとはポルトガルの料理だって? 細かいことはいいんだよ。


 2人分だけだと肉や魚、野菜にエビと一食でいろいろな具材を買わなければいけないから、いろいろと面倒で手間がかかる。しかしせっかく異世界で魚や貝を買うことができたので試しに作ってみた。


 初めてにしてはなかなかの出来だと思う。というか衣と油を用意して具材を切ったらあとは全部揚げるだけだから簡単だった。どちらかというとエビの殻を剥いたり、魚をおろしたり、貝をむく下準備が一番大変だったな。


「かあ〜これは酒が欲しくなる! まさか海でしか食えないような魚や貝がこんなに食えるなんてな!」


「本当だ! この黒い醤油ってのは初めて見たけど網焼きの魚や貝にピッタリだぜ! 塩や魚醤よりもこっちのほうが好きだな。こっちの天つゆってのもあっさりしていていいな!」


「マサヨシ様、この天ぷらという料理、とっても美味しいです! サックリとした歯応えの衣の中から、温かくてふっくらとした魚や貝の旨みが口の中に飛び出してきますわ!」


「初めて食べる料理ばかりだけれど、どれも美味しいニャ!」


 どうやらみんな気に入ってくれたようで何よりだ。まあ網焼きや天ぷらにしてまずい食材なんてほとんどないだろう。


 俺も食べてみたがどれも美味しい。まあダンジョン攻略でお腹は空いているし、キャンプみたいなこの雰囲気なら何を食べても美味しいとは思うけどな。


「ホー!!」

 

 フー助は天ぷらがお気に入りのようだな。器用にクチバシで天ぷらを天つゆにつけて上手に食べている。うん、フクロウが天ぷらを食べているシーンはなかなかシュールだが、可愛いから関係ない!


 ちなみに一応寄生虫がいない魚を使って作った刺身もあるのだが、さすがにダンジョンの中で体調を崩したら一大事なので、食べるにしてもダンジョン攻略が終わってからにしないといけない。




「いやあ、どれも美味かったよ。本当にご馳走様。なんだか、どんどん借りが増えていく気がするけどな」


「俺もこんなに美味しそうに食べてくれてとても嬉しいですよ! 貸しだなんて思っていないので気にしないでください。はい、これが昼間に言っていた食後のデザートの和菓子になります」


「まあ、綺麗! これは食べ物なんですか!?」


「とっても綺麗だニャ!」


「なんだか食べるのがもったいないな」


 まあ気持ちは少しわかる。ケーキもそうだが、日本の和菓子も見た目を気にしたものが多い。特にこの水羊羹とか餡を使った練り切りとかは本当に美しいよな。最近は最中とかもいろんな形をしているし。


 個人的にはこのすあまが好きだったりする。ちょうど近くの和菓子屋さんで少し安く売っていたから、いろいろと買ってみた。ケーキの生クリームも好きだけど和菓子のあんこも甘くて美味しい。


「ああ、どれも甘くてとても美味しいですわ!」


「本当だニャ! 街で売っている菓子とは比べ物にならないニャ!」


「昼のフルーツサンドも美味しかったが、こっちもめちゃくちゃ美味い!」


「エガートンの街でも間違いなく売れるだろうな」


 ダンジョン攻略にも多少は息抜きが必要だろう。今度はサーラさん達には和菓子でリリスさん達にはケーキを持っていこう。みんなそれぞれ好みが分かれそうだけどな。

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