第76話 謎の男の訪問


 そして数日後、相変わらずテレビのニュースやネットでは例のテロ事件の動画や助けられた人質の証言などで盛り上がっている。前回の爆発事故と違って今回は規模が大きすぎて、落ち着くまでにしばらく時間がかかるだろう。


 まあこればかりは時間が過ぎるのを待つしかない。あとは落ち着くまでにまた新しく大きな事件が起こらないことを祈るだけだな。

 


 

「ああ〜疲れた〜」


「母さん、おかえり。晩ご飯の準備できてるよ」


「いつもありがとうね。最近は毎日が忙しくて大変よ。もう少し看護師の数を増やしてくれてもいいのにねえ」


 確かに最近は毎日残業して帰ってきているようだ。朝出勤するのは他の人より少し遅いとはいえ、毎日大変だな。でも人を助ける立派な仕事だから無理のない範囲で頑張ってほしい。


 それに母さんにはたまにこっそりと回復魔法をかけているから他の人よりは多少は楽だと思う。とはいえ疲労に関して回復魔法はそこまで効かないけどな。


「あんまり無理はしない範囲で頑張ってね」


「そのあたりは大丈夫よ。看護師が入院なんてことはしないからね。それよりもだいぶ時間がかかっちゃったけど、もう少ししたらようやく休みが取れるから旅行に行くわよ。最近は正義も休みの日に毎日出かけるようになって、あまり時間が取れなかったからね」


 うっ、そういえば最近の休みの日は毎日のように異世界に遊びに行っていたからな。休みの日はあまり母さんとの時間を過ごせていない。


「ごめん、最近はちょっといろいろとやりたいことがあって……」


「何言ってるのよ、母親からしたら子供が家にずっといるよりも外に遊びに出掛けてるほうが嬉しいものよ。これからも母さんのことは気にしないで好きに遊びにいってらっしゃい。あっ、でもご飯だけは作ってくれるととても助かるわね」


「ありがとうね、母さん。あっ、ご飯は任せといてよ! 最近は自分で料理ができて良かったって思えるし、何より料理をするのも楽しいからね」

 

 ちなみに最近は異世界で獲ったり買った肉もうちの食卓に並んでいる。異世界のお金はいくらでもあるから立原家の懐事情に大いに貢献してくれている。


 食材だから問題ないとは思うが、念のためこっちの世界で状態異常耐性スキルを使わない状態で異世界の食材を食べて数日間様子を見たが、特に異常が起きないことを確認している。


 大魔道士の力を継承している俺の身体だから大丈夫という可能性もあるが、さすがに毒のあるような食材でなければ、こちらの世界の人間が食べても問題なさそうだ。


 だが、さすがにまだドラゴンの肉は食べさせてあげられていない。ワイバーンの肉は特売品の良い肉ということにして何度か食卓に並べたが、ドラゴンの肉は美味しすぎていろいろと問題があるんだよなあ。



 

 ピンポーン


 あれ、珍しい。こんな時間に来客だ、宅配便かな。俺は何も頼んでないけど母さんが何か頼んだのか?


「はいは〜い」


「あっ、俺が出るから母さんはご飯食べててよ」


 ええ〜と、ハンコは……あった。


「今開けます」


 ハンコを持って玄関の扉を開ける。扉を開けると荷物を持った宅配員ではなく、スーツを着た若い男だった。母さんの知り合いかな?


「夜分遅くにすみません。初めまして、立原正義さんですね?」


「はい。母さんの知り合いのかたでしょうか?」


 宅配便でもないようだし、俺の知り合いでもない。残る可能性は母さんの知り合いくらいか。


「八木守と申します。本日は正義さんにお話があって参りました。少しだけ外でお時間をいただけないでしょうか?」


 俺に? この人には見覚えがないんだけどな。それにさっきこの人自身も初めましてと言っていたよな。


について話したいことがございます」


「っ!?」


 なに!! まさか俺の正体がバレたのか!? 警察の人か? 家の住所まで突き止められてしまったのか!?


「誤解のないように先にお伝えします。このことについて知っている者は私ともう一人だけです。そして我々はあなたの味方です」


 ……警察ではないのか? それに俺の味方って俺はこの人を知らないのだが。


「……母さん、俺の知り合いの人だった。少し外で話してくる」


「は〜い」


 部屋の奥にいる母さんに断って謎の男とアパートの前の空き地まで移動する。気配察知スキルで周りを確認するが怪しい人影はない。どうやらこの人はひとりで俺に会いにきたようだ。



 

「……あなたは何者だ? なぜ俺のことを知っている!」


 この人は俺の味方だと言っていたが、俺にはその覚えがまったくない。嘘をついている可能性もあるし、味方といいながら俺を利用する気なのかもしれない。とにかく用心しなければ! いざとなったら威圧スキルで……


「まずは先に警戒を解いていただければと思います。こちらの写真の女の子について見覚えはないでしょうか?」


 そう言いながらスーツの男は一枚の写真を手渡す。今時写真とは珍しい。写真の中には小学校高学年くらいの可愛らしい女の子が写っていた。


 ……誰だろう? というか俺に小学生の女の子の知り合いなどいるわけもない。


 いや待て! でも俺はどこかでこの女の子を見たことがあるような気もする。どこだっけな……あっ、まさか!


「交通事故にあっていた女の子……」


「そうです! よかった、覚えていただけておりましたか!」


 大魔道士の力を継承してすぐのころ、確か交通事故にあって大怪我を負っていた女の子を、回復魔法で治したことがあった。この写真の女の子はその子に似ていた気がする。


「この子は私の妹です。この度は妹の命を救っていただきまして本当にありがとうございました!!」

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