第77話 バレた理由


 写真の女の子の兄を名乗るスーツの男が俺に対して深く頭を下げてきた。確かあの時は車との事故で大怪我をしていた女の子を回復魔法で治したんだっけな。


「……妹」


「はい、この子の名前は八木風華、両親も祖母も他界した私にとって唯一の家族です。世界で一番大切な妹を助けてくれたあなたには、いくら感謝してもしきれません」


 確かに写真の女の子とどこか面影がある。しかし、この人がこの子の兄だったとしてもどうやって俺のことがわかったんだ? あの時は隠密スキルを使っていて周りの人にはバレていなかったはずだぞ。

 

「……それでどうやってあなたは俺のことを見つけられたんですか?」


「はい、そもそも私があなたの存在に気付いたのはその交通事故の時からでした。妹が事故にあったと聞いて急いで病院に向かい、医師から容体を聞いたところ、あれだけの事故にもかかわらず、大きな怪我はほとんどないと言われました。


 その時は本当に運がよかったと神様に感謝しただけでした。ですが後日、救急車を呼んでくれて妹に付き添ってくれていた方にお礼を伝えに行ったところ、事故当初は大量の血が流れてかなり重体だったはずの妹の怪我が急に治っていったと教えていただきました」


 俺が隠密スキルで近付いて回復魔法を使ったからか。


「その話を聞いた時もまだあなたの存在には気付いておりませんでしたが、決定的でしたのはに残っていた映像でした」


「ドライブレコーダー!?」


「はい、事故を起こした相手からドライブレコーダーの映像を見せてもらったのですが、そこには立原さんが倒れている妹に近付き、何かをしていたところが映っておりました。


 しかし、そのことを誰も気付いていない様子で、救急車を呼んでくれた人もあなたのことは知らない様子でした。


 さすがの私でもこれはこの映像に残っていた人が、誰にも認識されないような能力と怪我を治療する能力を持っており、妹を救ってくれたということに気付きました」


 ドライブレコーダーか……そういえばあの時、事故を起こした車も側に止まっていたっけ。


 監視カメラといいドライブレコーダーといい、人相手には無敵と思われていた隠密スキルも、カメラに溢れている現代社会ではいろいろと穴が多いんだな……


「妹を救ってくれたあなたにどうしてもお礼が言いたくて、それからずっと探しておりました。映像の学生服から学校を特定し、全校生徒の名前と写真、住所をとある筋から入手しました」


 とある筋ってなに!? うちの学校のセキュリティってそんなにあまいものなの!?


「心配のないようにお伝えしておきますが、立原さんの学校のセキュリティが特別脆弱というわけではありません。


 実は私の仕事なんですが、警察の情報収集の手伝いをしておりましてね。ネットや様々な場所から情報を得られる立場にあります。合法的に立原さんの学校の協力を得ることができました」


 !? やだこの人ちょっと怖い……


「そして映像から立原さんの顔を全校生徒の名簿から検索してみたのですが、その際は立原さんを見つけることができませんでした」


 あれ、そうなの? ああ、もしかして名簿に載っている俺の写真は大魔道士の力を継承して痩せる前の姿だったか。

 

「実は妹も事故の際に意識を取り戻した際に立原さんの顔を見ていたらしいのですが、え〜とその、今の立原さんとは姿がだいぶ異なっていたので私も妹も気付くことができませんでした」


 そりゃまあ今よりだいぶ太っていたし、あれを同一人物と見るのはさすがに無理だろう。それにしてもあの女の子も意識を取り戻していたのか。ずっと気を失っていたと思っていたよ。


「そのあともいろいろと情報を集めていたところ、地震による工場での爆発事故が起こりました。警察からの情報で、事故に巻き込まれた人から気付けば大きな怪我が治っていたという証言を得ることができました。


 これは妹を救ってくれた人と同一人物である可能性が高いと思い、その工場の監視カメラの動画を手に入れ、ネットにあげて有力な情報を得ることができないかと試みました」


「あの動画もあなたがネットにあげたんですか!?」


「はい。そして先日のテロ事件の監視カメラの映像を見て、テロリスト達の目の前にいながら気付かれない能力があることを確認し、妹を救ってくれた人と同一人物であることを確信しました。そして動画をあげることにより、あなたから直接連絡が来ることも少しだけ期待しておりました」


「えっ、あの動画って動画をあげた人に連絡できるんですか?」


「はい、コメントという機能を使って視聴者から配信者にコメントを残せますよ。もちろんコメントを残した人が動画に映っている本人であることはわかりませんので、あえて動画から削除しておいた瞬間移動や他人に見えなくなる能力を持っているとか書いてくれればこちらでわかりますからね」


 ……なんかすみません、俺動画とか全然見ないんでまったく知らなかったです。


「残念ながら動画のほうからは手がかりをえることができませんでしたが、先日立原さんの学校の目の前にある民家を借りることができましてね。そこにカメラを仕掛けておき、登下校する学生達の様子を監視してようやくあなたを見つけることができたというわけです」


 怖っ!!


 俺も母さんの命の危機を誰かが救ってくれたなら、全力でその人を探してお礼を伝えたいと思うだろうけど、さすがにそこまではできないぞ。……いや、それができるくらいの力があるってことか。


「先程ようやく確証が持てたので、こんな遅くにもかかわらずお邪魔してしまったというわけです。ちなみに先程の立原さんの反応でもさらに確信が持てました」


 ……思いっきり驚いちゃったもんね。ミステリーとかだったら、あの態度だけで自白したも同然だったよ。さすがにこれは誤魔化せないな。


「……お話はわかりましたし、お礼も承りました。こちらとしてもたまたま近くにいて助けることができたから助けたまでですので、あまり気にしないでください」


「もしよろしければ、妹からも直接お礼を言わせていただけないでしょうか? 今日はもう遅いので明日以降に家に招待させていただければと思います」


 家に招待……たとえ罠だとしても大魔道士の力があればどうとでもなりそうだ。それにすでに住所までバレてしまっているし、この人が俺を利用しようとしていたら、直接家に来て俺に会わず、母さんを人質に取るという手段を選んでいただろう。


 もしもこのことについて脅迫でもしてきたら威圧スキルで脅すか、最後の手段として関係者の記憶を弄るしかないか。


「わかりました。それでは明日の放課後でどうですか?」


「ありがとうございます。それでは明日の16時ごろ、家までお迎えにあがりますね」


「はい。それとお願いなんですが、あの動画を削除してもらうことは可能ですか? できれば俺の個人情報は世間にバレたくはないので」


「わかりました、すぐに削除しますね。申し訳ありません、あのような目立つ服装でしたのでネット上にあげても問題ないと判断してしまいました」


 うぐっ、俺の黒歴史を思い出させないで……

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