第83話 フー助


 光り輝く魔法陣。魔力のほとんどを吸い取られるような感覚。そして魔法陣の中心に置いた魔法石が膨れ上がってその形を変えていく。果たして俺の召喚獣はどんな姿をしているのだろうか?


「ホー!」


 ……俺の召喚獣、それは茶色と白色のマダラ模様のフクロウだった。




 あれかな、俺の魔法使いの召喚獣や使い魔のイメージがフクロウだったということかな。いやでもそれなら某有名な魔法使いのメガネの少年のように、真っ白なフクロウが出てくるはずだし、たまたまか。


 しかしおかしいな、召喚獣には戦闘能力があるはずなのだが、このフクロウに戦闘能力があるとはまったく思えない。


「ホーホー!」


 ……可愛いな。つぶらな瞳でちょっと首を傾げているところなんて特に可愛い。そしてモフモフとしたこの毛並み、手で触ってみるとこちらに身を寄せてくる人懐っこさ。


 うん、戦闘をさせようと召喚してみたわけではないから別に戦闘能力がなくてもいいや。そうだ、名前を付けてあげないとな。


「きみはオスかな?」


「ホー!」


 どうやら意思疎通はできるっぽい。俺の質問に可愛らしくうなずく。フクロウだからホー……いやフー……


「……フー助とかどうだ?」


「ホー!!」


 我ながら安直すぎたかなと思ったが、どうやら気に入ってくれたようで、バサバサと周りを飛び回ったあとに俺の右肩に乗ってきてくれた。


 それにこのサイズなら元の世界に戻っても普通にペットとして飼っているフリができる。さすがに大魔道士のように大きな獅子型の召喚獣だったら可哀想だけど大魔道士の家に置いていくしかなかったからな。


 それじゃあフー助のことについて、いろいろと調べてみるとするか。


 


 フー助について調べてみたところ、思っていたよりもいろいろなことが可能だとわかった。


 まずは異世界の門についてだ。そもそも俺以外がこの門に入れるのかという問題があったが、フー助も無事に世界を渡ることができた。そうなると異世界にいる人も日本に、日本にいる人も異世界に行くことができる可能性が高い。


 そしてフー助と俺が別れて日本と異世界にいても問題ないこともわかった。召喚獣というからにはいつも俺のそばにいるのかなと思ったが、フー助だけ日本に帰ってしばらくしても、特に俺のそばに再召喚されるということもなかった。


 さらにありがたいことに俺の言葉はフー助に届いているようで、俺の指示通りに動いてくれた。あと驚いたのは、こちらの世界の文字も日本語も両方理解しているということだ。もしかしたらだが、召喚をした俺が日本から来たからか、言語理解スキルの力が発動しているのかもしれない。


 よし、これなら俺の思っていたことができそうだ。守さんにお願いしてちょっと実験してみよう。




 ダダダダダダ


 俺は今異世界にいる。ブラッドリーの街からもともとの目的地であった。海の街に向けて走っている。変異種騒動も落ち着いたし、異世界の海産物を早く食べてみたい。


 さすがにテロ事件の時に使っていた風魔法を自分にぶつけるという荒技は使っていない。あの移動方法はたしかに速いのだが、痛みを伴うし方向転換ができないから道をすぐに見失ってしまう。スマホのナビがある日本でしか使えないな。


 ビーーーーー!!


 街への道を走っている時に懐に入れていた15cm四方の箱がけたたましい音をたてる。おっ、うまく作動したようだな。


 ビー、ビー!


 大きな音が鳴ってから、少し間をあけて再び2回大きな音が鳴る。これは事件ではなく事故という合図になる。よし、想定通りの動きだ。すぐに転移魔法を使い大魔道士の家に戻る。


「ホー!」


「よしよし、フー助えらいぞ!」


 大魔道士の家ではフー助が俺を待ってくれていた。そしてその傍らには俺が持っている箱と同じものがある。


 フー助と一緒に異世界の扉を通り、日本に戻ってきた。机の上に置いてある俺のスマホを確認すると一件のメールが来ている。


 差出人は守さん、メールの内容は例のニュースメールだ。そしてタイトルにはテストという文面がついていた。送ってきた時間はたった2分前、これだけ速く戻ってくることができるのなら異世界に行っている間も問題はないだろう。


「これもフー助のおかげだな」


「ホー」


 頭を撫でてあげるとバサバサと羽を広げてその可愛らしい目をこちらに向けてくる。なにこの可愛い生き物!? ペットでフクロウを飼ったり、フクロウカフェの人気があるのもわかる気がする。



 

 今回の実験についてだが、先程守さんに連絡をして数時間以内のどこかでテストのニュースメールを送ってもらうようにお願いした。


 スマホを俺の部屋の机に置き、フー助を日本に置いて俺は異世界へとやってきた。そのままブラッドリーの街に転移し、以前に向かおうとしていた海の街を目指して走っていた。


 そして守さんからのテストメールが俺のスマホに届き、それを見たフー助が異世界の扉を通って大魔道士の家に行き、この四角い箱のスイッチを押して俺に連絡してくれたというわけだ。


 大きな音を鳴らしたこの2つの四角い箱だが、これは大魔道士が作った魔道具だ。箱にはスイッチが付いており、スイッチを押している間にもう片方の箱が大きな音を鳴らす仕組みになっている。


 大魔道士の遺した資料によると、どんなに離れた距離でも音は鳴るらしいのだが、試してみたところ、さすがに異世界と日本では音は鳴らなかった。そこでフー助に日本と異世界の中継をしてもらったというわけだ。


 大魔道士の遺してくれた魔道具もいろいろあるのだが、その中でもこの魔道具はかなり便利なものに思えた。連絡手段の乏しいこの異世界では瞬時に情報を送れるだけで大きな武器になる。


 大魔道士は大きな音しか送れないからたいして使えないと資料に書いていたが、元の世界のモールス信号のように使えば、時間は掛かるが文面を送ることも可能だ。これなら国宝級の魔道具と言われてもおかしくないな。


 ちなみに動力は魔法石のカケラで動いている。どうやら魔法石は小さなカケラですらかなりのエネルギーを持っているらしく、魔道コンロにも使われている。魔道具や魔法石がこんなに高価な理由がようやくわかったよ。


 しかし魔道具というのは某猫型ロボットの道具みたいだな。魔法石を入れたら水を出す魔道具とかも便利そうだ。それにしてもこれで異世界からの連絡手段も手に入れることができたのは大きいな。

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