第102話 ダブルブッキング
転移魔法が使えない感覚は初めての経験だ。やはりここがダンジョンの中という特殊な環境のせいだろうか。
「やはり転移魔法は使えませんか。古い文献ですが、ダンジョンの中で使用できない魔法や魔道具があると記されていたのを読んだことがあります。もしかしたらと思ったのですが……」
「ルルネさん、ありがとうございます。今のうちに知っておくことができてよかったです」
ダンジョンからは転移魔法を使って脱出することができないか。そういえば日本のゲームとかアニメとかも、そういった仕組みのものが多かったな。そうなるとフー助に持たせている連絡用の魔道具も使えない可能性が非常に高い。
「何か緊急事態が起きた時にマサヨシ兄さんの転移魔法で離脱することができないってことだな」
「このダンジョンで緊急事態が起こるとも思えないけどな。それにもとからマサヨシの転移魔法を頼る気もなかったし問題ない」
そこはまあ天災レベルの魔物が出てこなければ問題ないと思うのだが、すぐに日本に帰れないというのはちょっとまずいな。もともと夜は自分の家に帰ってくる予定だった。
さすがに今からダンジョンの攻略を断るのはリリスさん達に悪い気もする。母さんに泊まりで出かけると伝えておかないといけないな。それと守さんにも少しの間連絡を取れないと伝えておかないと。
来た道を戻り、ダンジョンを出て街に戻る途中でリリスさん達と一旦別れた。多分ダンジョンに行くことはできると思うけど、もしも明日の朝に来なかったら俺は参加できなくなったのだと伝えておいた。
そしていつも通り異世界の扉を通って日本に戻る。明日のダンジョンへ行くための準備をしつつ、母さんが帰ってきたら明日から4日間友達とキャンプに行ってくると伝えて許可をもらった。リリスさん達は2〜3日で踏破できると言っていたが、少し多めの日付を伝えている。
安倍と渡辺には悪いが、2人と一緒に出かけるということにしてある。念のためにキャンプする場所は電波が悪い場所で連絡が取れないかもしれないということも母さんには伝えておいた。
そして次の日、荷物を持って家を出たふりをして、自分の部屋に戻ってきた。異世界の扉を通り、荷物を大賢者の家に置いて、転移魔法でシルビアの街近くの森へこっそり飛んだ。
これから数日間はしばらく連絡を取ることができなくなる。この間に近くで大きな事件や事故が起こらないことを祈るしかない。
「おはようございます」
「お兄ちゃん、おはようだニャ」
「お、マサヨシ兄さん。よかった、一緒に行けるんだな」
「はい、4日間は時間が取れましたのでよろしくお願いします」
「なあに、そんなにかからねえよ。さっさと依頼を終わらせてのんびりしようぜ」
「あら、マサヨシ様。そちらの肩に乗っていますのは……」
「ホー!」
「あ、俺の召喚獣のフー助です。周りにはテイムした魔物ということにしておいてください」
今回は転移魔法も使えないし、守さんにも連絡も取ることができないので、フー助も一緒に連れてきた。フー助自身に一緒に来るか聞いてみたのだが、どうやら一緒に来たいようだった。
いつも留守番が多いからな。いざとなったら俺、というよりは大魔導士の力でフー助を守ることはできるだろう。
「し、召喚獣ですか!? 確か召喚には高価な魔法石が大量に必要なはず。それに召喚を行うための魔法陣も国のお抱えの魔法使いくらいしか知らないはずですのに……」
「マサヨシなら今更か。それにしても可愛いやつだな!」
「ホー!」
「可愛いニャ!」
う〜む、フー助はどこへ行っても可愛がられているな。俺の黒い仮面もどうにかして可愛い系にしたり……いや、余計気味が悪いだけか。
「それじゃあ出発するとするか!」
ダンジョンへ向かう準備を終え、リーダーであるリリスさんの号令でいよいよダンジョンへ向かう。さあ、いよいよダンジョン攻略の始まりだ!
……と思ったのだが、いきなり問題が発生した。
「ほら、これが依頼書だ」
「……確かに。これがこちらの依頼書だ」
「……ちっ、確かに本物だ。まさか高ランクのクエストが被っちまうなんてな。冒険者ギルドは何をやってんだよ!」
ダンジョンへ向かうとそこには昨日出会った人達とは別の男達がいた。見たところ、なかなかの武器や防具を持っている冒険者のように見えるが、なにやらダンジョンの入り口を守っている人達と言い争っていた。
リリスさん達が割って入ると、どうやら向こうはBランク冒険者パーティで、エガートンの街とは別の街でこのダンジョン踏破の依頼を受けて、リリスさん達と依頼が重なってしまったらしい。
冒険者ギルドでの依頼のダブルブッキングはたまにあるのらしいのだが、高ランクの依頼がダブルブッキングすることは初めてだとルルネさんが教えてくれた。
今回のように高ランク冒険者だけしか受注できない難しい依頼の場合には、複数の街に依頼を出すこともあるらしい。
そしてその場合には日付をずらしたり、受注があったらすぐに他の街に連絡をしているらしいのだが、情報通信手段が乏しいこの世界ではそのあたりに問題が起きたのだろう。
さて、依頼が重なってしまった場合はどうするのだろうな?
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