第87話 日本人なら魚や貝にはこれ


 収納魔法でしまっていた魚や貝を取り出した。収納魔法でしまえるからといって、調子に乗って買いすぎたかもしれないな。


「……いつ見ても不思議な魔法ですね。こんなに大量の食材が収納した時のまま持ち運べるとは羨ましい限りです」


 確かに商人だけでなく、料理人からしても便利すぎる能力だよな。この魔法があれば冷蔵庫も必要ないし。


「どれも立派な魚や貝ですね。よかった、見たことのあるものばかりなので、これなら私でも捌けそうです」


 魚の中には特殊な捌きかたが必要なものもある。それに今回は買ってきていないが、フグみたいに毒のある魚も売っていたからな。料理をするにも結構な知識が必要なのである。




「ありがとうございます、とても参考になりました」


「いえ、こんなことで宜しければいくらでもお教えできますよ」


 ファラーさんから魚の捌きかたを教えてもらった。鱗を落としたり、小骨を取ったり意外と手間がかかる。肉の解体と同じでスーパーに並んでいる魚もいろいろな手間をかけてお店に並んでいるようだ。


「それではこちらの魚や貝は網で焼いておきますね」


「はい、お願いします。こっちでも少しだけ調理してみます」


 基本的には店や屋台で出ていたように網で焼くのが一般的な食べかただ。せっかくだから俺も少し料理してみたくなった。


 ちなみに刺身は今回出さない予定だ。寄生虫がいないことは気配察知スキルで確認したが、この国の第三王女であるサーラさんにもし万が一のことがあっては大変だからな。


 とりあえずまずは自分で試してみて、また機会があればだな。それに生食の文化がない人たちにいきなり刺身というのもハードルが高いような気もする。

 





「マサヨシ様、お久しぶりです!」


「サーラさん、お久しぶりですね。ジーナさんもダルガさんもお元気そうで何よりです」


「マサヨシ様もお元気そうで何よりです」


「相変わらずマサヨシ殿はいろいろなところを旅しているようですね。なんでも今度はロウアンの街までお出かけになられたとか」


「ええ、相変わらずふらふらと自由に旅しています」


「……あの、それでそちらの可愛らしいフクロウなんですが?」


「ホー!」


「俺の召喚獣で名前はフー助です。可愛いでしょう?」


 さっきトイレに行ったふりをして、一度俺の部屋まで戻りフー助を迎えに行ってきた。せっかく美味しいものを食べるのならフー助とも一緒に食べたい。30分もかからないだろうし、この時間に守さんから連絡がきた時だけは諦めるしかないな。


「とっても可愛らしいですね! あの、あとで少し触らせて欲しいです」


「ええ、もちろんですよ」


「ありがとうございます!」


「……召喚獣ですか。初めて見ましたよ。この国の貴族や王族ですら持っていないというのに」


「隊長、私はもうマサヨシ様のすることに驚かなくなってきましたよ」


 どうやら召喚獣は非常に珍しいものらしい。あれだけの魔法石を集めるのは大変そうだし、魔法陣の知識や魔力も必要だし、なかなか難しいのだろう。


 知り合い以外には魔物をテイムしたと伝えたほうがよさそうだな。


「それではせっかくの料理が冷めちゃいますからいただきましょう。ファラーさんお願いしますね」


「はい。それでは料理の説明を致しますね。こちらはマサヨシ様からいただきましたロウアンの街の海産物を焼いた物です。軽く塩を振っておりますが、こちらの魚醤や、マサヨシ様がお持ちになった醤油という調味料をつけるとより美味しくいただけます」


 やはり日本人なら海鮮系には醤油で決まりだ。シンプルに焼いた魚や貝に醤油を垂らすだけでこれ最強!しかもしぼりたて生のやつだ。俺もそこまで味の違いがわかるわけではないが、気持ち普通の醤油より美味しい気がする。


「そしてこちらがマサヨシ様が調理してくれました、スライプサーモンの包み焼きと、メシマダラのムニエルという料理です。味見させていただきましたが、どちらも初めての味でとても美味しかったですよ」


 今回俺が作ったのはこの2品だ。どちらも家庭で簡単にできて美味しい魚料理である。


 包み焼きは塩胡椒をまぶした魚の切り身と野菜、キノコ、バターなどをホイルやクッキングシートに包んで弱火でじっくり熱し、仕上げに醤油をかけて完成だ。家では材料を包んで電子レンジでチンするだけで簡単にできてしまう。


 ムニエルのほうも、ものすごく簡単にできる割に、お店で出てくるようにパリパリで美味しくできるので、結構気に入ってたりする。


 メシマダラの切り身に塩胡椒を振ったあとに水を切り、小麦粉をまぶして焼く。少し焼いたあとにバターを投入し、熱で溶けたバターをスプーンなどで切り身にかけながら焼いていく。仕上げに魚の脂が滲み出たバターに醤油とレモンのような果汁を加えてできたソースをかけて完成だ。




「これはうまい! まさかこの王都でこんなに新鮮な魚や貝が食べられるとは!」


「美味しいです! それにこんなにいろんな種類の魚や貝を見たのは初めてです。このあたりでは干物や近くで取れた川魚が数種類くらいしか売っていませんからね」


「マサヨシ様、とっても美味しいです! この醤油という調味料のおかげで塩だけよりもとっても美味しく感じます!」


「本当ですね! 魚醤ではかけた魚や貝に生臭さが少し移ってしまうのですが、この醤油というものにはそれがありません。脂の乗った魚にあっさりとしたしょっぱさが加わり、とても美味しく感じます!」


「姫様、こっちの包み焼きとやらもうまいですぞ! ふっくらとした魚の身にバターとこの醤油という調味料があわさって……くっ、これは酒にあいそうだ!」


「サーラ様、こちらのムニエルという料理ですが、身がパリパリとしていて初めての食感です。上にかかっているソースもとても美味しいです!」


「ええ、どの料理もとっても美味しいです! マサヨシ様ありがとうございます!」

 

「ホー!!」


 フー助も含めてみんな満足してくれたようだ。お店で食べた塩味も美味しかったが、やはり日本人なら魚や貝には醤油だよね。


 そして今日のデザートだが、ケーキはひと通りの種類を食べたと思うので、ケーキではないものを持ってきた。

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