第75話 動画再び
今日は月曜日。普段なら学校に行くことに対して足が重くなるが、今日はそれよりも憂鬱なことがある。いうまでもなくて昨日のテロ事件のことについてである。
どうやら人質を解放できた時に俺の変装スーツ姿の写真をこっそり撮ってSNS上にあげていた人が何人かいたらしい。それが昨日中に拡散されてSNSは朝から盛り上がっている。
いや別にいいんだけどさあ、勝手に写真を撮って勝手にネット上にあげるってどうなのよ。確かにあの状況で写真撮ってもいいですかなんて聞かれたら、そんな状況じゃないから断るけどさ、それにしても勝手にあげないでほしかったな。
それに伴って前の爆発事故の動画の再生数もすごい勢いで上がっているらしい。今回は駅構内で監視カメラがあることは認識していたが、さすがに壊すのもどうかと思いそのままにしておいた。
とはいえ今回は結構大ごとになったし、監視カメラの映像は警察か機動隊か誰かが押収するだろうし、ネットに上がることはないというのがせめてもの救いか。
「なあなあ、例の動画また上がってたぜ!」
「あっ、本当だ」
「えっ、マジで!?」
昼休み、いつものように安倍と渡辺と昼食をとっていた時に、安倍が新しい動画を見つけたらしい。急いで俺も自分のスマホで調べてみると、あの爆発事故の動画をあげたのと同じ人が新しい動画をあげていた。タイトルは『ヒーロー見参!? 人質200人を無傷で救出!』。
相変わらずこの動画をあげた人の動画のタイトルはよくわからない。というかこの動画をあげた人は爆発事故が起こった工場の関係者じゃないのか? こうなるとあとはもう警察の関係者くらいしか工場と駅構内の監視カメラの映像を手に入れることはできないように思える。
「なんだこりゃ!? いきなりテロリストの足元から鎖が出て全員を拘束したぞ!」
「それに見てよ、ここのシーン。人質を盾にしているテロリストが何もしてないのに銃を落として座りこんじゃったよ」
……拘束魔法と威圧スキルですね。第三者視点で見るとやっぱり映画のCGみたいに見えるほどやばい力だ。あとやっぱりこの格好は非常に怪しく見える。子供に悪人と間違えられてもしょうがない。やっぱり真っ黒の仮面が怪しいんだよなあ。
「前回の爆発事故と違って今回の動画は本物だろうね。あっ、別に前回の動画が偽物って意味じゃないよ。今回の事件だと目撃者がいっぱいいるし、SNSで写真をあげた人もいっぱいいるからね」
「マジもんの超能力者か〜羨ましいな! こんな力があればなんでもできるじゃん。お金も好きなだけ稼げて人生バラ色じゃん!」
俺も最初はそう思ったんだけど、意外とこっちの世界でお金を稼ぐのって難しいんだよ。そういえば安倍や渡辺はこの行為自体はどう思っているのだろう?
「でも悪いやつではなさそうだよな?」
「そりゃ人を助けてまわっているんだから悪いやつじゃないだろ。むしろ動画のタイトルみたいにヒーローじゃね。見た目はすげえ怪しいけど」
「うん、この超能力を人助けに使っているし偉いと思うよ。それにこれだけの規模のテロ事件で、犯人も含めてひとりの死者も出なかったのは、本当にすごいことだと思うよ。見た目はすごい怪しいけどね」
見た目については俺も思ったからもういいです……結局テロリスト達も生きていたようだな。一応ふたりとも俺がしてきたことには賛同してくれているようだ。
だが爆発事故はともかく、今回の事件については俺が行ったことで、逆に事態を悪化させる可能性もあったことは忘れてはいけないな。俺が出ていったせいで逆上した犯人が人質を……なんてことがあってもおかしくはない。
今回はあの親子も助けることができたからよかったが、警察や機動隊だっていろいろと考えて動いているだろうし、勝手にひとりで動き回るのも場合によってはよくはないだろう。本当は連携を取れるのが一番いいんだけど現実的には難しい。
「でも日本でテロとか本当に怖えよな」
「そうだよね、世界的に見てもこれだけの規模のテロって滅多にないらしいよ」
「それは俺も思ったよ。しかもここからそんなに遠いわけでもないし、外に出掛けるのが少し怖いよな」
主に異世界に行くのが怖い。
「そりゃそうだけど、そこまで気にしてたら外にも出れねえよ」
「そうだね、こればっかりは交通事故みたいに運が悪かったと思うしかないと思うよ。どんなに気をつけても防げないものは防げないからね」
まあ運や巡りあわせが悪かったと割り切ることもできなくはないが、そう簡単に割り切れるということでもない。
さて、学校から家に帰ってきたが、これからどうするかな。とりあえず前回の爆発事故と同様にあの動画から俺の個人情報がバレることはないと思いたい。
そしてしばらくは異世界に行くのも控えたほうがいいな。さすがにこれほど大きな事件が何度も続くことはもうないとは思うが、俺が異世界に行っている間に何か大きな事件が起こったらと思うとちょっとな。何かいい方法がないか考えてみるとするか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます