第103話 早い者勝ち


「冒険者ランクはそっちのパーティのほうが上だが、俺達もわざわざ遠くから来てんだ。あんたらに譲る気はねえな!」


「ああ、わかっている。冒険者ギルドの規定通り早い者勝ちでいこう。当然だが相手の妨害はなしだ」


「……しょうがねえか。ちょっとうちのやつらと話してくるぜ」


「ああ、俺も仲間と少し話してくる」


 一度リリスさんが戻ってきた。向こうのリーダーの男との話し合いは少し聞こえていたが、どうやら依頼が重なった場合には早い者勝ちとなるらしい。


「少し聞こえていたかもしれないが、どうやら冒険者ギルドの手違いだな。このダンジョン踏破の依頼が重なっちまったらしい。あいつらはBランク冒険者パーティの『疾風迅雷』だな」


「ああ、聞こえていたぜ。早い者勝ちになるんだろ? ま、仮に負けたとしてもギルドから依頼料の1/3は補償としてでるからな」


「いいのではないですか。別に今はお金には余裕がありますし、譲ってもいいくらいですわ。今回はマサヨシ様がいらっしゃいますから、ダンジョン攻略はしたいですけれどね」


「のんびり行けばいいニャ! 負けても別に構わないニャ!」


 どうやらみんなそれほど勝敗にはこだわっていないようだ。うん、俺もダンジョンに一度行ってみたいだけで勝敗はどっちでもいいな。それよりも全員が無事に帰ってきて、このダンジョンが閉じられて周囲の街が安全に暮らせるようになるほうが大事だ。


「もちろん俺も負けても構いませんよ。それよりも安全に行きましょう!」


「ホー!」


「よし。勝負は受けるが安全第一で焦らずに行くとしよう。最終的に俺達かあいつらのどちらかがこのダンジョンを踏破できればそれでいい。


 ま、Bランク冒険者パーティに負けたとか言ってくる奴等もいるかもしれないが、そんな奴等は放っておけばいいさ」


 そうかリリスさん達はAランク冒険者パーティだ。もしかするとBランク冒険者パーティに負けたとか言ってくる人達もいるかもしれない。


 リリスさん達が悪く言われるのはあまり好ましくない。負けてもいいとは言ったが、できる限りは勝てるように協力するとしよう。




「そんじゃあ俺達から行かせてもらうとするぜ」


「ああ。一応勝負ということにはなっているが、安全に行こう。場合によっちゃあ協力するのもありだからな」


「けっ……Aランク冒険者様は余裕だな。せいぜい足をすくわれないようしておけよ!」


 リリスさんの忠告を無下にあしらって、ダンジョンの階段を降りていく疾風迅雷のパーティ。男4人のパーティでリーダーは大柄なマッチョな男で大きな斧を背負っている。リリスさん達やドレインさんとは違ってだいぶガラが悪いな。高ランク冒険者にもこういう人達もいるんだな。


「それじゃあ俺達は10分後くらいに中に入るぞ」


「本当に申し訳ありません。万緑の猫の皆さまは昨日から来てくれていたのに……」


「あんたらの責任じゃないさ。冒険者ギルドの責任なんだから気にするな。それに人数も増えて、踏破できる可能性も更に上がったんだから、ここは喜んでいいところさ」


 さすがリリスさん、門番の人達へのフォローも忘れてはいない。こういう心遣いができるのは素晴らしいと思う。


「――ついてねえな、まさかAランク冒険者パーティと依頼が重なるなんてよ!」


「――本当だぜ。遠いけど稼ぎのいい依頼だと思っていたのによ!」


 ダンジョンの入り口から先に進んだ疾風迅雷の人達の声が聞こえてきた。そうか、確かダンジョンの入り口は狭くて細長い道だったから声が響いてここまで声が届いてくるのか。


「――そういや1人いたあのヒョロっちい男はなんだったんだ? 確か万緑の猫は女獣人4人のパーティだったはずじゃねえか?」


 どうやら俺の話題になったようだ。リリスさん達はAランク冒険者ということもあって、パーティのことも知られているくらい有名なんだな。


「――装備だけは一丁前に高そうなやつだったぜ」


「――どこかの貴族のボンボンじゃねえか? 金でも積んでダンジョン踏破の経験がほしいとかよ」


「――なるほどな。金の力でAランク冒険者に寄生してやがるのか。けっ、金持ちは金でなんでも買えると思っていやがるからタチが悪いぜ」


「――それか顔だけはマシだったからよ、もしかしたらあの女どもの夜の相手でもしてんじゃねえか?」


「――ぷっ、猫の獣人達のペットってわけか!? だっはっは、ちげえねえ!」


「――ま、あの男がなんだったとしてもあんなやつらに負けるわけにはいかねえぞ! おまえら気合い入れてけよ!」


「「「――おう!」」」




「「「………………」」」


 どうやら奥まで進んだようで声が遠くなっていったな。なんだか散々陰口を叩かれていたようだが、それくらいで俺のメンタルは揺るがないよ。


 なにせ太っていじめられていた頃はそんなことはしょっちゅうだ。陰口どころかわざわざ聞こえる場所で話しているやつらも大勢いたしな。むしろ顔は格好いいと褒められた気分だぜ。


「みなさん、気にしないでいいですからね。安全第一でのんびり行きましょう!」


「負けるわけにはいかなくなったな!」


「おう、この勝負絶対に勝つぞ!」


「ええ、マサヨシ様を侮辱するとはいい度胸ですね。完膚なきまでに叩き潰してやりましょう!」


「お兄ちゃんを悪く言うやつは全員ぶっ潰すニャ!」


「ホー!!」


「いやいやいや!」


 みんな沸点低すぎるよ! さっきまで安全第一でゆっくり行こうって言ってたじゃん! ただ俺のために怒ってくれているのは少し嬉しい。でもそれで怪我などしてしまったら本末転倒だ。


「みなさんが怒ってくれる気持ちはとても嬉しいですけど安全第一でいきましょう。焦って怪我をしたりするほうが俺は嫌ですからね!」


「ああ、わかっているから安心してくれ。冷静にかつ最速でダンジョンを踏破して勝負に勝つぞ! いいな!」


「おう!」


「ええ!」


「おうニャ!」


「ホー!」

 

 ……全員が怪我なく無事にダンジョンを攻略できることを祈ろう。

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