第81話 自分のできる範囲
少し迷った結果、守さんの申し出を受けることにして俺の連絡先を伝えた。そして俺が使える能力についても一通り説明した。
とはいえさすがに昨日出会ったばかりの守さんに俺の能力すべてを伝えることはせずに、今まで使ってみせた転移魔法、回復魔法、拘束魔法、水魔法、隠密スキル、威圧スキルについてだけ説明した。というか俺自身もまだ大魔道士の力すべてを理解しているわけじゃないしな。
「……なるほど、転移能力は一度行ったことのある場所にしか行けないということですか」
「はい。本当は日本のすべての都道府県に移動できるようにしておきたいんですけれど、なかなかお金も時間もないもので……」
「いえ、立原さんがそこまでする必要はないと思いますよ。それをいったらその先は日本だけでなく世界中を飛び回って、心休まる時間がまったくなくなってしまいますからね」
うっ……さすがに世界中までは難しい。
「そもそも人を助けるのに義務はありませんからね。道義的には助けられるなら助けたほうがいいとは思いますが、個人にどんなに力があってもそれには限界がありますし。
私も警察の手伝いをするとはいっても自分のできる範囲かつ、情報収集までと決めております。体力がないのは自負しているので、実際の事件の解決は警察の人に任せないと無理ですからね」
なるほど、守さんも情報収集という手段でずっと前から人助けをしていたのかな。自分のできる範囲というルールを具体的に決めるのはいいかもしれない。
「それに自身の生活というものもあります。私の場合は妹の風華との時間をなによりも大切にしておりますからそれが第一優先です。
立原さんにもお母様がおりますし、学校もあるでしょうからそちらのほうを優先されるべきです。自分のできる範囲でというのは、自分の心を保つということにもなりますからね」
……もしかしたら守さんにも何か経験があったのかもしれないな。
「ありがとうございます、ちょっとだけ心が楽になりました。でもできるなら、その範囲は自分のできるギリギリまで広げたいですね」
「わかりました。その気持ちは十分わかります。それではこちらでもいろいろと考えてみますね」
「ありがとうございます、よろしくお願いします」
「正義お兄さん、またいつでも来てくださいね!」
「美味しいケーキや料理も用意しますので、ぜひまたよってくださいね」
「ごちそうさまでした。ありがとうございます、またよらせてもらいますね!」
だいぶ長居してしまったな。ケーキも料理も美味しかったし、有意義な時間を過ごすことができた。俺の正体がバレてしまったが、バレたのがこの2人だったのは不幸中の幸いだったのかもしれない。
そして次の日、早くも守さんから連絡が来た。今後の事件や事故の連絡については、ニュースメールに偽装したメールが守さんから届くようにしてくれた。
場所、事件や事故の概要などをまとめて送ってくれるそうだ。普通に送るよりもニュースメールに偽装したほうが、俺にも都合が良いだろうと守さんが考えてくれた。本当に芸が細かい。
そして連絡はくれるが、こちらから特に連絡は不要らしい。もしも俺が行った場合には監視カメラの消去などの後始末はすべて守さんがやってくれるそうだ。というかそんなことまでできるのか……
もしも警察との協力や連携が必要な時は別途連絡をくれるそうだ。はてさて、今後はどうなることやら。
いつ連絡が来るかとドキドキしながら待っていたのだが、土曜になっても守さんからの連絡は来なかった。まあよくよく考えてみればそう簡単に身の回りで命の危険が起こることなんてそこまではないよな。
事故だってそんなに頻繁に起こるわけでもないし、即死だったりした場合はどうしようもない。危機感知スキルも最近は反応がなく平和だ。
それに工場の爆発事故レベルの話になると全国でも月に一度あるかどうか。テロ事件レベルの話になると何年かに一度あるかどうかだ。最近は立て続けに起きていたが、普通に考えたらそんな大きな事件が頻繁に起こるわけないよな。
さて、今日はちょっと異世界に行ってこようと思う。ブラッドリーの街で買取をお願いしていた変異種とドラゴンの素材の査定がそろそろ終わっているはずだ。
いつものように異世界の扉をくぐって異世界へ移動し、ブラッドリーの街まで転移魔法で移動する。さて、ギルダートさんはいるかな?
「すみません、マサヨシと申しますがギルダートさんはいらっしゃいますか?」
「はい、マサヨシ様ですね。少々お待ちください」
しばらく待つとギルダートさんがやってきた。
「お待たせしました、マサヨシ殿。おかげさまでブラッドリーの森もようやく落ち着きを取り戻し、前回の変異種の討伐戦でこの街もだいぶ賑わっております。これもマサヨシ殿のおかげですよ。
解体所のほうの準備はすでに終わっております。お手数ですが解体所までお願いします」
場所を移して解体所へ移動する。今日は解体所にも大勢の人がいて作業を行っていた。すごいな、あんな大きい魔物とかも解体するんだ。
「おうにいちゃん、久しぶりだな」
先週解体所にいたガチムチのおっさんだ。今日もその右手には血塗れの中華包丁を手にしていた。ここならいいが夜にこの人にあったら逃げ出す自信があるな。
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