第101話 ダンジョン入り口


 時刻は夕方、特に盗賊や魔物などに襲われることなくシルビアの街に到着した。


 シルビアの街、街というよりはどちらかと言えば、村に近いくらいの小さな街だ。ルクセリアやエガートンのように大きな壁もなければ門番もおらず、家の数も40〜50軒ほどだった。


 まずは村長さんに挨拶をしなければならないので、街の入り口にいた人に話を聞いてみた。ダンジョン攻略の話は伝わっていたみたいで、快くこのダンジョンの情報を教えてくれた。


 ちなみに馬車の御者さんは、シルビアの街でいろいろな手紙や荷物を受け取った後に、すぐに別の街に出発していった。帰りはこの街の馬車を使ってエガートンの街に向かうようだ。


「さて、本格的な攻略は明日の朝からにするとして、まずはダンジョンの入り口まで行ってみるか。ここからすぐそこにあるらしいからな」


 リーダーであるリリスさんの指示で、まずはダンジョンの入り口にまで向かうこととなった。


 シルビアの街から歩いてたった15分、お目当てのダンジョンの入り口に到着した。街からこんなに近いとは思わなかったな。


「あなた達はもしかして依頼されてダンジョン攻略に来られた冒険者の方でしょうか?」


 ダンジョンへの入り口、石造りの地下へと続く大きな階段。そしてそのダンジョンの入り口の前には3人の男がいた。


 そういえばリリスさん達がダンジョンの中から魔物が溢れてきていると言ってたな。装備もしっかりとしているところを見ると、ここから溢れてきた魔物を街に通さないようにしているのだろう。


「ああ。冒険者ギルドから依頼を受けてきた万緑の猫だ。よろしくな!」


「おお、あなた方があの有名なAランク冒険者パーティの万緑の猫の方々でしたか!」


「すごい、まさかAランク冒険者が来てくれるだなんて!」


 ブラッドリーの街でもそうだったが、リリスさんやドレインさん達Aランク冒険者というのはどこでも有名なんだな。


「本格的な攻略は明日からになるが、今ある情報を教えてくれないか?」


「はっ! このダンジョンが発見されたのは数ヶ月前となります。すぐに冒険者ギルドに調査を依頼しましたところ、小規模のダンジョンとして認定されました。


 しかし、このダンジョンで出てくる魔物はネズミやコウモリのような食材にも素材にも適さない魔物ばかりでして、ほとんど人が入りませんでした。


 その結果、先週ついにこのダンジョンから魔物が溢れ初めてしまったのです。我々や街の者達で多少は間引くことができたのですが、このまま放っておきますとまた魔物が溢れてきます。


 シルビアの街はこのダンジョンを踏破して閉鎖することを決めたのですが、この街にはダンジョンを踏破できるほど強い者がいないため、高ランクの冒険者に依頼をしたというわけです」


 なるほど、ダンジョンというのも当たりはずれのようなものがあるらしい。今回はあまりよくないダンジョンだったらしいが、大きくて食材や素材になる魔物が出現するダンジョンは観光名所みたいになるようだ。


「情報感謝する。さっそく少しだけ中に入らせてもらおう。本格的な攻略は明日から始めるから30分くらいで出てくる予定だ」


「はい、よろしくお願いします! ……あのそちらの男性の方はどなたでしょうか? 確か万緑の猫のパーティは獣人女性4人だったはずですが」


「ああ、この人は一時的にパーティに入ってもらっているだけだ。俺達よりもよっぽど強いから安心してくれ!」


「た、大変失礼しました! 不勉強で申し訳ありません!」


「冒険者でもないのであまり気にしないでください。むしろ忘れてもらって構いませんから」


 いや、別に俺にまで畏まらなくても大丈夫だから。それに万緑の猫に新しいメンバーが入っただなんて噂されても困る。






「なるほど、ダンジョンの中はこんな感じなんですね」


 もうすぐ日も暮れることもあり、今回は少しだけ偵察ということで、すでにダンジョンの中に入っている。ダンジョンの内部は地下というのになぜか明るく、酸素も十分に行き届いているようだ。


 こういうのに科学的におかしいとか突っ込んだら負けなんだろうな。


「またきたニャ!」


「ちっ、面倒だな!」


 そして魔物が溢れるというだけあって、ひとつ先のフロアに進むごとに数体の魔物が現れてきている。先程ダンジョンの前にいた人が言っていた通り、今のところは大きめのネズミやコウモリの魔物しかいない。


 確かどちらもゲテモノ料理としては食べられると聞いたことはあるが、いくら俺でもさすがに食べたいとは思えない。それにどちらも病気を持っていそうなイメージがあるんだよな。


 リリスさん達も倒したネズミやコウモリの魔物は、特に素材を剥ぎ取ったりしないでそのまま放置してきている。放っておけば勝手にダンジョンが死体を吸収してくれるそうだ。


「リリス、そろそろ引き上げたらどうだ? 本格的な攻略は明日の朝からでいいだろ」


「そうだな、今日はもう街まで戻ろう。やはり魔物の強さやダンジョンの構造からみて10〜20階層くらいだろうな。2〜3日もあればボスまで倒せると思うぞ」


「そうですね、私もリリスと同意見ですわ。このダンジョンの規模でしたら、今までの依頼と同じように数日でいけるとおもいます」


 どうやらダンジョン攻略はこれが初めてではないらしい。この階層の魔物も数が多いだけで、一対一なら一般人でも問題なく倒せそうだ。


「それじゃあ入り口まで戻るとするか」


「……あの、マサヨシ様。一度転移魔法を使ってみてもらうことは可能でしょうか?」


「ええ、構いませんけど」


 まだ3つ目のフロアですぐに入り口まで戻れるんだけどな。ルルネさんには何か考えがあるのかもしれない。言われた通り転移魔法で俺を含めた5人で、ダンジョンの入り口の階段下まで転移魔法を発動させた。


「……あれ、転移魔法が使えない」

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