第72話 俺よりも勇気がある男の子
「バインド!」
「んなっ!」
「なんだよ、これ!」
人質の親子に手を出そうとしていたテロリスト2人をぶん殴って吹き飛ばした後、ここにいるテロリストども全員を下級拘束魔法で拘束する。突然の乱入者である俺に対して銃を向けたテロリストもいたが、いきなり地面から現れた鎖になす術もなく拘束された。
よくわからない言語を喋っていたが、言語理解スキルで言葉は通じるらしい。
冷静沈着スキルを使っていたが、それでも抑えきれないほどの怒りが湧きあがった。ぶん殴った2人はそれこそ殺しても構わないくらいの力でぶん殴った。だが幸いというべきか残念というべきか、抑制スキルの力でかろうじて生きているらしい。
子供を必死に庇おうとする母親のあの姿を見てなお子供を連れて行こうとしていたこのテロリストどもに回復魔法を使う気などカケラもない。大魔道士の力を継承してから人を殺してもいいと思ったのは初めてだ。死ぬなら勝手に死ね!
「お、おい! あの黒い仮面に変なスーツは見たことあるぞ! ちょっと前に動画であがってたやつだ」
「私も見たわ! あの爆発事故のときにいた人よ」
「どこから現れたんだ?」
おっと今はテロリストの安否などどうでもいい。ここからは時間との勝負だ。人質がいるのはここだけではなくもう一箇所ある。
「助けにきました。あちら側のテロリストはすべて捕らえてシャッターも開けてあります。外には警察がいますので、慌てずゆっくりと避難してください!」
「「「おおおおおおお!」」」
すでにテロリストども全員の動向は把握している。このフロアのテロリストは全員制圧した。残りは上の階に止まっている電車の中に人質といるテロリストと、駅の職員達が使う一室にいるこのテロリストの司令官らしき者達だけだ。
司令官達がいる部屋は入り口に障壁魔法を使って出れないようにしてある。先に上の人質達と一緒にいるテロリストどもを制圧する。
「あ、あの! 助けてくれて本当にありがとうございました!」
テロリストから子供を必死に守ろうとしていた母親だ。
「無事でよかったです。さあ、あなた達も避難してください」
「はい! ありがとうございます。俊介、行くわよ」
「マ、ママから離れろ〜!」
テロリスト達に連れていかれそうになっていた男の子が母親と俺の間に割って入ってきた。ん? なんでだ?
「は、早く逃げてママ! ぼ、僕がママを守る!!」
「………………」
うん、間違いなく俺が悪いやつの仲間だと思われているね。今回はネットで安物の変声機を買い、黒い仮面の中に仕込んであるから不審者度は前回の爆発事故のときよりも更に上がっている。
子供から見たらテロリストよりも俺のほうがよっぽど怪しいのかもしれない。……子供の純粋な心は時として残酷なものだな。
両手を広げてここから先は誰も通さないという強い意志を感じる。よく見ると身体が震えている。男の子の両目からは涙と鼻水が溢れて顔はひどい有様になっている。
それでもなお母親の前に立ち塞がろうとするこの男の子を俺は尊敬する。こんなに幼いのに今の俺よりもよっぽど勇気があるよ。
「こら、俊介! この人は私達を助けてくれたのよ!」
「とっても勇気のあるお子さんですね。それじゃあね、俊介くん。ママを大切にするんだよ」
この親子を助けることができて本当によかった。次は上の階へ急がないと!
「両手をあげて離れなさい!」
「た、助けて!」
カタコトの日本語で銃を持った女に命令をされる。命令通り手をあげて少し後ろに下がった。
この女はテロリスト達と同じ黒いニット帽や防弾チョッキ、黒い服などを着ていないからわからなかった。どうやら乗客にもひとりテロリストの仲間が潜んでいたらしい。
下の階のテロリストの制圧が終わり、すぐに上のホームに上がって隠密スキルで隠れながらテロリスト達を拘束した。そして電車の中のすべてのテロリストを拘束し終え、閉じた電車の扉をこじ開けて人質を逃していた。
すると突然一番奥の車両から発砲音がし、急いで向かうとテロリストの仲間と思われる女が、人質の女性のひとりに銃を突きつけていた。
「おい、さっさとこいつを外してくれ!」
「くそっ……この鎖全然外れない!」
人質に銃を突きつけ片手で拘束したテロリストの鎖を解こうとしている。だが、下手な魔物でも解くことができない拘束魔法を、普通の人が解くことができるはずもない。
「おい貴様、さっさとこれを外せ!」
人質に突きつけていた銃を
「あ……ああ……」
威圧スキルを最大限に使用し、女テロリストに向ける。するとその顔が恐怖に染まり、銃を取り落とした。もはや立っていることもできずに座り込む。そして女テロリストが座り込んだ場所から液体が広がる。どうやらあまりの恐怖に失禁しているらしい。
威圧スキルを最大限に使うとここまでになるのか……まあ今回はテロリストが相手だから精神が崩壊しようと知ったことではないが、別の人に使う時には十分に注意するとしよう。
銃の暴発の危険性を考え、俺に銃が向けられた時に行動を起こし、念のために人質の女性にも俺にも障壁魔法をかけておいたが不要だったようだ。
女テロリストも魔法で拘束し、人質となっていた女性も解放することができた。残りは下の部屋に閉じ込めているテロリストの司令官どもだけだな。
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