第100話 ダンジョン


「そういえば今日は突然どうしたんだ?」


「先日ロウアンの街に行って魚をたくさん買ったので、ちょっとお裾分けしようかなと思いまして。収納魔法があるので、とれたてで美味しいまま食べられますよ」


「まあ、素晴らしいですわ!」


「でもちょっとタイミングが悪かったかな。俺達はこれから依頼で出かけなければいけないんだ」


「そうなんですね。でもせっかくなんで調理した魚を少し置いていきますよ」

 

「やったニャー!」


 やっぱりネコの獣人だと魚が好きだったりするのかな? エガートンの街は王都より海まで近いから少しくらいは海産物も売っているのかもしれない。


「そういえばマサヨシ兄さんは予定があったりするのか? もしよかったら一緒にこの依頼を受けてみないか?」


 そうか、俺がリリスさん達についていくのもありか。どうせ夏休みだし時間はかなりある。それにだいぶ前だが、リリスさん達に冒険に同行させてほしいと俺からお願いしていたからちょうどいいな。


「いえ、特に予定はないですね。お邪魔じゃなければぜひご一緒させてください。ちなみにどんな依頼なんですか?」


「お、そりゃいい! 依頼内容はシルビアの街の近くにあるダンジョン攻略だ!」






 リリスさん達の依頼へ同行することとなり、今は馬車に揺られている。


 シルビアの街にあるというダンジョン。この世界のダンジョンとしてはそれほど大きくはないらしいのだが、どうやら最近ダンジョンから魔物が溢れてきているようだ。


 大きなダンジョンは冒険者達や商人達が集まり、ダンジョンの周りも非常に賑わってくるのだが、小さなダンジョンには人が集まらず、放っておくとダンジョンで発生した魔物が討伐されずに溢れて、外に出てしまうらしい。


 それを防ぐために高ランクの冒険者にダンジョン攻略の依頼が回ってくる。小さなダンジョンでは階層もそれほど多くはなく、数日で踏破が可能らしい。


「ま、今回のダンジョンの規模なら2〜3日あればいけると踏んでいる」


「結構簡単に踏破できるものなんですね。ダンジョンというからには階層も100階層くらいあって、10日以上かかるものだと思ってましたよ」


「それほど大きな規模のダンジョンはこの国に数えるほどしかないぜ。大抵のダンジョンは今回行くような小さなやつで、階層は10〜20くらいだ。食べられたり素材になる魔物が湧くダンジョンは重宝されるけど、それ以外の場合は早めに攻略してさっさと潰しておきたいんだ」


「……ダンジョンってどういう仕組みでできるんですかね?」


「さあな。ダンジョンの研究に生涯を捧げているやつもいるって話だし、謎がまだ多すぎてほとんどわかっていない。ある日突然森や山の中にダンジョンの入り口ができて人を誘い込むらしい。


 魔力が多い場所やある程度人里から近い場所にできやすいってのが通説だな。ダンジョンに人や魔物を誘い込んで死んだやつを栄養にしているって聞いたな」


 こちらの世界の人でもダンジョンの仕組みはまだわかっていないらしい。そもそも魔法やら変異種やらダンジョンやら、この世界の仕組みは日本と全然違うようだ。一応魔力というものが関連していることが共通点か。


 そしてちょっと怖いな。もしもダンジョンの中で死んだりしたらダンジョンに栄養として吸収されるということになるのか。


「仕組みはともかく、ダンジョンの最下層にいるボスを倒せばそのダンジョンは動きを停止しますわ」


 ふむふむ、つまり今回の依頼の目的はダンジョンの最下層のボスを倒してダンジョンの動きを停止させるということだな。


 ガタッ


「きゃっ!」


「うわっ!」


「おっと。大丈夫ですか、ルルネさん、ノノハさん?」


「え、ええ! マサヨシ様、ありがとうございます!」


「あ、ああ! ありがとな、マサヨシ兄さん!」


 道が悪いためか、この馬車にサスペンションがないためか、あるいはその両方のせいでこの馬車は非常によく揺れる。

 

 そのためさっきから両隣に座っているルルネさんとノノハさんが俺のほうにぶつかってくる。俺のほうは大魔導士から力を継承したため、少しくらいの揺れではびくともしない。


「……ずるいニャ」


「……ちぇっ」


 ネネアさんとリリスさんがジト目でこちらを見てくる。……可愛い女の子2人にぶつかられてラッキーとか少しだけしか思ってないよ!


「ちっ!」


 そして馬を運転している御者さんからの舌打ちが聞き耳スキルで聞こえてきた。この御者さんは冒険者ギルドお抱えの御者さんで、リリスさん達のパーティハウスからシルビアの街まで馬車で送ってくれる予定だ。


 そうだよね、仕事とはいえ、可愛い獣人の女性4人に囲まれた野郎なんて運びたくないよね。うん、俺が逆の立場なら間違いなく爆ぜろと呪っていたところだ。


 ちょっとだけ胃が痛くなりながらも、リリスさん達に囲まれながらシルビアの街に向かう旅路は悪くはなかった。


 それにしてもダンジョン攻略か。高ランク冒険者なら踏破が可能ということはおそらくボスよりも破滅の森の魔物のほうが強いんだろうな。とはいえ危険なこともあるだろうし、気を引き締めていこう!

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