第71話 人質の選択
犠牲にする子供を選ぶ役か、選ばれた以上しっかりと役割をこなさないとな。どちらにせよ我ら教団以外の異教徒がどれだけ死んだところでなにも問題はないか。
バタンッ
人質どもを集めている駅構内に入る。シャッターはすべて閉じており、広い駅のホールの真ん中に人質どもが100人以上いる。そして武装した我が同志達が人質達の周りを取り囲んでいる。
くっくっく、どいつもこいつも怯えた顔をしていやがるな。こんな平和な国でぬくぬく育ったやつらなら当然か。道端に死体が転がっていて、常にその日の飯にすら困り、死と隣り合わせになっている我が祖国とは天と地との違いだ。このふざけた理不尽な差に吐き気がしてくるぜ。
さて、どのガキにするかな。赤ん坊まで幼すぎないほうがいいか。男と女、まあそれはどちらでもいいだろ。おっ、そこにいる男のガキがちょうどいい。ビクビクと震えながら今にも泣きそうな面をしていやがる。世界に放映するなら泣き叫んでいるガキのほうがいいな。
「おい、そこの子供。こちらに来い」
我らは日本に潜伏してからこの日のために長い時間をかけて準備をしている。多少発音はおかしいが、同志の半数以上が日本語をマスターしている。
「ママ……」
「お願いします! 子供だけは許してください、私が行きますから!」
ガキを庇うように抱きしめているのは母親か。どうやら父親はいないようだな。
「安心しろ、人質交渉のためにひとり解放するだけだ。上にいる人質からもひとりだけ解放する」
もちろんそんなことは大嘘だが、これで子供を喜んで差し出すだろう。
「それなら、俺を解放してくれ! 俺はただの無職で人質の価値なんてないんだ」
「お願い、私を解放してよ! もうこんなの耐えられないわ!」
「いや俺だ! 頼む、金ならいくらでも払うから助けてくれ!」
他の人質どもが騒ぎだす。我先にとうるさいやつらだ。自分さえ助かれば他のやつはどうでもいいのだろう。これだから人間というものは醜い生き物だ。
「おまえらはまだだ! 国が我らの要求を呑むたびに少しずつ人質を解放する予定だ。大人しく国が我らの要求に従うことを祈っていろ」
我らの要求が通れば半分以上の人質は解放されることとなる。
「どうか私も一緒にお願いします!」
「駄目だ、その子供ひとりだけだ」
「……でしたら他のかたにお譲りします。私はこの子と一緒にいさせてください」
「なら頼む、俺を解放してくれ!」
「お願い、私を!」
ちっ、俺の嘘がバレたのか? それともただガキと離れたくないだけかはわからないが、どちらにせよ面倒だ。他の人質どもも騒ぎ出してきた。
「いいからそのガキを渡すんだ。悪いようにはしない」
「っ! お願いします、私が行きますから! どうかこの子だけは許してください!」
……ちっ、面倒だ。ガキを自分の後ろに隠しやがった。これはもう無理やり連れていったほうが早い。
「おい!」
人質を取り囲んでいた同志のひとりに目で合図をする。俺の意図を汲んだ同志が近付いてくる。
「お願いします! この子だけは、この子だけは……」
ガキを庇って前に抱きしめて背を向けるガキの母親。泣かせるねえ。しまったな、このガキを庇う母親の姿を動画に撮っておけばよかったか。それと一緒にガキを殺す動画を流したほうが、より見せしめになったな。
「おら、手間取らせるなよ」
同志が母親の身体を力尽くで押さえる。無駄に強い力だな。ようやく同志が母親を引き離している間にガキを確保することができた。
「ママー!」
「いやあああああああ!!」
ったく、うるせえ母親だな。だがようやくガキを確保できた。あとはこのガキを同志に引き渡せば俺の仕事は終わりだな。
「どけえええええええ!!」
「がふっ……」
「んなっ!!」
やかましい母親を抑えていた同志が何かに吹き飛ばされた。なんだ!? なにが起きている?
「ごふっ……」
そしてそれは俺の身にもすぐに起こった。目の前にいたわけのわからない格好をしているやつが、消えたと思った瞬間に人間のものとは思えない力で吹き飛ばされた。
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